第162回:新型ハスラーを買うならば
2020.02.11 カーマニア人間国宝への道新型「ハスラー」が欲しい!
話題の新型「ハスラー」は、なかなかすばらしいクルマだった。とにかくカッコイイじゃないか! カッコイイというよりデザインが秀逸じゃないか!
デザイン担当者は、「ハスラーらしさの継承と、力強さの強化を目指しました」と語っていた。具体的には、鉄板らしい力強さの表現を狙ったという。角Rは厚めの鉄板を曲げた時の丸みをイメージし、全体の造形では、灯油を入れるブリキの携行缶とか、ブリキの道具箱を参考にしたと。
世界的に見て、大量販売を狙う乗用車で、こういうデザインイメージのクルマは絶無ではなかろうか? あえて言えば「ジムニー」や「ラングラー」だけど、それらは本格派のクロカン4WD。ハスラーはそこらのニーチャンからおじいさん、おばあさんまで乗るクルマで、月に1万台以上売る。そういうごく一般的な乗用車で、ここまで道具っぽいデザインのクルマは稀有(けう)だ。これは、虚飾を捨てた実用機械を愛する日本人ならではの嗜好(しこう)である。
乗った感じも、先代に比べてかなりしっかりして、とてもよくなっていた。
でもまぁハスラーの美点の半分くらいはデザインにあるだろう。残りは実用性と走りが半々って感じですかね。
近年、国産の新型車はどれもこれも大層よくなっており、もはや走りがいいのはアタリマエとすら言えるが、デザインセンスが自分の好みにハマるクルマはそれほど多くない。ハスラーは自分のツボに来た一台だったので、言うまでもなく欲しくなった。
人間、モノが欲しくなればその値段を凝視するもの。私もハスラーの値段を凝視した。
185万円で買える中古車とは?
私が欲しくなったのは、デニムブルー&ガンメタの2トーンカラーの「Xターボ」(FF)。車両本体価格は約161万円である。この価格、「N-BOX」をはじめとするハイトワゴン系に比べると20万円くらい安い。でも、これに2トーンカラーと約18万円のナビとフツーのETCを付けると、約185万円になる。
185万円……。
185万円出して新車のハスラーを買うならば、他にもっといろいろ買えるクルマがあると考えてしまうのが、カーマニアというものではないだろうか。
最初に思い浮かんだのは、同じスズキの「スイフトスポーツ」(中古)だった。私が心底ホレ込んで、「スイスポを国民車に!!」キャンペーンを張ったほどの傑作だ。
が、中古車サイトを検索してみると、現行型スイスポは最安で約160万円。すでにナビなどの装備は付いてるので、ハスラーの新車よりは安いけれど、新車のスイスポは187万円(6MT)~194万円(6AT)。なら中古より新車がイイ! つーか、中古がもうちょっと安くなるまで待ちたくなる。
スイスポがダメなら逆転の発想で、遠いアコガレの高級激安中古車を探してみよう。
私が長らくアコガレているクルマ。それは現行型「ジャガーXJ」である。
イアン・カラムによるあのデザインは、登場から10年を経た今でも本当にスゲエ。ハスラーもスゲエがXJも超スゲエ。あれこそセレブ! あのセレブセダンがハスラーと同じくらいのお値段で買えないものでしょうか? そう考えただけでドキドキしてくるぜ!
アコガレのジャガーを探せ!
エンジンは4気筒2リッターターボを希望します。欲しいのは主にあのデザインで、動力性能はそんなに要りませんので。つーか今日び、どんなにデカいクルマでも2リッターターボで十分走る。税金もガソリン代も安いし言うことなし! なにせゲタに使う構想というか妄想ですのでご承知ください。
すると……。
走行距離がソコソコの、イケてそうな個体だと、2014年登録の走行3.1万kmが268万円。ハスラーよりちょっとお高い。
しかもこれは自動ブレーキやACCが付いてない個体だ。ハスラーには付いてるぞ! 超セレブセダンが先進安全装備でハスラーに完敗!? それはダメダメダメ!
自動ブレーキ&ACC付きのジャガーXJ(2リッターターボ)となると、2015年登録の走行4万kmで316万円が最安でございました。うーむ、300万円オーバーはキツイ。超セレブセダンがハスラーくらいの値段で買えないと真のシアワセはやってこない。
じゃ、ちょっとダウンサイジングして、同じジャガーの「XFスポーツブレイク」はどうでしょう? スポーツブレイクって超珍しいじゃんか! ほとんど見たことないけど超カッコイイよネ! 顔はXJソックリでステーションワゴンってのが実にシブイ! あれこそ真のスーパーセレブ! スーパーセレブだけど節約のディーゼル(D180)希望!
ガーン。最安で398万円でした。
なにせ2018年登録の1.2万km。新車価格741万円を思えば納得のお値段ながら、ハスラー2台分じゃ話にならん! すっこんでろ! いやもちろんXFスポーツブレイクには罪はござらぬのだが。申し訳なかとです。
こうなると、やはりイタフラ車に流れるしかないだろうか。カーマニアの妄想は続くのであった。
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。