「生命線」にもなる初代スマート

さて、本題である。

イタリアで昨今の中古人気車に初代の「スマート・シティークーペ」がある。イタリアの有名中古車サイト『アウトスーパーマーケット』では、3000ユーロ(36万円)前後が中心価格帯だ。

最も高年式でも17年落ちのクルマとしては価格が維持されている。それどころか、2代目の「スマート・フォーツー」が同じ3000ユーロ台からちらほらあるのを考えると、決して安くはない。

人気の背景にあるのは、そのコンパクトさであろう。2代目は全長×全幅が2695×1559mmなのに対して、初代は同2500×1510mmだ。195mm短く49mm狭い。

ささいな違いと思われるかもしれないが、駐車場環境が過酷な市街地では、全長は少しでも短いほうがよい。中世・ルネサンス時代の歴史的旧市街によくある馬小屋を改造した車庫では、全幅の狭さが極めてありがたい。

筆者の知人、エリザベッタさんも6年ほど前に初代スマートを手に入れた。彼女の場合は、ボディーサイズ以外の理由もあったという。

エリザベッタさんが運転を始めたのは二十数年前。結婚して、クルマがないと不便な郊外に引っ越したときだった。

ただし運転は苦手だった。18歳で運転免許を取得したが、市街地生まれだったので自分のクルマを所有する必要も、運転する必要もなかったからだ。

1台のフィアット製小型車が家にあったものの、彼女にとっては十分に大きかったうえ、彼女の言葉を借りれば「エンジン音を聞き分けて変速するのが得意ではなかった」という。

以来、運転を中断してしまった。

「やがて、とにかく小さくて、かつオートマチックのクルマが、私の生活の生命線と思うようになったのです」

医師である夫に相談すると、シーケンシャルシフトを持つ初代スマートがいいだろうという結論に達した。

「夫の友人である修理工場経営者に、『スマートの中古車が出たらすぐに知らせて』と頼んでおきました」。

数カ月後、初代スマートが見つかったという連絡がエリザベッタさんのもとに舞い込んだ。

「期待通り、数カ月の間で運転の自信がつき、すべての不安が消えました。スマートのおかげで私は運転の恐怖を克服できました。小さいですが広々としていて、駐車場探しに苦労したことがありません」

そしてこう締めくくった。「すでに走行距離は11万kmになろうとしていますが、他のクルマにしようとは思いません」

最近でこそ都市回帰志向が一部で見られるが、エリザベッタさんのように郊外の広い住宅に引っ越す家族も引き続き存在する。

それを機会に運転の必要が生じる人も少なくない。そうした人にも、初代スマートは最適なのである。

エリザベッタさんの邸宅の庭で、彼女の初代「スマート・シティークーペ」。
エリザベッタさんの邸宅の庭で、彼女の初代「スマート・シティークーペ」。拡大
郊外に住まいを移した彼女にとって、コンパクトかつATの初代「スマート」は「生命線」である。
郊外に住まいを移した彼女にとって、コンパクトかつATの初代「スマート」は「生命線」である。拡大
「スマート」のおかげで、一時は断念していた運転の自信もついた。
「スマート」のおかげで、一時は断念していた運転の自信もついた。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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