屋台に乗りつけたい

正直なところ、これまでの人生でフェラーリを所有することは一度もできなかったし、夢にさえ見なかった筆者である。

だが、仮に1台フェラーリを選ぶとしたら、12気筒モデルではなく、この8気筒のローマにするであろう。節度を心得た控えめさが心地いいのだ。

後日ローマのマーケティング資料を読んでみたところ、想定顧客の70%として「従来フェラーリに乗ったことがないユーザー」を見ているという。スポーツカーに関心がなく、攻めるドライバーでもなく、スポーツカーをあまりに派手だと思っている人々……とも分析されている。

購入に相当する小切手帳は持ち合わせていない筆者だが、心理的にはフェラーリの思い描くカスタマーに、しっかり当てはまってしまったわけだ。

フェラーリが難しいコックピットドリルを要求するようなクルマをつくり、特定のファンだけを想定していたら、愛想が悪い一部の名曲喫茶のように、いつしか顧客は減ってゆくだろう。したがって、このマーケティングは極めて正しい。


試乗した日の晩は、近隣のアルバ旧市街へのツアーがオプションで組まれていた。

ツアーといっても希望者だけの限りなくプライベートなものだ。実際、参加者は筆者も含めて3人にすぎなかった。

「地下ツアー」と名付けられたこの企画で案内されたのは、市民が夕方のパッセッジャータ(散歩)を楽しむ広場から一歩入った、市警察の庁舎だった。

館内の階段を下ると、そこに広がっていたのは地下遺跡だった。古代ローマ人が築いた石の上に、中世の貴族たちが塔を建てた跡が今も残っている。

続いて訪れた聖ヨセフ教会も同じ。現在の聖堂の下にはそれ以前の地下聖堂のアーチが幾重にも連なり、さらにその下にはローマ式円形劇場の一部が眠っていた。

アルバに限らず、イタリアにはこうした地下遺跡があまたある。ここは「積み重ねてゆく文化」なのだ。

フェラーリ・ローマもまたしかり。一見ハイテク満載の異端のように見える。だが、その皮下にあるのは長年にわたって追求してきたドライビングプレジャーであり、前述したウインドスクリーンやドアミラー越しの眺めのような歴史的コンテクストだ。特に後者は、残念ながら日本メーカーがたとえ高性能なモデルをつくっても、到底獲得し得ないものだ。

このクルマの中には、都市の地下に眠るローマ遺跡のように、ブランドの歩みが隠されている。

メーカーの意図とは別に、冒頭の「ペルケ、ローマ?」に対する答えは、これでいいのだという個人的結論に至った。

蛇足ながら、どこかさめてとらえていた冒頭のオフィシャルビデオだが、ひとつだけ共感したシーンがある。登場する男女がラスト近くで立ち寄るジェラートのバンカレッラ(屋台)だ。縁日でもよく見かける、平凡なものである。迎えてくれる店主も、登場人物の中で一番本当にいそうな素朴なオヤジだ。

しかしジェラートに限らず、イタリアではこうしたバンカレッラが、名ばかりのリストランテを上回るようなうまさのものを販売していることがある。

この国では、格式にこだわらず、自分自身の確たるセンスを持つ人ほど粋に見られる。

ローマはデイリーユースを強く意識したフェラーリだ。屋台をふらっと訪れてもさまになるフェラリスタに乗ってもらいたいものだ。

【フェラーリ・ローマ国際試乗会】

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真と動画=フェラーリ、Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)

当日の天候はところによりにわか雨。雨天時には、接地性と安定性が最大限となる「ウエット」に切り替えることがスタッフから推奨された。やや勇敢な速度でコーナーに飛び込んでしまって後悔しても、ローマは何ら破綻することなくドライバーを導いてくれる。
当日の天候はところによりにわか雨。雨天時には、接地性と安定性が最大限となる「ウエット」に切り替えることがスタッフから推奨された。やや勇敢な速度でコーナーに飛び込んでしまって後悔しても、ローマは何ら破綻することなくドライバーを導いてくれる。拡大
フェンダーのポンツーンとフロントフードのバルジが、歴史的フェラーリとのつながりを想起させる。
フェンダーのポンツーンとフロントフードのバルジが、歴史的フェラーリとのつながりを想起させる。拡大
ドアミラーに映るリアフェンダーの姿は、筆者に1963年の「250LM」を思い起こさせた。
ドアミラーに映るリアフェンダーの姿は、筆者に1963年の「250LM」を思い起こさせた。拡大
これまでフェラーリをリスペクトはしても、所有することは夢見なかった筆者であるが、それがある暮らしをしばし想像させてくれた「ローマ」であった。
これまでフェラーリをリスペクトはしても、所有することは夢見なかった筆者であるが、それがある暮らしをしばし想像させてくれた「ローマ」であった。拡大
アルバ旧市街にて、夜。広場は毎年秋に開催される白トリュフ祭りの舞台としても有名だ。
アルバ旧市街にて、夜。広場は毎年秋に開催される白トリュフ祭りの舞台としても有名だ。拡大
その旧市街の地下には、古代ローマと中世の遺跡が今も眠っている。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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