アウディA6 45 TFSIクワトロ スポーツ(4WD/7AT)
その真価は比べて分かる 2020.03.25 試乗記 「アウディA6」に追加された2リッターターボエンジン搭載モデルに試乗。位置づけはエントリーとはいえ、そこはアウディ。ドライビング性能を高める多彩な装備を用意しているのだ。“技術による先進”の最先端を味わってみた。他社とはひと味ちがうネーミングルール
これまで3リッターV6ターボのみだった5代目A6に、今回追加されたのは2リッター4気筒ターボだ。今後もディーゼルやプラグインハイブリッドなどバリエーション拡大があるかもしれないA6だが、そうなったとしても、これがもっとも手ごろなエントリーA6になることはほぼ確実である。
ところで、先の3リッターが「55 TFSI」、今回の2リッターが「45 TFSI」と、パワーユニットを格づけする数字は、アウディの場合はちょっと独特である。アウディはつい最近まで、商品名に正確な(今回の試乗車なら「2.0 TFSI」的な)排気量表記を使っていたが、今は競合他社に通じる象徴的なそれとなった。それはいいのだが、これがメルセデスやBMWであれば、かつての自然吸気ガソリン基準っぽい雰囲気がうかがえて、われわれ中高年には実際の性能がなんとなくイメージできる。しかし、アウディはそうではない。
たとえば、今回の試乗車となったA6は、2リッター4気筒ターボで最高出力245PS、最大トルクは370N・mを発生する。これを競合車に当てはめると、メルセデスなら「E300」、BMWだと「530i」相当なのだが、A6での商品名は45 TFSIになるわけだ。
なにごとも整然と分類されていないと落ち着かないオタク気質の人間(筆者を含む)としては「こういう基準は業界全体で統一してくれよ」と切にお願いしたいところである。ただ、これはアウディ内でのヒエラルキーを示す数字であり、アウディファンには分かりにくくないのだろう。また、競合他社に対してあえて「ちょっと盛っています」的なアウディの商品戦略も理解できなくはないのだが……。
ハイブリッドの存在感は控えめ
A6は本国でも全車がなにかしらの電動車であることを売りにする。というわけで、今回の2リッターも先の3リッターと同様に、スターター/発電機/駆動アシスト役をになうベルト駆動モーターを持つマイルドハイブリッドとなっている。ただ、3リッターが最近の欧州で急速普及しつつある48Vタイプなのに対して、2リッターに使われるシステムはもう少し簡易的で低出力の12Vタイプとなる。
資料によると、この12Vのシステムは8PS強、60N・mで最大5秒間の駆動アシストが可能という。その数字を見てもお分かりのように、このシステムは駆動アシストよりもスムーズなエンジン停止と再始動(によるアイドリングストップ領域の拡大)と回生充電が主眼だろう。現行A6にはマイルドハイブリッドレス仕様は存在しないので、その有無の比較はしようもないが、単独で乗るかぎりは「この瞬間がハイブリッドだね!」という味わいは皆無といっていい。
ただ、マイルドハイブリッドうんぬんは横に置いても、これは2リッター4気筒としては純粋に悪くない。とくに静かさには素直に感心する。意地悪に観察すれば4000rpm付近でのこもり音に気づかなくはない。しかし、走行モードを切り替えられる「アウディドライブセレクト」で「オート」モード以下の穏当な設定として、自動変速のDレンジで走るかぎり、日本の公道ではエンジンが3000rpm以上になるケースはほとんどない。
100km/hでもトップギア7速だとエンジン回転は1500rpmを切るくらいなので、高速巡航時に耳に入ってくるのはロードノイズだけだ。そのロードノイズにしてもかすかなもので、A6自体の静粛性も高いのだろう。下り坂などの低負荷時にはクラッチを切ってしまうコースティング走行になり、しかも条件が整うと、そのままエンジンすら停止してしまう。
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最上級の“フワピタ”感
今回の試乗車にもオプションが多数トッピングされていた。実際の購入時はそれらのうちでお好みのものだけを選べばいいが、ひとつだけ誰もが無視できないのが40万円の「ドライビングパッケージ」である。これは電子制御連続可変のアダプティブダンパーと後輪操舵という、A6自慢のダイナミクス技術をセットにしたものだ。ちなみに、アウディの後輪操舵は正確には「ダイナミックオールホイールステアリング」といい、走行中にレシオを変える前輪の「ダイナミックステアリング」と一緒に使うのが前提のようだ。A6のドライビングパッケージにはこのダイナミックステアリングが含まれる。
そういえばwebCGの人気連載『カーマニア人間国宝への道』で清水草一さんはA6の乗り心地を大絶賛しておられた(第148回、第156回)が、そのときに清水さんが乗られたA6もドライビングパッケージ付きである。
あらためてA6に乗ると、清水さんの感動の理由が分かった気がした。標準モードといえるオートモードでも、路面からのアタリは、平成初期のフランス車、あるいは「トヨタ・クラウン」を思わせる柔らかさである。昭和言葉でいう「クッションがいい」乗り心地だ。
ただ、アタリを柔らかくするほど、その後のオツリめいたフワフワ、ユラユラが収束しにくくなるのは、昔ながらの固定減衰ダンパーでも最新のアダプティブダンパーでも(程度の差こそあれ)変わりない。A6ですごいのは、その種のオツリが見事にほぼ一発でおさまるところで、その“フワピタ”感は個人的に体験したことのある可変ダンパー車でも最上級の部類に入る。
しかも、速度や横Gが高まるにつれ、A6のアシは黒子に徹しながら絶妙に引き締まっていく。高速をひた走っても、箱根でムチを入れても、体感的には一定のフワピタ感を保ったまま、涼しい顔でクリアしていくのだ。さらに硬い(といっても他車と比較するとかなり快適)「ダイナミック」モードがほしいと思った瞬間は、正直なところ今回は一度もなかった。
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複雑怪奇な装備類を違和感なく制御
