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ホンダ・フィットの新開発4WDを試す

探求と発想の賜物 2020.03.10 だから新型フィットは心地いい<AD> 大谷 達也 いよいよ街を走りだした、新型「ホンダ・フィット」。フレンドリーなデザインや優れたユーティリティー性で話題だが、その走行性能も見逃せない。なかでも注目なのが、新開発のハイブリッドと4WDシステムの絶妙なコンビネーションが実現する心地いい走りだ。

両立しにくい課題を解決

「人がココチいいなら、クルマは嬉しい。」がキャッチフレーズの新型ホンダ・フィットには、ハイブリッドと“本格的な4WD”の組み合わせが用意されているのをご存じだろうか? 私はこの、まだあまり広く知られていない新型フィットのハイブリッド4WDモデルにいち早く雪上コースで試乗し、その効果を確認するとともにエンジニアから話を聞いてきたので、ここでその様子をリポートしよう。

本論に入る前に、コンパクトカーやハイブリッド車の4WDモデルに幅広く採用されているモーターアシスト式4WDについておさらいしたい。これらの多くはFWD(前輪駆動)車がベースで、後輪をコンパクトな電気モーターで駆動することにより4WDの効果を得ている。この方式は、コンパクトクラスで成立させるうえで、モーター出力が限られているため、発進時など速度域が低い状況でしか4WDが活躍できない。

これに対し、後輪をプロペラシャフトで駆動する本格的な4WDは全車速域でその効果が得られるが、メカニズムをレイアウトする都合でハイブリッドとの両立が難しいという課題があった。

ホンダは、コンパクトな2モーターハイブリッドシステムとセンタータンクレイアウトを生かして、プロペラシャフトを用いた本格的4WDをフィットのハイブリッド車に搭載。全車速域で4WDならではの安定性を確保しつつビスカスカップリングという4WDデバイスを用いてスペース効率を向上させ、Bセグメントのコンパクトカーでありながらハイブリッドとの両立を可能にした。

そんな新型フィットのハイブリッド4WDが雪上で見せた走りを続いて紹介しよう。

今回新型「フィット」に試乗したのは、雪に覆われた北海道のテストコース。4WD車の走りを確かめるには最高の舞台だ。
今回新型「フィット」に試乗したのは、雪に覆われた北海道のテストコース。4WD車の走りを確かめるには最高の舞台だ。拡大
新型「フィット」のハイブリッドシステムは、走行用モーター(写真中央)と発電用モーター(同右)の、2つのモーターで構成されている。
新型「フィット」のハイブリッドシステムは、走行用モーター(写真中央)と発電用モーター(同右)の、2つのモーターで構成されている。拡大
新型「フィット」の4WDシステムの構造図。独立した小型モーターを使って補助的に後輪を駆動するコンパクトカーが多いなか、同モデルはプロペラシャフトで前後アクスルを連結するという本格的なメカニズムを採用する。
新型「フィット」の4WDシステムの構造図。独立した小型モーターを使って補助的に後輪を駆動するコンパクトカーが多いなか、同モデルはプロペラシャフトで前後アクスルを連結するという本格的なメカニズムを採用する。拡大
先代に比べ、ハイブリッドユニットのモーターが発生するトルクは1.6倍にアップ。その結果、1.5リッター直噴ターボ車を上回る加速性能を実現している
先代に比べ、ハイブリッドユニットのモーターが発生するトルクは1.6倍にアップ。その結果、1.5リッター直噴ターボ車を上回る加速性能を実現している拡大

安心感の高さが違う

新型フィットのハイブリッドシステム「e:HEV」は基本的にモーターが前輪を駆動するシリーズハイブリッド方式である。高速走行などではエンジンが直接前輪を駆動して効率をさらに高めるけれど、通常時は基本的にモーター駆動なので、電気自動車並みに滑らかな走行感覚が味わえる。これは滑りやすい雪道での発進においても実に有効で、雪上コースのフィットはなんの不安もなく走りだした。

「なんの不安もなく」という点では、ステアリングから伝わってくる感触もまったく同じ。フロントタイヤが雪道を“わしづかみ”にしている様子がステアリングフィールからしっかり読み取れるので、とても心強く感じられる。低速域で軽くステアリングを左右に振ったときの反応も、正確で機敏。これだったら、たとえクルマが不安定な状況に陥っても立て直すのは難しくないように思える。

