ポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモ(4WD/8AT)
“いいモノ感”にあふれてる 2019.11.11 試乗記 ポルシェの「パナメーラ スポーツツーリスモ」に追加設定された「GTS」は、「4S」と「ターボ」の間に位置するモデル。最高出力460PSの4リッターV8ツインターボエンジンとワゴンボディー、そして強化された足まわりの組み合わせは、どんな走りを味わわせてくれるのか?濃厚なるフィット感
ちょっと不思議なドライブフィールだ。前を見て運転していると、ライトウェイトスポーツとは言わないまでも、ミドルクラスのスポーツカーの感覚だ。ところが、ふっと隣に目をやると、助手席ははるかかなたにあって、めっちゃ幅が広いクルマであることがわかる。信号待ちで後席を振り返ると、そこに座る人に声が届かないぐらいリアシートは遠い。
でも、再び前方を注視してドライブすると、ミドルクラスのスポーツカーに変身する。VVT(可変バルブタイミング)ならぬVBS(可変ボディーサイズ)だ。
でっかいのに、ブカブカせずに体にタイトにフィットする。「ポルシェ・パナメーラ」は元からそういうモデルだったけれど、この新しいGTSはそうした感覚がさらに濃厚だ。
パナメーラが冠する“GTS”というグレードを簡単に説明すれば、「パナメーラ4S」(最高出力440PS)と「パナメーラ ターボ」(同550PS)の間ということになる。GTSが積む4リッターV型8気筒ツインターボエンジンの最高出力は460PSで、先代GTSの4.8リッターV8自然吸気ユニットを20PS上回る。
GTSグレードはセダン版のパナメーラにも設定されるけれど、今回試乗したのはステーションワゴンタイプのスポーツツーリスモである。荷室はキャンプでもスキーでもなんでも来いの使い勝手と余裕の広さとで、それを眺めてから運転席に座って運転すると、その広々としたワゴンっぽさとスポーツカー感覚とのギャップにまた不思議な気分になる。
優秀な足まわり
ホイールまでドイツ人の大好きなグリーンに塗られた“緑一色(リューイーソー:ソーズの緑色だけの牌と発のみでそろえた役)”、マージャンなら役満のパナメーラの試乗を開始して真っ先に感じるのは、望外の乗り心地のよさ。足まわりはもちろんソフトではないけれど、路面の凸凹(でこぼこ)を通過する際に足がきれいに伸び縮みして、衝撃を吸収している。
もうひとつ、車体がしっかりしていること、いわゆる剛性の高さも乗り心地のよさに貢献している。デカくて開口部の多いワゴンスタイルにも関わらずボディーはがっちりしており、高速コーナーを曲がりながら路面のつなぎ目を突破するような、クルマにとってイヤな場面でも車体がねじれたりしない。ボディーがねじれないから、4本の足が正しく接地する。結果、乗り心地のよさと車体の安定がもたらされる。
ラグビーのワールドカップばかりみていたせいもあって、体幹のしっかりしたラガーマンがやわらかく膝を使いながら敵陣を突破するシーンを思い出す。緑一色だからアイルランド代表か。
後述するけれど、パナメーラGTSスポーツツーリスモは車高を10mm低めたスポーツサスペンションが標準で、今回の試乗車はそこに前275/35ZR21、後ろ315/30ZR21というぶっとくて薄いタイヤを履く。どう考えても乗り心地は期待できそうもないのに、市街地から高速道路までこれだけ快適に走れるのは、アダプティブエアサスペンションとそれをマネジメントするPASM(ポルシェアクティブサスペンションマネージメント)とのコンビが優秀であるからだ。
このコンビが何をするかといえば、走行状況に応じて瞬時に、かつ連続的にダンパーの減衰力を調整するのだ。だから低速から高速まで、速度域を問わずにびしっとフラットな姿勢を保ちつつ、突き上げをさらっと受け流すことができる。
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カムに乗るフィーリング
1800rpmという低回転域から620N・mものブ厚いトルクを発生するV8ツインターボエンジンは、街中でも乗りやすい。青信号に変わった瞬間に軽くアクセルペダルに足を載せると、スムーズかつ静かに速度を上げる。粛々と、という表現がぴったりの所作で、ストップ&ゴーの連続も苦にならない。
ただし、ドライバビリティーがいいとか、パワフルだというのは、いまやあたりまえ。CO2の排出量や排ガスのエミッションを考慮するのも自動車メーカーとして当然の務めだ。
ポルシェはこのエンジンに、そういった“ルーティン”とは別の課題を与えたように感じる。それは「ドライバーにドラマを感じさせる」というものだ。
低速域から滑らかに回転を上げるエンジンは、3500rpmを超えたあたりから少し表情が変わる。タコメーターの針が盤面を駆け上がる速度が増し、同時に「コーン」という抜けのよい排気音が耳に入ってくる。加速フィールは昔のターボエンジンにありがちな、ドン! と蹴飛ばされるタイプではなく、ジワーッとシートに体が押しつけられるタイプ。要は、自然吸気の大排気量エンジンのように加速するのだ。「カムに乗る」という懐かしい言葉を思い出す。
