トヨタ・カローラ ツーリング ハイブリッドW×B(FF/CVT)
素材のよさがあればこそ 2019.11.21 試乗記 2019年9月の発売以来、好調なセールスを記録している「トヨタ・カローラ ツーリング」。今や希少な国産コンパクトワゴンは、過去のモデルにはない新しさの中にも、広く受け入れられるスタンダードなキャラクターが感じられるモデルに仕上がっていた。シリーズで最も人気のワゴンモデル
何かと話題のカローラである。「プリウス」や「C-HR」などと同じ「GA-Cプラットフォーム」の採用、初の3ナンバー化、日本独自仕様のボディー、ワゴンモデルの「フィールダー」から「ツーリング」への名称変更など、トピック満載だ。日本を代表する大衆車だけのことはある。
2019年10月の車名別月間販売台数では3位に食い込み、売れ筋の軽スーパーハイトワゴンに伍(ご)して健闘している。発売から1カ月でセダン・ワゴン合わせて受注が1万9000台を突破した。そのうち1万3700台がツーリングである。カローラシリーズの過半を占めるという人気だ。ワゴン市場もシュリンクしているが、セダンやハッチバックよりは元気ということだろう。東京モーターショーでプロトタイプが発表された新型「スバル・レヴォーグ」が登場するのは2020年中頃になるようだから、同セグメントの競合車種はしばらく不在になる。
試乗したのは「ハイブリッドW×B」。最上級グレードという位置づけである。ボディーサイズが拡大したというが、ひと目見てそれほど大きいとは感じなかった。海外バージョンよりひとまわり小さくした努力が実ったのだろう。せっかく幅を狭くしたのだから、「ナロー・カローラ」と呼びたいところだ。
幅よりも印象的なのは、低さである。黒ホイールのヤンチャ感と相まって、うっかりすると改造車に見える。駐車枠に止める時は、車止めに当たらないか心配になった。GA-Cプラットフォームは低重心化に役立っているというが、ビジュアル的にこんなに低く見えるのは初めてだ。ハッチバック版の「カローラ スポーツ」も驚くほどには低く見えなかった記憶がある。ワゴンというオーソドックスな車型だからこそ、低さに意外性があるのかもしれない。
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内外装はスタイリッシュかつスポーティー
低い構えの恩恵もあって、とてもスタイリッシュな外観だ。荷室容量を最優先するゴリゴリの実用車ではないから、ルーフラインは緩やかなカーブを描いて下がっていく。それに対し、サイドウィンドウはリアに向けて上昇し、躍動感を演出している。スタイルを重視したことで、先代モデルの「カローラ フィールダー」より荷室容量が減ってしまったのは仕方がない。通常時392リッター、最大で802リッターを確保しているから、実用上は問題ないだろう。
インテリアははっきりとスポーティーなしつらえである。ダッシュボード上面はすっきりフラットになっており、前方視界は良好。鮮やかな発色のオプティトロンメーターが若々しさをアピールするが、パネル表皮に用いられている素材は上質で大人っぽい。しっとりした感触で、ていねいに細かなステッチが施されている。30代から80代まで幅広いユーザーをターゲットにしなければならないので、こういうバランス感覚が必要なのだ。
旧型からの乗り換えだけでなく、カローラシリーズには他モデルからの移行も期待されている。もうすぐ買えなくなる「プレミオ/アリオン」や「マークX」の受け皿となる可能性は高い。サイズ感がほぼ一緒の先代プリウスから移ってくる顧客も多いだろう。カローラには、小型セダン/ワゴンのマーケットを一手に引き受ける使命があるのだ。
ハイブリッドシステムには、先代の1.5リッターではなく1.8リッターエンジンが使われている。ボディーが大きくなったことに伴ってパワーユニットも強化され、明確に車格がひとつ上がったという感じがする。現行プリウスと同じものだから、慣れ親しんだ感覚である。低速では静かで穏やかな振る舞いを見せ、いざというときにはモーターが力強く支援する。
柔らかで優しい乗り味
はっきり異なるのは、乗り味が優しいことだ。プリウスもGA-Cプラットフォームの採用でNVHが劇的に改善したが、カローラ ツーリングはさらに上を行く。盤石なシャシーを生かし、路面変化を柔らかに受け止める。カローラ スポーツ発売時から、熟成を重ねた成果のようだ。
高速道路での安定性も申し分ない。GA-Cプラットフォームは見た目以上に低重心を実現しているので、高速コーナーで路面にピッタリと吸い付いている安心感がある。試乗日は台風直後だったので山道は走れなかったのだが、ワインディングロードでも俊敏な動きを見せてくれそうだ。走行中のロードノイズや風切り音はしっかりと抑えられていて、合格点である。
ボディーサイズの拡大で懸念されたのは、街なかの狭い道での取りまわしである。先代モデルから50mm幅が広くなっているわけだが、試乗では特に不便は感じなかった。実際にはガレージのサイズがギリギリだったり、家の前の道が狭かったりして、50mmの差がクリアできないというケースもあるだろう。プレミオ/アリオンが消滅して5ナンバーセダンがなくなってしまうという状況は困るというユーザーも多いに違いない。これから新たな選択肢が提案されるのだろうか。
