ヤリスは“現実的な解”

ヤリスの燃費向上は、ハイブリッドシステムの刷新もさることながら、軽量・高剛性のTNGA「GA-Bプラットフォーム」を採用しつつ、ボディー拡大を嫌って車重を抑えたことが大きい。ヤリス ハイブリッドの車両重量は、従来のヴィッツ ハイブリッドより10~50kgも軽い1050~1090kg(4WD車は1160~1180kg)である。その結果、WLTC「高速モード」でも33.4~33.6(FFの数値。4WDは28.0)km/リッターと良好な燃費を維持している。

国内でもグローバル名のヤリスを名乗ることになったニューモデルだが、そもそもが欧州をメインとした先進国向けに開発されたコンパクトカーである。保守的で愛国的な(!?)クルマ選びをするとされるヨーロッパでもここのところトヨタブランドは好調で、2019年は100万台超えが期待される(1~9月で77万7538台)。しかも販売されるトヨタ車の半数以上がハイブリッドモデルだ。かつては「高速走行が苦手」と欧州ユーザーから敬遠されたトヨタのハイブリッド車だが、システムの改善と環境意識の高まりによって、次第に受け入れられるようになっている。

2019年の春、トヨタは2万件を超えるハイブリッドシステムの特許を開放(無償提供)した。厳しくなる一方の排ガス(燃費)規制に対応するため、メーカー間で協力してシステムの底上げをしたい、と同時に、いわばTHSグループというべき勢力を形成する狙いもあろう。

EUの排ガス規制は、2020年にCO2排出量を現状の120.5g/kmから95g/kmに削減することを求めている。2021年以降のニューモデルは、この基準を満たさなければならない。利幅の大きなSUVや高級スポーツカーを売ろうとするなら、基準を超過したCO2を相殺するためにゼロエミッションとみなされるEVを相応数販売する必要がある。昨今、いささか急ごしらえが疑われるEVモデルが欧州ブランドから相次いでリリースされるのは、そのためである。

ただ、不便なうえ、明らかに開発途上のEVを買いたがるユーザーはいない。大衆は、充電のたびに優雅にお茶をしているヒマはないし、家屋に次ぐ高額の買い物となれば、おのずと財布のひもはかたくなる。規制は厳しくなれど技術が進歩する速度にはおのずと限りがあるから、EVのハンディを補う現実的な解決策としては、いまのところコストと重量の増加を度外視して大量に高性能バッテリーを積むしかない。そうしたクルマは、環境に悪いからと飛行機を忌避してヨットで大西洋を横断するような有閑富裕層には受けるかもしれないが、普及は望めない。一方、“一般向けの”電気自動車をラインナップするメーカーもあるけれど、国からの補助なしで商業的に成り立っているEVはないという。

となると、CO2排出量を抑えたい自動車メーカーは、活路を“みなし”EVに求めるしかない。具体的には、販売したハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に係数をかけて、EVに換算するわけだ。ただし多くの国で自動車は基幹産業だし、それぞれに得意な分野も異なるから、換算方法や係数の決定に「政治」が絡むことは避けがたい。だから、東洋の島国を発祥の地とするトヨタとしては、貴重な特許を公開してでも仲間を増やしておきたい。もしかしたら、2025年ごろには、トヨタのハイブリッドシステムを搭載した欧州ブランドのクルマが登場するかもしれませんね!?

(文=青木禎之/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
 

「ヤリス ハイブリッド」のインテリア。写真に見られるように、コンベンショナルなIゲート型シフトセレクターやレバー式のパーキングブレーキが採用されている。
「ヤリス ハイブリッド」のインテリア。写真に見られるように、コンベンショナルなIゲート型シフトセレクターやレバー式のパーキングブレーキが採用されている。拡大
双眼鏡型のメーターパネル。中央のインフォメーションディスプレイで、エネルギーフローが確認できる。
双眼鏡型のメーターパネル。中央のインフォメーションディスプレイで、エネルギーフローが確認できる。拡大
EVモードのセレクターは、パーキングブレーキレバーの横に配される。新型「ヤリス」のハイブリッドモデルでは、130km/hでのEV走行が可能となっている。
EVモードのセレクターは、パーキングブレーキレバーの横に配される。新型「ヤリス」のハイブリッドモデルでは、130km/hでのEV走行が可能となっている。拡大
新型「ヤリス」用に新開発された、ハイブリッドシステムの構成部品。写真左手前から、トランスアクスル、PCU(パワーコントロールユニット)、リチウムイオンバッテリー。
新型「ヤリス」用に新開発された、ハイブリッドシステムの構成部品。写真左手前から、トランスアクスル、PCU(パワーコントロールユニット)、リチウムイオンバッテリー。拡大
発展途上国向けのコンパクトカーとは別に、成熟した先進国のみを想定して開発された新型「ヤリス」。その先行きが注目される。
発展途上国向けのコンパクトカーとは別に、成熟した先進国のみを想定して開発された新型「ヤリス」。その先行きが注目される。拡大
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