クルマは活躍させてこそ

開け放たれたバックドア側には、人の役に立つ、もうひとつのヤリスの新装備が付いていた。車いすの電動収納装置である。これまでも、ヤリスより大きな他モデルには「車いすの利用者を助手席に導いたあと、乗ってきた車いすを縦に積み込む装置」はあった。今回のものは、車いすを横方向に倒しつつ、コンパクトハッチバックの荷室へと引き込む。狭い道を行ける小さなヤリスでこの装置が使えるのは、非常に大きいといえる。

「でも、車いすくらい、自力でヨイショと荷室に入れられるんじゃないか?」 そう思った筆者は、高齢化社会に対する認識が甘いのだった。実際は「85歳の母を60歳の娘が介護する」といった“老々介護”の状況が多く、車いすの積み込みをサポートするシステムはますます重要になっているという。そういう現実とユーザーニーズを中川さんは、販売店からの通知を待つのではなく、車両が使われる現場を自分から見に行って認識している。

「すでに使ってくださっている方はもちろんですが、本当はね、まだ使われていない人――高齢者の話で言うと、サポートが必要なのに『自分は縁がない』と考えている99%の皆さん――の声を聞きたいんです。でも、そういう方のニーズをクリアにするのはなかなか難しいから、『こんなのが求められているんじゃないかな?』という試作品をまずはつくってしまって、それに対する反応を見ることも多いですね」

大トヨタとはいえ、そこは企業。試作については、予算その他、難しい制約もありそうだが……。その点、「今できていないことにチャレンジする仕事なので、会社も応援してくれています」と中川さんは笑顔で答える。長年取り組んできたウェルキャブの反響も後押しして、現在はストレスのない福祉系開発ができているのだそうだ。

そんな中川さんの名刺には、「トータルソリューション事業室」の肩書も記されている。近年の事例では、過疎化によりバス路線が廃止された地方でお年寄りが“引きこもり”にならないよう、ミニバン「ノア」の福祉車両を使った代替交通網の実証実験を行った。車両のドライバーは地元の有償ボランティアだから、外出でお年寄りの健康寿命が延ばせるだけでなく、地方自治体の予算を圧迫することなく雇用や仕事のやりがいを創出できる。既存のバスよりも小さなボディーの“コミュニティーバス”は細い道にも入っていけるので、地元の道に精通したドライバーが、バス停といわず自宅前まで送迎してくれるのがありがたい。結果、秋田・横手市のケースでは、路線バス比で利用者数が倍増したという。

「会社としても“カーメーカーからモビリティーカンパニーへ”とうたっていますけれど、現実問題、クルマがどう活躍できるかというところまで取り組んでいかなければならないと思っています」と中川さんは言う。

トヨタが「もっといいクルマをつくろうよ」の精神で事業展開しているというのは、近年よく耳にすること。今度のヤリスを含め、「もっといいクルマ社会」「もっといいカーライフ」も創出できるか。地道な取り組みの成果に、もっともっと期待したい。

(文と編集=関 顕也/写真=田村 弥、webCG)

「ターンチルトシート」と「車いす収納装置」を装備した新型「ヤリス」のプロトタイプ。
「ターンチルトシート」と「車いす収納装置」を装備した新型「ヤリス」のプロトタイプ。拡大
「車いす収納装置」の操作風景。車内に収納するには、折り畳んだ車いすのフロントを写真のように持ち上げてフックに掛け、電動スイッチを入れるだけ。
「車いす収納装置」の操作風景。車内に収納するには、折り畳んだ車いすのフロントを写真のように持ち上げてフックに掛け、電動スイッチを入れるだけ。拡大
装置のサポートにより、車いすはまず写真の位置まで引き上げられる。この後、さらにスイッチ操作で奥へとスライドさせて、収納完了となる。
装置のサポートにより、車いすはまず写真の位置まで引き上げられる。この後、さらにスイッチ操作で奥へとスライドさせて、収納完了となる。拡大
車いすを所定の位置におさめた状態。力のある男性からすれば「わざわざ装置を使わずに、ひょいと持ち上げれば済むこと」と思われそうだが、老々介護の現場では、この電動サポートこそが頼みの綱になってくる。
車いすを所定の位置におさめた状態。力のある男性からすれば「わざわざ装置を使わずに、ひょいと持ち上げれば済むこと」と思われそうだが、老々介護の現場では、この電動サポートこそが頼みの綱になってくる。拡大
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