フィアット500ツインエア ラウンジ(FF/5AT)【試乗記】
ミニマムモータリングのススメ 2011.05.06 試乗記 フィアット500ツインエア ラウンジ(FF/5AT)……245万円
キュートなボディに小さなエンジン。「チンクエチェント」に加わった、2気筒ターボ「ツインエア」モデルを試した。
安くない、遅くない
高いのか安いのか。速いのか遅いのか。「500ツインエア」は、その実体を見抜くのが簡単ではないクルマだ。まず価格だが、0.9リッターの直列2気筒という小さなエンジンを積むからといって、決して安価なわけではない。1.2リッターモデルの同グレード(ポップ、ラウンジ)のちょうど20万円高に設定されており、カタログ上のポジションとしては、1.2と1.4の中間に位置づけられている。
次に性能も、0.9リッターという数字から想像されるほど頼りないものではない。価格の序列にきっちり準じており、現地の資料では0-100km/hは11.0秒と発表されている(1.2は12.9秒で、1.4は10.5秒)。ちなみに日本の軽自動車は、ノンターボがだいたい30秒で、ターボ付きでも20秒弱といったところ。排気量は近くても、「500ツインエア」は日本の軽とは別格の実力の持ち主である。
実際に乗っても、体感的に1.4リッターモデルに匹敵する速さを備えている。筆者はちょうど1年前、「1.4ポップ」を仕事の足にしていた。あれと比べても、こちらがとりたてて遅いという気はしない。いい勝負である。また(昔のではなく最新の)2気筒エンジンというものが、低回転ではそれなりに振動があるくせに、回せば高回転まできっちり伸びることも初めて知った。6000rpmのリミットまでしっかり吹け上がり、スポーティな感触すらある。
もっとも、スポーティとはいってもこのクルマの“芸風”は二の線ではなく、明らかに三の線だ。
懐かしいキャラクター
エンジンは低回転で振動があることに加え、発する音にどことなくポコポコとした空洞感がともない、コミカルである。スロットルペダルを深く踏み込めばブルルンといかにもクルマっぽい響きでこたえ、ノスタルジックでもある。チンクエチェントのキャラクターをより愛らしいものにしている。
そんな「500ツインエア」だが、シビアな目で見れば、ややマニアックというか、気になるところがないわけではない。まず、最近のダウンサイズのターボエンジンにしては珍しく、1500-2500rpmという実用域のトルクが相対的に細いように思う。出力が8psと4.6kgm控えめになる「ECO」スイッチ使用時にその傾向が顕著になり、5速で50km/hまで速度を落とすと(1500rpmを若干下回る)、ガクガクとノッキングが発生する。そのため、Dレンジ(オートモード)固定の自動シフトポイントは、その領域を避けるように2500-3000rpmと高めに設定されている。
さらに、デュアロジックと呼ばれるシングルクラッチの2ペダルMTの、特に発進時の制御が粗い点もご愛嬌(あいきょう)だ。ボトムエンドのトルクはそれなりにあるせいか、ドンッと唐突につながってギクシャクするケースが多く、トルコンAT車からの乗り換え組には違和感となるかもしれない。もっとも、ひとたび走り出してしまえばスムーズに変速し、シフトに要する時間自体は初期の車両に比べれば短くなっているようだ。
不思議な魅力がある
乗り心地は、筆者が以前乗っていた「1.4ポップ」に比べればかなり文化的だった。「1.4ポップ」はしなやかさに欠け、路面が悪いとヒョコヒョコと跳ねるような動きを見せた。けれども、こちらはだいぶマイルドで、どちらかといえば1.2リッターモデルの乗り心地に近い。そのぶんハンドリングの切れ味は穏やかになっているが、これはこれで十分に生き生きと走る。小型のフィアットの常で、前に進むことに対しては思いのほか貪欲である。
また、細かいことではあるが、タイヤサイズは1.4リッターモデルと同じ185/55R15とされながらも、ステアリングにストッパーが付いておらず、回転半径が小さく抑えられているのがいい(1.2リッターモデルと同じ4.7m。1.4リッターは5.6mもある)。街中でチンクエチェントの小さなボディが生かせるので、取り回しが非常に楽である。
トランスミッションなどにやや煮詰めの甘さが散見されるものの、それを補って余りある不思議な魅力が「500ツインエア」にはある。チンクエチェントのかわいらしいキャラクターにひかれている人にも、2気筒エンジンのメカニズムに興味を持っている人にも、あるいは最近、クルマで感動した覚えがない人にも、等しくオススメである。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
