それでもMTに価値はある

カキンカキンと音を鳴らしながらリーチの長いレバーを操る、あのお楽しみがパドルに置き換わってしまった……。フェラーリには多分に情緒的なものを期待するクルマ好きにとって、それはあまりに悲しい事態です。が、458イタリアに乗るとその理由はわかります。猛烈な動力性能とともに異様な軽さで吹け上がるエンジンは、悠長に3ペダルで操ってもオーバーレブでぶっ壊すのが関の山。その頃から、トップレンジのスポーツカーのパフォーマンスは素人のお戯れでは到底追いつかないレベルに達し始めていました。

以降はご存じの通り、出てくるスポーツカーたちはむしろMTを用意してくれていることのほうが珍しくなりました。代々のマイカーが常にMTである僕的には一抹の寂しさを覚えつつも、991型「911 GT3」のようなカミソリレスポンスのエンジンをMTで操りたいかと問われれば、白旗を掲げるしかありません。まぁそれでも、「アルファ・ロメオ4C」や「アルピーヌA110」あたりはMTがあってもいいよなぁとは思いますが。

恐らく今後は、速い遅いとかそういうことは別にして、MT体験自体の価値が高まり、そのストローク量や吸い込み感みたいな操作質感の側に興味が傾いていくのかもしれません。そういえば近ごろ、「ロータス・エリーゼ」のシフトレバーがリンクむき出しのメカニカルなものになりましたが、これ、革のブーツをかぶせるよりもはるかにお金のかかるしつらえです。恐らくロータスも自分たちのプロダクトに欠くことのできないMTの高付加価値化を考えての施しなのでしょう。

幸いなことに日本には、「ホンダS660」や「マツダ・ロードスター」など、手ごろな値段で素晴らしいシフトフィールを体験できるスポーツカーがあります。上質なMT体験は、必ずやクルマ人生の良き思い出になると思いますよ。

(文=渡辺敏史/写真=ポルシェ、日産自動車、フェラーリ、アルピーヌ、田村 弥/編集=関 顕也)

アルピーヌのピュアスポーツカー「A110S」のコックピット。ランボルギーニやマクラーレンを含め、ATのシフトレバーすら持たないという高性能モデルは多い。
アルピーヌのピュアスポーツカー「A110S」のコックピット。ランボルギーニやマクラーレンを含め、ATのシフトレバーすら持たないという高性能モデルは多い。拡大
これは「ロータス・エリーゼ ヘリテージエディション」のシフトレバー。MTのメカニズムをあえて露出させるデザインが、クルマ好きの心をくすぐる。
これは「ロータス・エリーゼ ヘリテージエディション」のシフトレバー。MTのメカニズムをあえて露出させるデザインが、クルマ好きの心をくすぐる。拡大
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