意外な展開に直面か

デメオ氏がかつて手がけたアバルトと同様、クプラ車も既存のクルマをベースとして仕立てたものなので、成功すれば収益性が高い。

ただし、クプラの将来に関して、筆者としては気になることもある。

ヨーロッパの新興ブランドといえば、グループPSAのDSがある。だが、2019年の1~10月の時点での欧州販売は4万0430台であり、前年同期比も3.4%増にとどまる(データはACEA調べ)。それ以上に主要市場のひとつと位置づけた中国での極度の販売不振により、長安汽車との合弁工場の売却が模索されている最中である。

引き続きヨーロッパにフォーカスして考えてみよう。レクサスは、米国での高い知名度とは裏腹に、西欧でその名を知るのは自動車ファンのみに限られている。インフィニティに至っては、クルマ好きの間でもそれほど認知されないまま、2020年に西欧から撤退することが決定した。

このように欧州は、地球上でもかなり保守的なリージョンである。また、自動車に対する一般消費者の関心が低下している中、クプラブランドがどこまで浸透するかは未知数だ。

また、本連載の第629回で記したように、目下VWグループでは傘下ブランドの再編成を検討中とみられる。クプラは、アウディやポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーといったものと同列ではなく、あくまでもセアトに属する独立ブランドの扱いだ。だが、少しでも経営体制をスリムにしようとする流れに逆行する動きといえまいか。

加えて、2019年9月にドイツの『オートモビルヴォッヒェ』が関係者の話として伝えたところによると、VWグループは従来若者向けだったセアトブランドを、いうなればアルファ・ロメオ級までグレードアップすることを計画しているという。もし現実となると、クプラとセアトのブランドヒエラルキーが急接近してしまうことになる。

さらに12月上旬、新たなニュースが飛び込んできた。『オートモーティブニュース』が伝えたもので、「ルノーがルカ・デメオ氏をCEOとしてスカウトするかもしれない」というものだ。セアトの業績を成長させた手腕が評価されたものとみられる。実際、2019年の販売は前年比で2桁成長を達成し、過去最高を記録する見通しだ。

デメオ氏の移籍話が実現すると、クプラ立ち上げのあるじが不在となる。VWグループで、新ブランドがどのような立ち位置となるのか、今から興味のあるところだ。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、セアト/編集=藤沢 勝)

2019年の上海モーターショーでは、一汽大衆(中国第一汽車とフォルクスワーゲンの合弁)による新ブランドであるジェッタが発表された。そのいちモデルである「VS5」は、セアト/クプラの「アテカ」の姉妹車である。
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「ジェッタVS5」のリアスタイル。ジェッタは中国で、フォルクスワーゲンブランドよりも若い年齢層を開拓するために導入されたブランドだ。
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「ジェッタVS5」のダッシュボード。
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2019年のジュネーブショーで公開されたPHVのコンセプトカー「クプラ・フォーメンダー」。
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クプラがフォルクスワーゲン グループの中で、どのような立場と役割を示すことになるのか、注目される。
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ルカ・デメオCEO。セアトによる都市向けモビリティー「eスクーターコンセプト」とともに。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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