「セダン復活説」に異議あり!

それはセダン、イタリアでいうところのベルリーナである。

1996年に筆者がイタリアにやってきた頃、街ではセダンを頻繁に見かけた。イタリア系ブランドでは、アルファ・ロメオの「164」や「155」、さらにランチアの「テーマ」「リブラ」といった車種がポピュラーだった。

いっぽう今日、イタリアで購入できる国内外ブランドのセダンで、トランクが独立したクルマがどれだけあるか調べてみる。3万8000ユーロ(約465万円)以下に絞ると、13モデルしかなかった。ドイツ系ブランドを除くと、たった6モデルである。

ところが2019年10月29日、『オートモーティヴ・ニュース電子版』が興味深いリポートを掲載した。

「『SUVやクロスオーバーがクールである時代は、米国でも欧州でも終焉(しゅうえん)を迎えようとしている』と自動車メーカー幹部は考えている」というものだ。若者は、親の世代の持ち物とは別のものを持ちたがる、というのが理由である。

記事中では、そうしたボディー形状に代わるものはセダンであると日産自動車のデザイン担当シニアバイスプレジデントのアルフォンソ・アルバイサ氏が語っている。さらに同じく日産のイヴァン・エスピノーザ常務執行役員も、若者たちはSUVに”飽きている”ことが調査からも予見できると証言。ボルボ・カーズのホーカン・サムエルソンCEOも、より低く空力的なクルマを人々は無視しないとしてセダン人気の再来を暗示している。

しかし筆者は、この予測はヨーロッパでは当たらないと考えている。なぜなら、トランクを独立させる理由があまりにも見当たらないからである。

トランクルームを備えた3ボックスは格式感あるスタイルとして、1990年代まで一定の人気を獲得してきた。

背景にあるのは歴史だ。自動車史的観点からすると、トランクルームのルーツは、馬車時代に荷物を客室後方にくくり付けておいたことにある。さらに、テールゲートのように大きな開口部を設けるとボディー剛性が確保できなかった時代に、荷室を客室と分離することはある意味最適解であった。

第2次大戦後、「ワゴンは商用バンのように見られそうで嫌だ」という世代の人々にもセダンは支持されてきた。

しかし、時代は変化した。大きな開口部を設けてもボディー剛性は十分に確保できるようになった。

人々はイケアのような組み立て式家具を好んで購入するようになった。宅配が日本ほど便利ではない欧州では、その日のうちに積んで帰ったほうが手っ取り早い。

クルマの複数台所有が家計上難しくなると、おのずとスペースユーティリティーに優れた自動車が選ばれ、セダンが選択肢から落ちる。

隣国フランスもしかりだ。今回執筆するにあたり、あるルノーの関係者にコメントを求めると、「フランス人は『ルノー16』の時代からハッチバック車の利便性に慣れ親しんでいる」として、セダン人気が復活することには懐疑的だった。

ベルリンの壁崩壊後の経済成長で沸き立った東ヨーロッパは、やはり高級感があるという理由でセダンがもてはやされてきた。だが、その発展が頭打ちとなった今日、より利便性の高いテールゲート付きモデルにシフトしてゆくだろう。

5ドアハッチバックで限りなくセダンに近いスタイル、というデザイン的解決もすでに各社のモデルに見られるが、搭載できる荷物の容量からすると、正真正銘のハッチバックとワゴン、またはSUVにかなわない。

ゆえに米国はともかく、少なくとも欧州ではセダン人気の再来はかなり難しいだろう。

……と、ここまで書くと、クルマのスタイルはどこか閉塞(へいそく)感に満ちたもののように見えるが、筆者は楽天的である。

「ランチア・テーマ」は、イタリアにおける普及型高級セダンの歩みを通史で見た場合、最後のヒット作と言える。2003年撮影。
「ランチア・テーマ」は、イタリアにおける普及型高級セダンの歩みを通史で見た場合、最後のヒット作と言える。2003年撮影。拡大
東ヨーロッパのユーザーの間では、近年までセダン人気が根強かった。ルーマニアの「ダチア・ソレンツァ」はテールゲートを備えているものの、限りなく伝統的な3ボックス形状を反映していた。
東ヨーロッパのユーザーの間では、近年までセダン人気が根強かった。ルーマニアの「ダチア・ソレンツァ」はテールゲートを備えているものの、限りなく伝統的な3ボックス形状を反映していた。拡大
2005年にシエナで撮影した「アルファ・ロメオ166」。「164」の後継車として意欲的なデザインだったが、ドイツ車の攻勢に勝てなかった。
2005年にシエナで撮影した「アルファ・ロメオ166」。「164」の後継車として意欲的なデザインだったが、ドイツ車の攻勢に勝てなかった。拡大
「フォード・フォーカス セダン」。パリにて2005年に撮影。
「フォード・フォーカス セダン」。パリにて2005年に撮影。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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