“速さの正義”に合致しない

周囲の声に押されて必死で段取りつけてMTを設定したものの、いざ投入してみたらほとんど売れない。日本市場においてはそんな話をよく耳にします。この先、他のリージョンのように992型でMTが選べるようになるか否かはわかりませんが、売る側も買う側もそれを熱望しているかといえば、そんなわけでもないのかもしれません。

そう、今やMTを選ぶ合理性はない。それも事実だと思います。なにより、MTの存在意義が問われるきっかけとなったのは2000年代後半、スポーツカーの動力性能の2次曲線的な向上に重なったDCTの市販車への普及でしょう。ニュル7分30秒切りの速さを絶対的な価値として登場した「日産GT-R」は初っぱなからDCTのみでしたし、ポルシェも997型後期からPDKを投入するや、日本市場においてもMTの比率がガクンと落ちました。

そしてスポーツカーのMT離れを象徴するひとつの事例が2009年の「フェラーリ458イタリア」の登場です。最高出力570PSを9000rpmで発生する超高回転型V8エンジンに組み合わせられるのはゲトラク製の7段DCTのみ。「F430」までは辛うじてMTの選択肢もありましたが、2ペダルのみになったのです。スポーツカーにとって譲れない価値が速さであるとするならば、3ペダルよりも2ペダルのほうが速いのだからMTは必要ない。以降、フェラーリの新型車であの象徴的なシフトゲートを見ることはなくなりました。

日産のハイパフォーマンスカー「GT-R」のトランスミッションは、2007年にデビューして以来、一貫してATオンリー。写真は2020年仕様の「GT-R NISMO」。
日産のハイパフォーマンスカー「GT-R」のトランスミッションは、2007年にデビューして以来、一貫してATオンリー。写真は2020年仕様の「GT-R NISMO」。拡大
「フェラーリ458イタリア」(2009年)。このモデル以降、量産型の市販フェラーリにはMT車が設定されていない。
「フェラーリ458イタリア」(2009年)。このモデル以降、量産型の市販フェラーリにはMT車が設定されていない。拡大
「フェラーリ458イタリア」のコックピット。センターコンソールにあるのはギアセレクト用のボタンのみで、ステアリングホイールの奥にシフトパドルが装着されている。
「フェラーリ458イタリア」のコックピット。センターコンソールにあるのはギアセレクト用のボタンのみで、ステアリングホイールの奥にシフトパドルが装着されている。拡大
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