静かで、滑らかで、パワーがあって、環境にも対応したその先に、ポルシェはターボエンジンに官能性とエンタメ性を与えた。CASEだMaaSだPOVだという言葉が飛び交う昨今、高価なクルマには面白みや味わいがなければ意味がないわけで、音もパワー感も心地よいGTSのV8ツインターボにふれて、あぁなるほどと感心するのだった。
すべては自分の手の内に
快適だしエンジンもキモチいいけれど、やっぱりほかの高級サルーンとの違いをはっきり感じさせるのは、曲がりくねった道に入った時だ。もちろん日本サイズのワインディングロードでは持っているパフォーマンスの何割かしか発揮していない。けれども、いいクルマは30km/hで走っても楽しいように、パナメーラGTSスポーツツーリスモは山道をちょこっと気合を入れて走るぐらいでも、“いいモノ感”がビンビンと伝わってきてスカッとする。
“いいモノ感”を感じさせる最大の理由はハンドルからのインフォメーションだ。重すぎもせず、軽すぎもせず、でもちょっと重めかなという手応えのハンドルを切ると、タイヤがどういう状態で路面と接し、どの方向を向き、次にどんなふうに車体が動くのかが、はっきりと見えるのだ。だから自信を持って、リラックスして、そして楽しくハンドル操作を行える。この気持ちよさと“いいモノ感”は、ぶっ飛ばさなくても、例えば近所のタバコ屋コーナーを曲がる瞬間にも感じられる。
そして冒頭にも記した通り、ワインディングロードでのパナメーラGTSスポーツツーリスモは、ボディーサイズを忘れさせる。キュキュッと引き締まったコーナリングフォームには、ハイテクが大いに貢献している。前述したエアサスとPASM、基本はFRで必要に応じて前輪にもトルクを配分するアクティブ4WDシステム、左右の後輪のトルク配分によって曲がりやすくするトルクベクタリング、後輪操舵などなど。
ドライバーはそういったハイテクがフル稼働しているとはつゆ知らず、運転に熱中しているわけではありますが、これだけ質量があってパワフルな物体が動いているのに、一切の粗さや野蛮さを感じさせないあたりは、スゴいとしか言いようがない。
頭のてっぺんから足のツメの先まで、神経が行き届いた繊細な乗り物で、やはりこのクルマはセダン/ワゴンをスポーティーに仕立てたものではなく、スポーツカーにそれらの姿形を与えたモデルなのだと実感した。ボンネットの先っちょからテールランプまで、自分の手の内に収めていると感じることができる。“911”感、強し。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5053×1937×1422mm
ホイールベース:2950mm
車重:2025kg(空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460PS(338kW)/6000-6500rpm
最大トルク:620N・m(63.2kgf・m)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)315/30ZR21 105Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:10.6リッター/100km(約9.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1935万円/テスト車=2290万4000円
オプション装備:右ハンドル仕様(0円)/ボディーカラー<マンバグリーンメタリック>(0円)/レザーインテリア<ブラック/スムーズレザー仕上げ>(0円)/8段ポルシェ ドッペルクップルング<PDK>(0円)/インテリアトリムパッケージ コントラストカラーステッチ(45万4000円)/スポーツデザインパッケージ ブラック塗装仕上げ<ハイグロス>(5万7000円)/断熱遮音プライバシーガラス(30万8000円)/エクステリアミラー<ハイグロスブラック>(7万3000円)/ドアハンドルインレイペイント仕上げ(2万円)/リアアクスルステアリング<パワーステアリングプラス含む>(29万2000円)/21インチエクスクルーシブデザインホイール<エクステリアカラー同色>(42万円)/ポルシェ・エントリー&ドライブシステム(17万9000円)/ソフトクローズドア(11万5000円)/ヘッドアップディスプレイ(24万円)/4ゾーンクライメートコントロール(25万1000円)/14ウェイパワーシートメモリーパッケージ(0円)/8ウェイリアコンフォートシート<メモリーパッケージ>(37万8000円)/マッサージ機能<フロントおよびリア>、シートベンチレーション<フロントおよびリア>(68万9000円)/フロアマット(3万円)/ペイントキー、アルカンターラキーポーチ(4万8000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1993km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:274.2km
使用燃料:35.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。