一度乗るとガソリン車には戻れない

ワークショップの合間に、すでに欧州で販売されているe-tronにアウトバーンで試乗した。95kWhの大容量バッテリーを搭載した、全長×全幅×全高=4901×1935×1616mmというボディーの車両重量は2490kgと重量級。それでもシステム最高出力408PS(300kW)、システム最大トルク664N・m(67.7kgf・m)とパフォーマンスは十分なので、速度無制限区間の追い越し車線をわが物顔で突っ走ることができた。“エコカー”のBEVでこんな走りをするのもどうかと思いつつ、e-tronの完成度の高さには舌をまいたというのが正直なところ。一度でもこのハイパフォーマンスBEVを体験してしまうと、エンジン車には戻れなくなりそうでもあったのだ。

もっとも、感心したのは速さというよりシャシー性能の高さだった。e-tron試乗の前後に、それなりに優秀なエンジン車で同じようにアウトバーンを走っているのだが、その差は小さくなかった。e-tronはバッテリーがフロアに敷き詰められ、しかも前後アクスル内に収まっているため、低重心でヨー慣性モーメント的にも有利。さらに、エンジン車はよくできていたとしてもマウントで車体と連結しているパワートレインの揺動などが、どうしてもつきまとう。高速走行中に路面の荒れや横風などの外乱によって進路が乱されると、修正舵が多くなるのだ。e-tronはそういったもどかしさがまったくなく、200km/h近い超高速巡航でも最小限の修正舵で文字通り矢のように突き進んでいくのだった。

エンジンよりも緻密な制御ができるモーターならば、トルクベクタリングをはじめとする駆動コントロールも自由度が高まる。シャシーを開発するエンジニアやダイナミクス性能を評価するテストドライバーなども、BEVに出会ってしまったらエンジン車を過去のものと思い始めるのではないか。そんな気さえするのだ。

アウディは原材料の採掘、生産、クルマの利用、再生可能エネルギーへの転換など、自動車にまつわるライフサイクル全体で、CO2の排出量と吸収量を“プラスマイナスゼロ”とするカーボンニュートラルを目指しており、その一環として、電動化を進めると表明している。2025年までに対2015年比で30%削減、2050年にはカーボンニュートラルという目標を立て、持続可能なモビリティーを実現するという。

ただ、それだけではなくエンジン車ではできなかったことの実現、BEVだからこそできる新たなクルマづくりを楽しんでいるようにも思える。環境対応だけではない、生粋のカーガイとしての本音が、透けて見えるような気がしてならないのだ。

(文=石井昌道/写真=アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)

今回のワークショップでは「e-tron」に試乗する機会もあった。システム出力408PSの電動パワートレインを搭載する、高性能BEVである。
今回のワークショップでは「e-tron」に試乗する機会もあった。システム出力408PSの電動パワートレインを搭載する、高性能BEVである。拡大
独ブリュッセル工場にて、最終検査ラインを流れる「e-tron」。同車は欧州ですでに販売が開始されている。
独ブリュッセル工場にて、最終検査ラインを流れる「e-tron」。同車は欧州ですでに販売が開始されている。拡大
「e-tron」は車体の底部、前後軸の間に重量物であるバッテリーを搭載。この構造が、車両の低重心化と慣性モーメントの低減に寄与している。
「e-tron」は車体の底部、前後軸の間に重量物であるバッテリーを搭載。この構造が、車両の低重心化と慣性モーメントの低減に寄与している。拡大
内燃機関と比べて緻密なコントロールが可能な電動モーターであれば、より高度なシャシー制御が可能となるかもしれない。
内燃機関と比べて緻密なコントロールが可能な電動モーターであれば、より高度なシャシー制御が可能となるかもしれない。拡大
「アウディe-tron」と筆者。
「アウディe-tron」と筆者。拡大
あなたにおすすめの記事
新着記事