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フレンチMPVの仁義なき戦い始まる! 「ルノー・カングー」と「プジョー・リフター」「シトロエン・ベルランゴ」を比較する

2019.11.27 デイリーコラム 渡辺 陽一郎
プジョー・リフター
プジョー・リフター拡大

これまで「ルノー・カングー」の独り勝ちだった日本の欧州製MPV市場に「プジョー・リフター」&「シトロエン・ベルランゴ」という強力なライバルが送り込まれてきた。“新顔”の詳細を知るとともに、受けて立つカングーと機能や装備を比較した。

シトロエン・ベルランゴ
シトロエン・ベルランゴ拡大
「リフター」のサイドビュー。両側にスライドドアを装備する。
「リフター」のサイドビュー。両側にスライドドアを装備する。拡大
3座独立シートを採用する「ベルランゴ」の後席。カラーリングは異なるが、「リフター」の後席も同じシート形状となる。
3座独立シートを採用する「ベルランゴ」の後席。カラーリングは異なるが、「リフター」の後席も同じシート形状となる。拡大

3代目にして初の日本上陸

まずはリフターとベルランゴの車両概要を説明したいが、プジョー・リフターのシトロエン版がベルランゴであり、実質的に同じクルマである。以下は両車をひっくるめてリフターで統一して表記したい。

リフターは、プジョーが日本においてMPV(マルチ・パーパス・ビークル)というカテゴリーに初めてチャレンジするクルマだ。欧州市場では初代モデルが1996年にデビューして以来、トータルで330万台を超えるセールスを記録しているそうだ。現行モデルは3代目にあたる。

写真を見れば分かるとおり、プジョーの言う新カテゴリーMPVとはつまり、背の高いボディーにスライドドアを備えたミニバンタイプのクルマである。果たして、ミニバン大国である日本のユーザーに受け入れられるだろうか。

ボディーサイズは全長が4403mmだから、「ホンダ・フリード」より少し長い程度だが、全幅は1848mmだから同じホンダの「オデッセイ」よりもワイドだ。外観の存在感も強い。特にベルランゴは個性的で、なおかつ飽きのこないデザインに仕上げた。スライドドアは両側に備わっており、日本のユーザーにとってもなじみやすいだろう。

乗車定員は5人だが、後席は3座が独立したタイプで、ワイドな室内幅とも相まって大人5人が快適に乗車できるはずだ。後席を使った状態でも大容量の荷室が備わる。後席を畳めば車中泊もできそうだ。天井には大型マルチパノラミックルーフが備わり、ここはいかにもフランス車らしい。

エンジンは1.5リッター直4クリーンディーゼルターボで、最高出力は130PS/3750rpm、最大トルクは300N・m/1750rpm。まだ乗ったことがないので断言はできないが、動力性能の数値を見る限り、例えばマツダの1.8リッターディーゼルよりも、実用回転域における駆動力が高いようだ。トランスミッションはアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATを組み合わせる。

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リフターとカングーを徹底比較

リフターは日本のミニバン的なスタイルとパッケージングを備えているが、それ以上にルノー・カングーにソックリというのが、読者も含めた正直な印象ではないだろうか。ボディー全体のデザインだけでなく、空間効率や後席側のドアがスライド式になるレイアウトまで、ほとんど同じだ。

リフターとカングーを比べると、全長はリフターが120mmほど長く、ホイールベースも85mm上回るが、全幅は同程度だ。全高はリフターが30mmほど高い。カングーを長く、そして(少し)高くしたのがリフターということになる。

車内の造りも似ているが、インパネの周辺はやはり設計が新しいほうが洗練されている。リフターでは最新のプジョー車と同じ「i-Cockpit」を採用し、ベルランゴは機構こそオーソドックスだが、シトロエンの名に恥じない個性的なダッシュボードの造形が持ち味だ。

一方のカングーは、やはり質実剛健という表現が適切だ。飾り気はないものの、かといって足りないものも何もない。これぞ“運転席”という感じがする。

荷室の容量はリフターが5人乗車時で597リッター、リアシートを倒した状態で2126リッターなので、同660~2866リッターのカングーに分がある。最大積載容量で700リッター以上の差があるため、レジャーの種類によってはリフターでは用具を積み込めないというケースがあるかもしれない。とはいえ、どちらも十分すぎるほどの広さがあるうえ、天井まわりなどの収納スペースも豊富だ。リアゲートはカングーが観音開きタイプでリフターがハッチタイプとなるが、リフターの場合はガラス部分だけを開閉することもできる。

