21世紀型フェラーリGTの回答

試乗当日、筆者に用意されていたのは「ロッソ・ポルトフィーノ」と名付けられたレッドのボディーカラーのクルマだった。インビテーションを受け取って以来、常に渋みのあるローンチカラー「ブルー・ローマ」が頭の中にあった筆者は一瞬当惑した。だが、よく見ると、同じレッドでも「ロッソ・コルサ」よりも抑制が利いている。

ドアを開け、ドライバーズシートに腰を下ろす。

イグニッションからして未来的だ。ステアリング上のホーンパッド下に設けられたタッチパネルに触れることで行う。眼前の16インチHDスクリーンがきらびやかに点灯し始める。まるでITガジェットを操るがごとくだ。

しかし走り始めてみると、そのグラフィックデザインやレイアウトが単なる演出ではなく、いかにドライバーの視線を前方からそらさないために工夫されたものであるかが分かってくる。「Eyes on the road, hand at steering」を基本に、最新のアイトラッキング技術を駆使して開発されていることを実感する。

いっぽう、フロントウィンドウ越しの眺めは、明らかにタイムレスなデザインだ。両フェンダーのなだらかな丘と、フロントフード中央のバルジは、まぎれもなく往年のフェラーリのクラシカルな曲線である。

さらに、そのカーブはAピラーに向かって穏やかに連続している。外と中がここまで破綻のないデザインで連続しているクルマは珍しい。

視覚的な驚きはさらに続いた。ドアミラーに映る豊満なリアフェンダーの上端だ。それは筆者に1963年の「250LM」を想起させた。特に走行中、名作の幻影がミラーに映り続けるのはファンタスティックだ。他ブランドにはまねのできない楽しみである。

V8のサウンドは、少なくとも一般路上では決して誇張されず、常に品のいいバリトンを聴かせ続ける。

ボディー剛性は、かつてのイタリア製スポーツモデルの水準からすると、極めて高い。マネッティーノを「コンフォート」にするとさらに快適性は増す。旧市街の石畳でも、日ごろイタリア在住の筆者を悩ませている県道のつぎはぎだらけの舗装でも、不快度は最小限である。

8段となったDCTで、特筆すべきは第3速である。そのアクセラレーション性能は、ポルトフィーノと比較して15%も向上している。それはデータ上だけでなく、カバーできる実用域がいかに広いかを実感できるものだ。

市街地では、アクセルペダルを微妙にオン/オフするだけでスムーズにクルーズできる。資料によれば、そのペダルストロークは、ポルトフィーノよりも浅く設定されているという。

いっぽう踏み込み続けると、小気味いいエキゾーストを伴って痛快な加速を開始する。しかし、そのキャラクターの変化は、決して豹変(ひょうへん)というものではなく、操作に対して限りなくリニアに近い。

今回230km以上にわたる試乗コースの大半は、ワインの名産地を周囲に抱くワインディングロードだった。

マネッティーノを「スポーツ」に切り替える。ローマは常にコーナーを正確にトレースする。調子に乗ってハイスピードでカーブに飛び込んでも、スロットルペダルをわずかに緩めれば平静な姿勢を保ち続ける。

MGの古いキャッチフレーズを借用すれば、まさに「Safety Fast」である。

実際、試乗中にその620PSのパワーを御しきれないと思ったシチュエーションには、ついぞ遭遇しなかった。その陰では、進化したフェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE)ブレーキ電子制御システムも、筆者をサポートしてくれていたはずである。

フェラーリにとって電子デバイスは、その性能を最大かつ安全に発揮すべくドライバーを助けるためにある。新世代GTのあり方を考えるフェラーリの、原時点での到達点といえまいか。

フロントミドに積まれる3.9リッターV8ツインターボエンジン。排ガスから粒子状物質を捕集する多孔型フィルター(GPF)の採用で、現行の欧州で最も厳しい排出基準「ユーロ6D」に適合している。
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フロントマスクにはパーフォレート(穴開け)加工が採用されている。“プランシング・ホース”のバッジも控えめである。
フロントマスクにはパーフォレート(穴開け)加工が採用されている。“プランシング・ホース”のバッジも控えめである。拡大
フェラーリのアイコンであった丸形テールランプにも新たな解釈が行われ、ボディーとの一体化が図られている。
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リアシートは子供を乗せる、もしくはバッグを置くためだけに割り切られている。
リアシートは子供を乗せる、もしくはバッグを置くためだけに割り切られている。拡大
トランク容量は272リッター(オプションの可倒式リアシートの場合は345リッター)。
トランク容量は272リッター(オプションの可倒式リアシートの場合は345リッター)。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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