メルセデス・ベンツGLE400d 4MATICスポーツ(4WD/9AT)
とにかくデカイ! 2019.12.28 試乗記 最高出力330PSの2.9リッター(2924cc)直6ディーゼルエンジンを搭載した「メルセデス・ベンツGLE400d 4MATICスポーツ」に試乗。3列シートを備えた全長およそ5m×全幅2m超えの大柄なボディーとディーゼルの組み合わせは、どんな仕上がりだったのか?ボディーサイズが一気に拡大
今から20年以上さかのぼった、もはや“前世紀”となる1998年。メルセデス・ベンツのブランドにおいて初となるアメリカ工場で生産されたモデル、すなわち「プレミアムSUVというカテゴリーを創出した」と豪語する初代「Mクラス」が誕生した。そんなMクラスをルーツとするのが、同車3代目のマイナーチェンジを機に、名称変更によって登場した「GLE」である。最新型は、2018年のパリモーターショーで初公開された2代目にあたるものだ。
しかし、日本では2019年6月に発表されたこのメルセデスの最新SUVを目の当たりにしても、「Mクラスの後継」という前述のフレーズにはさして実感が伴わない。なぜならば初代Mクラスと最新GLEとの間には、全長で30cm以上、全幅でも20cm近いサイズの差が存在するからだ。こうなると、そんな両車はもはや同列には語れない印象である。そう、たとえそこに20年という時の流れがあっても、だ。
モデルチェンジのたびにボディーが大きくなるのは、一部例外を除けば確かに「世の潮流」と言ってもいい。ただし、それでも今度のGLEの場合、その成長ぶりはちょっと極端でもあった。
実際、全長は4.9mを超え、フェンダーフレアの張り出しが強い「スポーツ」の名称が加えられたグレードでは、全幅は2mをオーバー。こうした全幅のデータは、“兄貴分”である「GLS」のそれよりも今や大きいのである。
率直なところ、いまだ昭和時代の道路インフラも数多く残る日本の環境下では、走るところと止めるところをかなり選ぶと言わざるを得ないディメンションである。そんな「一気に大きくなった」新しいGLEに試乗した。
シリーズ最強のトルク
日本仕様の新型GLEは3グレードで構成される。当然ながら、すべてが「4MATIC」と呼ばれる四輪駆動システムを搭載し、前述のように全幅が2mをオーバーするスポーツの名が加えられた2つのグレードには、エアスプリングと電子制御式可変減衰力ダンパーの組み合わせからなる「エアマティックサスペンション」が標準採用されている。
すべてが9段ステップATと組み合わされるエンジンは、「300d 4MATIC」が2リッター(1949cc)の4気筒ディーゼル、400d 4MATICスポーツが2.9リッターの6気筒ディーゼル、「450 4MATICスポーツ」が3リッターの6気筒ガソリンと、3グレードでそれぞれ異なったもの。
6気筒エンジンのシリンダー配置は直列で、ガソリンエンジンにはトランスミッションとの間に作動電圧が48Vで最高出力が16kWのスタータージェネレーターがインテグレートされているのも、このモデルの技術的な特徴だ。
今回ステアリングを握ったのは330PSの最高出力を発生するディーゼルエンジンを搭載した400d 4MATICスポーツ。最高出力値ではガソリンモデルに及ばないものの、700N・mというその最大トルク値では「圧倒的なシリーズ最強エンジン」といえる存在だ。
3列目シートは非常用と割り切る
新しいGLEを目の前にしての第一印象は、やはり「何とも大きい!」というものだった。GLEがこれだと、次のGLSはどうなってしまうのか!? と、思わずそんな心配をしてしまうほどだ。
特に、ホイールベースの80mm延長も含め、一気に前後方向へと寸法が伸びた理由のひとつには、3列シートレイアウトの採用が挙げられる。ヨーロッパ向けではオプション扱いだが、日本仕様には3列目シートが標準装備されている。ただし、「だったらミニバン的にも使えるか」と思うのは早計というもの。3列目シートを用いればラゲッジスペースは「ほとんどゼロ」となってしまうし、3列目に大人が座ろうとするとヘッドスペースは何とか確保されても、足元はかなり窮屈で“体育座り”の姿勢を強要されることになるからだ。
ちなみに、そんな3列目シートへの乗降性確保のため、2列目シートには電動式のウオークイン機構が採用されるのは、さすがプレミアムブランドの最新作と感心する。けれども、元の位置へと戻す場合には安全のためにスイッチを押し続ける必要があるし、そもそもその動きは同じく安全のためとはいえ緩慢で正直少々まどろっこしい。
というわけで、やはりここは通常時はラゲッジスペースとして活用し、「緊急時に大人2人を乗せることが可能な場所」として考えるべき。ちなみに、3列目シート格納時のラゲッジスペース容量はVDA方式の計測で630リッター。さらに、40:20:40の分割でシートバックを前倒し可能な2列目シートを折りたたむと、その容量は1928リッターにまで拡大される。もちろん高さ方向にもゆとりがあるので、まさに「何でも積める」という印象だ。
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選ぶならディーゼル
かくも“巨大”なこともあって、車両重量もそれなり。2.4t超というその重さは、もはや機械式立体駐車場での重量制限にも注意が必要なボリュームだ。
一方で、ひとたびアクセルペダルを踏み込んでみると、そんなスペックがにわかには信じられない勢いで軽々と速度を増していく。これはひとえに──フリクションロスを大きく減らしたうえで大小2基のターボチャージャーを備え、かつそのプライマリー側には可変ジオメトリーという凝った構造を採用する──OM656型と呼ばれる最新世代の2.9リッターディーゼルエンジンが、ごく低回転域からよどみなく太いトルクを生み出すからである。加えれば、そんなエンジンの回転数が高まっていく過程での、いかにも「直6エンジンらしい」フィーリングにも、大いに感心させられた。
実は今回、スタータージェネレーター付きガソリンエンジンを搭載する450 4MATICスポーツも同時にテストドライブするチャンスがあった。が、個人的には「エンジンはディーゼル一択!」というのが実感。ましてや、車両価格はディーゼルの方が安いのだからなおさらの思いも抱いた。
ただし、こうして動力性能には感心させられ、静粛性の高さも特筆レベルなどとは認められたものの、時に路面凹凸を拾ってのブルブル感が強めであったり、ボディーの動き量が思いのほか大きめであったりと、このブランドの作品としては走りの質感に見どころが少ないと感じられたのも事実。
やはり、新型GLEのセリングスポイントは、“新しいパッケージング”を採用したことによる、キャビン容量の大きさにこそありそう。それだけに、あらためてエンジンの底力とそのフィーリングの秀逸さが目立つことにもなった、最新のメルセデスである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLE400d 4MATICスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×2020×1780mm
ホイールベース:2995mm
車重:2420kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:330PS(243kW)/36004200rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1200-3200rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113W/(後)275/50R20 113W(ミシュラン・ラティチュード スポーツ3)
燃費:11.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1109万円/テスト車=1136万6000円
オプション装備:メタリックペイント<モハーベシルバー>(9万3000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(18万3000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:558km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。