規格化に対抗したリトラクタブル

ヘッドライトは、長い間丸型であることが常識だった。電球と反射鏡、レンズという3つの部品で構成されるライトは、丸型が最もシンプルでつくりやすかったのだ。すべてを一体化したのが、シールドビームと呼ばれるタイプである。大量生産に向き、互換性を持たせることができる。故障した場合の交換も容易だった。

アメリカでは1940年から規格化され、1983年まで新車への採用が義務付けられていた。日本車やヨーロッパ車も、アメリカ輸出用のモデルには規格に合ったシールドビームを装着しなければならなかったのだ。低価格化には有利だが、デザイン面では制約になってしまう。ヨーロッパでは、1960年頃から角型ヘッドライトが登場している。アメリカでも1970年代に角型シールドビームの規格が定められた。

1984年にアメリカでバルブ交換式を条件に規制が緩められると、さまざまな異型ヘッドライトが現れるようになった。トレンドを決定づけたのは、1995年に発売された「メルセデス・ベンツEクラス」である。楕円(だえん)形を2つ並べたヘッドライトは斬新で、保守的だと思われていたメルセデスが思い切ったデザインを採用したことが驚きを持って迎えられた。

規格を守ったまま新しいヘッドライトの形状を追求する試みもあった。ユニットごと格納式にしたリトラクタブルヘッドライトである。古くは1930年代に採用例があるが、本格的に流行したのは1960年代からだ。ノーズを低くすることができるため、スポーツカーによく装着され、ロータスやフェラーリ、ランボルギーニ、ポルシェなどに多く採用された。日本では「トヨタ2000GT」で初めて採用され、「トヨタ・セリカ」「ユーノス・ロードスター」「ホンダNSX」などもよく知られている例だ。

現在では、リトラクタブルヘッドライトを装着しているモデルは消滅してしまった。空力的に有利なようでも、格納時以外ではむしろ悪化するという事実があり、開閉機構が重量増につながってしまうのも弱点となる。異型ヘッドライトを使えるようになったことで、デザイン上の役割も小さくなった。何よりも衝突時の安全性に問題があることが泣きどころで、日本では3代目「マツダRX-7」を最後につくられていない。

アメリカではヘッドライトに互換性を持たせるべく、1940年にシールドビームが規格化された。
アメリカではヘッドライトに互換性を持たせるべく、1940年にシールドビームが規格化された。拡大
北米で販売された「メルセデス・ベンツ300SD」(1978年)。欧州仕様の「Sクラス」では角型のヘッドライトが備わるスペースに、片側2灯の丸いランプが備えられている。
北米で販売された「メルセデス・ベンツ300SD」(1978年)。欧州仕様の「Sクラス」では角型のヘッドライトが備わるスペースに、片側2灯の丸いランプが備えられている。拡大
1995年に登場したW210型「メルセデス・ベンツEクラス」。楕円形のヘッドライトが斬新で、大いに注目を集めた。
1995年に登場したW210型「メルセデス・ベンツEクラス」。楕円形のヘッドライトが斬新で、大いに注目を集めた。拡大
リトラクタブルヘッドライトを備えた「ポルシェ924」(1976年)。格納式のヘッドライトは、スーパーカーや高性能スポーツカーのアイコンとして持てはやされた。
リトラクタブルヘッドライトを備えた「ポルシェ924」(1976年)。格納式のヘッドライトは、スーパーカーや高性能スポーツカーのアイコンとして持てはやされた。拡大
日本車としては最後のリトラクタブルヘッドライト搭載車となった、3代目「マツダRX-7」。
日本車としては最後のリトラクタブルヘッドライト搭載車となった、3代目「マツダRX-7」。拡大
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