劣化しないドイツブランド

撮影のために赴いたのは、筆者が住むイタリア・シエナにあるいくつかの青空駐車場である。

なお、ここで扱う劣化に強い/弱いは統計的なものではなく、あくまでも過去20年にわたって筆者がイタリアで行ってきた観察に基づいたものであることをお断りしておく。

概して劣化が少ないのはドイツ系ブランドといえる。今回の撮影で見つけたメルセデス・ベンツ車にはバッジが劣化したり、欠損したりしているものがなかったし、過去にも、いたずらによるマスコットのはぎ取りや、カスタマイズで取り外したと思われるものを除き、そうした例をほとんど見たことがない。

アウディもしかりだ。ただしアウディのブランドロゴ「フォーシルバーリングス」の場合、劣化とは別の意味で困るポイントがある。かつて東京の学生時代に乗っていた「アウディ80」は、円と円とが交わる部分に洗車用洗剤が残ってしまい、そこを丹念にふき取るのに手間がかかったものだ。

それはさておき、特筆すべきは今回発見した3代目「BMW 3シリーズ」(E36)である。最終販売年が2000年だから、最低でも20年ものである。さらにヘッドランプユニットの破損およびその放置状況からして、オーナーは決してクルマをいたわるタイプではないことが想像できる。しかし、エンブレムの輝きは限りなく保たれている。

いっぽう、経年変化したバッジがたびたび見られるのは、ずばりイタリア車である。

フィアットが2006年から使用しているロゴも、アルファ・ロメオの伝統的なバッジも、イタリアを走っている古いモデルを見ると、かなりの確率で退色している。特に後者はミラノの紋章である十字部分の退色が激しい。

答えは簡単だ。いずれも退色しやすい「赤」を用いているためである。

ガレージやカーポートを使っている日本のユーザーには、あまり関係がないかもしれない。

しかし、イタリアの路上でクルマを強い直射日光にさらしていると、赤い部分は想像よりもずっと早く色あせてしまうのである。

汚れやすくシワになりやすい白い麻のスーツを常にきれいに着るのが粋であるように、古くなったらバッジを交換するのが正解なのかもしれないが、イタリアでそこまでバッジにお金を投じる人はいない。

アルファ・ロメオの場合は、第2次大戦直後の一部モデルに見られるように単色――実はこちらもワインレッドであったのだが――を次のブランドロゴにしてみるのも一考に値するのではないか。

だが個人的な観察と経験のなかで、最も残念に感じているのは、フィアットでもアルファでもない。

「メルセデス・ベンツBクラス」のテールゲートに貼られたバッジ。
「メルセデス・ベンツBクラス」のテールゲートに貼られたバッジ。拡大
こちらは「アウディQ2」のエンブレム。筆者も「フォーシルバーリングス」の円と円との交わる部分の洗剤をふき取るのに苦労したものだ。
こちらは「アウディQ2」のエンブレム。筆者も「フォーシルバーリングス」の円と円との交わる部分の洗剤をふき取るのに苦労したものだ。拡大
ある駐車場で筆者が見つけた3代目「BMW 3シリーズ」。20年以上経過しているはずだが、エンブレムは意外に無事である。
ある駐車場で筆者が見つけた3代目「BMW 3シリーズ」。20年以上経過しているはずだが、エンブレムは意外に無事である。拡大
フィアットの赤いバッジは、イタリアの強い陽光によって退色しているものが多く見られる。
フィアットの赤いバッジは、イタリアの強い陽光によって退色しているものが多く見られる。拡大
ある「アルファ159」。2011年にカタログから消えたから、最短でも9年でこのような状態になったといえる。
ある「アルファ159」。2011年にカタログから消えたから、最短でも9年でこのような状態になったといえる。拡大
「アルファGT」。こちらは2010年の生産終了だから、最短10年でこうしたコンディションになったということだ。
「アルファGT」。こちらは2010年の生産終了だから、最短10年でこうしたコンディションになったということだ。拡大
終戦直後のアルファ・ロメオのバッジには、単色のものがみられる。クラシックカーイベント「モデナ・テッラ・ディ・モトーリ」(2003年)にて。
終戦直後のアルファ・ロメオのバッジには、単色のものがみられる。クラシックカーイベント「モデナ・テッラ・ディ・モトーリ」(2003年)にて。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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