交差点の手前で減速するためにブレーキペダルを踏んだ瞬間、その感触から「お、ハイブリッドらしからぬ剛性感だ!」と驚いた。いや、ホンダのハイブリッド車は基本的にすべて電動サーボブレーキを採用しているのでいまさら驚くまでもないのだけれど、ハイブリッド車が苦手とするブレーキペダルの剛性感不足を解消し、素早い減速力の立ち上がりを生み出す電動サーボブレーキの効果は何度試しても新鮮。他社のハイブリッド車にはない魅力だ。

個性の異なる5つのバリエーションがラインナップされる新型「フィット」。今回は主に、SUVらしいスタイリングが特徴の「e:HEVクロスター」に試乗した。
個性の異なる5つのバリエーションがラインナップされる新型「フィット」。今回は主に、SUVらしいスタイリングが特徴の「e:HEVクロスター」に試乗した。拡大
新開発ハイブリッドシステムを搭載する「フィット」は、モーターによる走行がメイン。高速クルーズ時には、エンジンの動力を直接車輪に伝えるようになる。
新開発ハイブリッドシステムを搭載する「フィット」は、モーターによる走行がメイン。高速クルーズ時には、エンジンの動力を直接車輪に伝えるようになる。拡大
新型「フィット」の2モーター式ハイブリッドシステムは「e:HEV(イーエイチイーブイ)」と呼ばれる。写真は、ハイブリッド車に添えられるエンブレム。
新型「フィット」の2モーター式ハイブリッドシステムは「e:HEV(イーエイチイーブイ)」と呼ばれる。写真は、ハイブリッド車に添えられるエンブレム。拡大

足まわりのよさも後押し

それとともに印象的だったのが、軽くブレーキペダルを踏み込んだときに認められる穏やかで滑らかなノーズダイブの感触である。大した減速Gをかけていないのでノーズダイブしなくても不思議ではないのに、フィットはブレーキペダルを踏み込んだ量と正確に比例してノーズダイブが起きる。これは、サスペンションの設定が柔らかめであると同時に、サスペンションのフリクションが極めて小さいという証拠。おそらく乾いた舗装路を走ればしなやかでスムーズが乗り味が楽しめることだろう。いっぽうで質の高いダンパーがノーズダイブのスピードをしっかり抑えてくれるので不安感は皆無。むしろ足まわりの上質さだけが印象に残る結果となった。

圧雪された雪道で徐々に車速を上げていく。基本的にはよく整備されたコース(ホンダが車両開発に用いる鷹栖プルービンググラウンドだから、それも当然のこと)だけれど、それでも雪上ゆえに多少の凹凸は必ず残っているもの。車速やタイヤの能力によっては、そんな細かな段差によって瞬間的にグリップが失われてスタビリティーコントロールが作動するモデルもあるが、フィットは足まわりの動きがスムーズでロードホールディングが良好なため、グリップが細かく抜ける現象が起きにくい。この辺も高い安心感を覚える一因といえる。

その後のハンドリング路でもフィット4WDは高いトレース能力を発揮した。しかも万一テールが流れ始めてもスタビリティーコントロールの介入が穏やかで、急な減速を強いられることがない。スタビリティーコントロールは通常「ガガガガガッ」と動作するけれど、フィットはその間隔が小刻みなうえにひとつひとつの利き方が優しいように感じる。いわゆる、きめ細やかな制御というやつだ。

雪のコースを快走する「フィットe:HEVクロスター」。ペースを上げてもタイヤのグリップが抜ける気配はなく、安心してドライブできる。
雪のコースを快走する「フィットe:HEVクロスター」。ペースを上げてもタイヤのグリップが抜ける気配はなく、安心してドライブできる。拡大
新型「フィット」のフロントサスペンション。形式こそオーソドックスなマクファーソンストラット式だが、フリクションの小ささをはじめ、上質さが実感できる。
新型「フィット」のフロントサスペンション。形式こそオーソドックスなマクファーソンストラット式だが、フリクションの小ささをはじめ、上質さが実感できる。拡大
雪道の試乗では、ときにスタビリティーコントロールの介入を招くこともある。しかし、その所作は穏やかで、制御がきめ細かいという印象を受けた。
雪道の試乗では、ときにスタビリティーコントロールの介入を招くこともある。しかし、その所作は穏やかで、制御がきめ細かいという印象を受けた。拡大

ホンダだから得られた成果

モーターアシスト式4WDとの違いをはっきりと感じたのは、80km/hほどの速度で定常円旋回をしているときのこと。フィット4WDはこの速度域でも後輪に駆動力を伝えることで4輪の負担を均等化し、タイヤの能力をフルに引き出して高いグリップ力を実現しているように思えたのだ。