撮影のためにせまい駐車場でA6をぐるぐる取り回していたら、あまりに小回りがきいて驚いた。調べると、後輪操舵付きのA6の最小回転半径は5.2m(なしだと5.7m)! これは「トヨタC-HR」や「フォルクスワーゲン・ゴルフ」といった2クラス下のクルマと同等レベルだ。
A6の後輪操舵も車速60km/hをさかいに、後輪を低速では前輪と逆位相に、高速では同位相に切る点は他社の同種システムに似る。ただ、アウディは逆位相で最大5度、同位相で最大2.5度という後輪舵角の大きさが印象的だ。他社の例を見ても、ここまで切る例はほとんどない。アウディの場合は4WDを前提としていることもあって、ここまで大胆なセッティングができるのだろう。
実際の感覚としては、たとえば交差点でのステアリング操作量の小ささや、低速タイトコーナーでの軽快な旋回にも当然ながら気づかされるが、不自然なフィーリングがほとんどないことに驚く。前輪の可変レシオも“敏感”というより“速やか”という形容詞が似合う。さらに新世代の縦置きクワトロは油圧多板クラッチを使ったオンデマンド型なので、以前のようにリアタイヤから積極的に回し込むようなトルク配分はしない。この点でも、良くも悪くも動きが自然なのである。
それにしても、これだけの可変ダイナミクス技術を複雑怪奇に組み合わせながら、まったく普通に自然にまとめあげた調律技術には素直に感心する。唯一、作動すると「やってるな」と気づきやすいのが、旋回時に内輪を制動するブレーキトルクベクタリングの「ホイールセレクティブトルクコントロール」くらいだ。
本来ならこういう人工的な制御感は欠点なのだが、A6の場合はほかがあまりに見事なデキなので、これくらいのクセは、逆にかわいく思えてしまう(笑)。
比べてみればお買い得?
このように、今回のA6は、少なくとも乗り味については、2~3日の試乗では文句のつけようがないほど完成度が高い。そこにはA6のシャシーそのものが優秀なのに加えて、搭載されるエンジンが軽くて控えめな4気筒だったことも無関係ではないだろう。
ところで、話は冒頭に戻る。今回のA6 45 TFSIがE300あるいは530i相当……と考えると、あらためて「Eクラス」や「5シリーズ」より割安なA6の価格戦略も見えてくる。
今回の45 TFSIクワトロ スポーツの本体価格は799万円。これとガチンコの競合となる「E300アバンギャルド スポーツ」は871万円、530iの「Mスポーツ」は858万円である。細かい装備類のちがいはあるが、本体価格はA6が明らかに安い。しかも、E300と530iはともに2WDだが、A6は試乗車よりさらに安価な「45 TFSIクワトロ」でも4WDである。
A6の内外装の仕立ては、かつてのような有無をいわせぬ天然素材とアルミの世界からは、少し変わってきている。ただ、クリーンなプレスライン(特殊な溶接技術でルーフレールがないのもアウディの特徴)や、その新しいデザインとセンタータッチパネルとのデザイン的な整合性と仕上げ品質はさすがだ。
まあ、オプション込み総額1000万円超のクルマをつかまえて“安い”と書いてしまうのは気が引ける。ただ、競合他車と比較すれば、このクルマが割安なのは事実だ。
(文=佐野弘宗/写真=峰 昌弘/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディA6 45 TFSIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1885×1440mm
ホイールベース:2925mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:245PS(180kW)/5000-6000rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1600-4300rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101Y/(後)255/40R20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.4km/リッター(WLTCモード)
価格:799万円/テスト車=1019万円
オプション装備:オプションカラー<デイトナグレーパールエフェクト>(9万円)/パワーアシストパッケージ<電動チルト/テレスコピックステアリングコラム+パワークロージングドア+オートマチックトランクリッド>(24万円)/リアコンフォートパッケージ<リアシートヒーター+4ゾーンオートマチックデラックスエアコンディショナー+エアクオリティーパッケージ+リアドアウィンドウサンブラインド>(33万円)/アルミホイール 5Vスポークスターデザインチタンルックグロスターンドフィニッシュ8.5J×20 ※Sラインパッケージ装着車のみ(27万円)/Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム(18万円)/ワイヤレスチャージング(3万円)/アシスタンスパッケージ<フロントクロストラフィックアシスト+サラウンドビューカメラ+カーブストーンアシスト+リアサイドエアバッグ+アダプティブウィンドウワイパー>(14万円)/ドライビングパッケージ<ダイナミックオールホイールステアリング+ダンピングコントロールサスペンション>(40万円)/Sラインパッケージ<Sラインエクステリア+アルミホイール5アームダイナミックデザイン8.5J×19+デコラティブパネルマットブラッシュトアルミニウム+ブラックヘッドライニング+マルチカラーアンビエントライティング+HDマトリクスLEDヘッドライト>(52万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1036km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:515.7km
使用燃料:55.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.3km/リッター(満タン法)/9.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。