予防安全パッケージ「Toyota Safety Sense」が標準装備されており、プリクラッシュセーフティーシステムは自転車や歩行者にも対応した。こうした先進安全装備は、今や必須のものとなっている。新型カローラの新しい試みは、ディスプレイオーディオを全車標準装備したことだ。スマートフォンと連携し、アプリを操作することができる。
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LINEカーナビに悪戦苦闘
無料のナビアプリ「LINEカーナビ」が使えるというので、早速試してみた。設定画面にアイコンが現れたので起動しようとするが、指で触れても反応しない。取扱説明書を見てみたら、まずスマートフォンに専用アプリをダウンロードしておく必要があった。それが「スマートデバイスリンク(SDL)」で、自動車とスマホをつなぐための基盤となる技術だということだ。トヨタとフォードが立ち上げたSDLコンソーシアムが仕様を管理しているオープンソースプラットフォーム規格である。
SDLをダウンロードしてもまだ起動しない。事前にBluetoothも設定しておかなければならなかったのだ。30分以上悪戦苦闘し、見事にLINEカーナビを画面に呼び出した。AI技術搭載で、音声コントロールができる。音声認識は完全ではないが、どのシステムもまあこんなもの。目的地を設定し、案内を開始した。
ナビはストレスなく機能したが、Bluetoothオーディオが使えなくなってしまった。同時に両方の機能を使うことはできないのだろうか。最初は見えていたApple CarPlayのアイコンもどこかへ行ってしまった。解決する方法はあるのかもしれないが、触ってみただけではわからない。取説を読み込まないと、使いこなすのは難しそうだ。改善点はあるだろうが、スマホ連携はこれから重要になってくる機能だろう。SDLコンソーシアムにはスバルやマツダ、PSAなども参加しているから、対応するクルマがだんだん増えていくことになる。
新しいことに取り組んでいるものの、カローラはスタンダードなクルマであり続けている。とがったところはなく、誰にでも愛されるキャラクターだ。人気南インド料理店「エリックサウス」などのメニュー開発を手がける一流料理人の稲田俊輔氏は、ファミレスの「サイゼリヤ」の美点を「おいしすぎないおいしさ」と評しているが、それに通ずるものがある。稲田氏によれば、サイゼリヤには「素材さえよければムリな底上げは必要ないという強烈な自負」が見て取れるという。GA-Cプラットフォームという上質な素材を使い、シンプルな味付けを施したクルマがカローラなのだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ ツーリング ハイブリッドW×B
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1745×1460mm
ホイールベース:2640mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:72PS(53kW)
モーター最大トルク:163N・m(16.6kgf・m)
システム総合出力:122PS(90kW)
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ヨコハマ・ブルーアースGT AE51)
燃費:30.8km/リッター(JC08モード)/25.6km/リッター(WLTCモード)
価格:279万9500円/テスト車=332万6026円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/シート表皮<合成皮革+レザテック[ホワイト]>+ステアリングヒーター+シートヒーター<運転席、助手席>(2万8600円)/イルミネーテッドエントリーシステム<フロントコンソールトレイ、フロントカップホルダーランプ[LED]>(1万3200円)/カラーヘッドアップディスプレイ(4万4000円)/ブラインドスポットモニター<BSM>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>+オート電動格納式リモコンドアミラー<ヒーター、ブラインドスポットモニター付き>(6万6000円)/ディスプレイオーディオ<9インチディスプレイ+6スピーカー>(2万8600円)/ルーフレール<ダークグレーメタリック塗装>(3万3000円)/エアクリーンモニター+「ナノイー」(1万4300円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/トノカバー(2万5300円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3176円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<デラックスタイプ>(2万0900円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1450km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:488.7km
使用燃料:22.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費: 22.2 km/リッター(満タン法)/23.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。