ちなみにモーターアシスト式4WDで後輪に駆動力が伝えられるのは20~30km/h程度までで、それ以上の速度域では実質的にFWDとなる。この場合、駆動力を前輪だけで伝達するため、フリクションサークルの原理により、タイヤのグリップ能力の多くが縦方向(加減速)のグリップに割かれて横方向(旋回)のグリップが減少する。コーナリング能力が低下してクルマの安定性が損なわれてしまうのである。

しかし、フィット4WDはこの領域でもリアのスタビリティーが高く、安定した姿勢を失わない。この辺はモーターアシスト式4WDでもFWDでも味わえない、本格的4WDならではの底力だ。しかも、かりに後輪のグリップが抜けてスタビリティーコントロールが介入しても、前述のとおりその作動が穏やかで減速を強いられる度合いも小さいので、運転する楽しさは削(そ)がれない。いずれも本格的4WDと緻密なスタビリティーコントロールの組み合わせがもたらす、フィット4WDらしい魅力といえる。

もっとも、ビスカスカップリングで洗練された4WDシステムを完成させるのは、ホンダにとっても容易ではなかった。ビスカスカップリングはその原理上、前輪と後輪に回転数の違いが生じないとトルク伝達を行わない。つまり、前輪が滑り始めて、初めて後輪にトルクを伝えるため、4WDシステムとしてのレスポンスは鈍く、安定した操縦性を実現しにくかったのである。

それでも小型軽量かつ低コストなどのメリットゆえにホンダはビスカスカップリングを用いた4WDシステムの可能性を探っていたのだが、同社の主力ハイブリッド技術である2モーター方式のe:HEVと組み合わせたところ、滑りやすい路面において、前輪の回転数を電気モーターで緻密に制御することで後輪との回転差を従来よりも適正に制御できることに着目。これにより、いつでも安定した駆動力配分を実現できたという。まさに逆転の発想だ。

Bセグメントのコンパクトカーでハイブリッドと本格的な4WDを両立した背景には、ホンダの技術者たちの飽くなき探求心と柔軟な発想力があったのである。

(文=大谷達也<Little Wing>/写真=本田技術研究所、webCG)

 

 

新型「フィット」のチーフエンジニアを務めた、本田技術研究所の田中健樹さん。今回の4WDシステムを開発するにあたっては並々ならぬ苦労があったとのことだが、独自のハイブリッドシステムと組み合わせることでベストな仕上がりになったと語る。
新型「フィット」のチーフエンジニアを務めた、本田技術研究所の田中健樹さん。今回の4WDシステムを開発するにあたっては並々ならぬ苦労があったとのことだが、独自のハイブリッドシステムと組み合わせることでベストな仕上がりになったと語る。拡大
高い速度域でもリアの駆動力をキープできる、ハイブリッドの「フィット」の4WD車。その駆動方式のメリットを存分に享受できる。
高い速度域でもリアの駆動力をキープできる、ハイブリッドの「フィット」の4WD車。その駆動方式のメリットを存分に享受できる。拡大
新型「フィット」は全車、電子制御式のパーキングブレーキを採用。オートブレーキホールド機能も備わる。
新型「フィット」は全車、電子制御式のパーキングブレーキを採用。オートブレーキホールド機能も備わる。拡大
優れたエネルギー効率と走行安定性を両立させる「フィット」。WLTCモードの燃費値は4WDの「e:HEVクロスター」(写真右)の場合で24.0km/リッターとなっている。なお、最新世代の「フィット」では、すべてのグレードにおいて、ハイブリッドと4WDの組み合わせが選択できる。
優れたエネルギー効率と走行安定性を両立させる「フィット」。WLTCモードの燃費値は4WDの「e:HEVクロスター」(写真右)の場合で24.0km/リッターとなっている。なお、最新世代の「フィット」では、すべてのグレードにおいて、ハイブリッドと4WDの組み合わせが選択できる。拡大
【フィットe:HEVクロスター(4WD車)の車両データ】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4090×1725×1570mm/ホイールベース:2530mm/車重:1280kg/駆動方式:4WD/エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ/モーター:交流同期電動機/トランスミッション:CVT/エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm/エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm/モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm/モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm/タイヤ:(前)185/60R16/(後)185/60R16/燃費:24.0km/リッター(WLTCモード)/価格:248万6000円
【フィットe:HEVクロスター(4WD車)の車両データ】
	ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4090×1725×1570mm/ホイールベース:2530mm/車重:1280kg/駆動方式:4WD/エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ/モーター:交流同期電動機/トランスミッション:CVT/エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm/エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm/モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm/モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm/タイヤ:(前)185/60R16/(後)185/60R16/燃費:24.0km/リッター(WLTCモード)/価格:248万6000円拡大