殺人に向かないクルマ

しかし、犯人はミスを犯していた。腕にギプスをはめた男が荷物運びを手伝ってくれと話しかける姿が目撃されていたのである。障害者を装って同情を引き、油断したところを襲うという卑劣な行為だ。以前紹介した『ザ・バニシング -消失-』と同じ手口である。というか、映画のほうがこの事件から発想したのだろう。

その時に使われたクルマも見られてしまっていた。ライトブラウンの「フォルクスワーゲン・ビートル」である。犯罪とは縁遠いクルマだ。殺人向きのクルマとは思えない。彼の穏やかなルックスと同様、女性の警戒心を解くのに役立ってしまった可能性がある。さらに、犯人は名を尋ねられて「テッド」と答えていた。本名であるかどうかは不明だが、手がかりにはなる。ワシントン州にはビートルが4万2000台もあったが、容疑者は100人にまで絞り込まれた。

こういった詳しい捜査状況は、『テッド・バンディ』では明らかにされない。基本的にはリズの視点で物語が進むからだ。警察がどのように動いていたのかは、16年からNetflixで配信されている『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』で詳細に説明されている。監督は本作と同じジョー・バリンジャー。もともとドキュメンタリー畑の人なのだ。

1975年、テッドはユタ州でロースクールの学生になっていた。彼は無灯火で走行していたところを警察に止められる。もちろん、クルマはビートルだ。後部座席からは覆面や手錠が見つかり、彼は緊急逮捕された。ユタ州でも若い女性の失踪事件が起きており、誘拐未遂事件の容疑者とされたのだ。

©2018 Wicked Nevada,LLC
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「フォルクスワーゲン・ビートル」
フェルディナント・ポルシェ博士が設計した大衆車で、正式名称は「タイプ1」。ビートルというのはカブトムシに似たフォルムから付けられた愛称である。アメリカでは「バグ」と呼ばれて親しまれた。
「フォルクスワーゲン・ビートル」
	フェルディナント・ポルシェ博士が設計した大衆車で、正式名称は「タイプ1」。ビートルというのはカブトムシに似たフォルムから付けられた愛称である。アメリカでは「バグ」と呼ばれて親しまれた。拡大
 
第209回:ビートルに乗ったさわやかなイケメン殺人鬼『テッド・バンディ』の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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