ワゴンなのに書類ではセダン

アフチェンコは地質学者の家で育った文系青年で、クルマにはまったく興味がなかったらしい。突然目覚めたのは2003年。1980年生まれだから23歳で、かなり遅咲きである。オタク気質で情報を集めまくったらしく、乗ったことのない日本車のことにもやたらに詳しい。最初に手に入れたのは「トヨタ・スプリンターマリノ」で、3000ドルだった。1000km走行したところで初めての事故を起こしているというから、荒い運転をしているようだ。ネットで交通事故動画が人気になるほどで、ロシア的運転スタイルなのだろう。

スプリンターマリノの次は「スズキ・エスクード」で、「トヨタ・カローラ」のワゴンに乗り換える。その次がトヨタ・カムリグラシアだった。2.2リッターエンジンを積む1997年製のワゴンだが、書類では2リッターエンジンの1991年製セダンとなっている。パーツとして運び込んで組み立てたもので、適当な書類で登録したモデルなのだ。

カーライフを満喫することで、アフチェンコはクルマへの愛を深めていく。彼の語る言葉は、まるで自動車教の信者のようだ。

「自動車は私に自由と責任の感覚を与えた。飲酒から遠ざけ、鬱(うつ)を治す。私のサイズを大きくし、私を走るケンタウロスに変身させ、許されることの境界を押し広げた」

「自動車は現代のバビロンの塔であり、神に近づき神のノウハウを手に入れるための試みである」

「自動車は積極的な前進、空間の拡張支配の理念を体現している」

とりわけ、日本車に対する愛は特別なものだ。

「居心地のよさ、香り、高級感のある内装、エアコン……。私は運転することで休めるどころか娯楽を得られる」

「トヨタ・チェイサーの最終版のボディーを見てほしい。どうしたらこれを生産終了にできるというのか? 人類に対する犯罪といえないだろうか?」

「トヨタ・スプリンターマリノ」
1992年に発売されたコンパクトな4ドアハードトップ。「カローラセレス」は姉妹車。販売が伸びずに一代で終わったが、21世紀になって「メルセデス・ベンツCLS」などの4ドアクーペが人気となり、再評価する声もある。
「トヨタ・スプリンターマリノ」
	1992年に発売されたコンパクトな4ドアハードトップ。「カローラセレス」は姉妹車。販売が伸びずに一代で終わったが、21世紀になって「メルセデス・ベンツCLS」などの4ドアクーペが人気となり、再評価する声もある。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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