運転支援装備ではリフターが勝る。歩行者を検知できる衝突被害軽減ブレーキ(緊急自動ブレーキ)や車間距離を自動制御できるアクティブクルーズコントロール、車線維持をサポートするレーンキープアシストといった装備が潤沢だ。この種の機能でカングーに備わるのは緊急時ブレーキアシストのみとなる。

パワートレインはリフターが前述した1.5リッターディーゼルターボエンジン+8段ATに対し、カングーは最高出力115PS/最大トルク190N・mの1.2リッターガソリンターボエンジンに6段のデュアルクラッチ式AT、または6段MTの組み合わせ。スペック的にはリフターに分があるようだが、カングーでは6段MTが選べるところがポイントだ。

「ルノー・カングー」も両側にスライドドアを装備。フレンチMPVとしては先輩となるが、「リフター」&「ベルランゴ」よりも少し小さい。
「ルノー・カングー」も両側にスライドドアを装備。フレンチMPVとしては先輩となるが、「リフター」&「ベルランゴ」よりも少し小さい。拡大
「ベルランゴ」のダッシュボード。センターディスプレイは「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応する。
「ベルランゴ」のダッシュボード。センターディスプレイは「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応する。拡大
こちらは「カングー」のダッシュボード。質実剛健、これぞ“運転席”だ。
こちらは「カングー」のダッシュボード。質実剛健、これぞ“運転席”だ。拡大
「リフター」の荷室の容量は597~2126リッター。「ベルランゴ」も同じ容量となる。
「リフター」の荷室の容量は597~2126リッター。「ベルランゴ」も同じ容量となる。拡大
「カングー」の荷室容量は660~2866リッター。リアゲートは観音式。
「カングー」の荷室容量は660~2866リッター。リアゲートは観音式。拡大

選びたくなるのはリフターだが……

ここまで見てきたようにリフターとカングーには少なからぬ装備差があるが、その分はきっちりと価格に反映されている。リフターが336万円(ベルランゴは325万円)に対し、カングーは6段AT車が264万7000円(6段MT車は254万6000円)と、価格帯からすれば大きな違いがある。ただし、リフター&ベルランゴの場合は正式導入(2020年第3四半期)を前に先行発売された特別仕様車「デビューエディション」の価格であり、輸入車のこうした“初物”は装備を盛り込んだ豪華仕様となるのが常なので、カタログモデルはもう少し装備を簡素化した、戦略的な価格の仕様になるかもしれない。

そうはいっても、現時点で判明している装備内容を見る限り、積極的に選びたくなるのはプジョー・リフター&シトロエン・ベルランゴではないだろうか。安全装備が充実しているし、動力性能の高いディーゼルターボを搭載するから、幅広いユーザーに推奨できる。

一方のカングーは「これが欲しい!」と心に響いたユーザーに適する。推奨理由としてはちょっと苦しいところだが、理屈抜きで買いたくなるクルマに出会えるのは、とても幸せなことだ。

ユーザー同士が集まる「ルノー カングージャンボリー」が毎年行われているように、カングーには熱心なファンがついている。もちろん、プジョー車にもシトロエン車にもそれぞれ熱心なファンがいるのは確かだが、カングージャンボリーのリフター&ベルランゴ版が行われるようなところまで“ブランド”を育て上げるのは容易なことではないだろう。

(文=渡辺陽一郎/写真=プジョー、シトロエン、ルノー/編集=藤沢 勝)

「リフター」の荷室上部に備わる収納スペース。キャビン中央部(サンルーフの下)や前席上部にも収納が備わる。
「リフター」の荷室上部に備わる収納スペース。キャビン中央部(サンルーフの下)や前席上部にも収納が備わる。拡大
こちらは「カングー」の前席上部の収納スペース。荷室上部にも収納が備わっており、天井まわりに荷物をたくさんしまえるのはフレンチMPVにとって必須の要件のようだ。
こちらは「カングー」の前席上部の収納スペース。荷室上部にも収納が備わっており、天井まわりに荷物をたくさんしまえるのはフレンチMPVにとって必須の要件のようだ。拡大
渡辺 陽一郎

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。

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