ダイハツ・タフトG(FF/CVT)
遊びもマジメに 2020.10.13 試乗記 見るからに個性的な、軽クロスオーバー「ダイハツ・タフト」。しかし、ちまたのSUVブームにのっかっただけのニューモデルと侮るなかれ。とくに趣味の多いユーザーは、このクルマの商品力の高さに驚かされることだろう。「ハスラー」とは思想がちがう
今年6月に発売されたタフトだが、同じく軽自動車(以下、軽)のSUVである宿敵「スズキ・ハスラー」を月間販売台数で上回ったことは、残念ながらこれまで一度もない。これが現代軽SUVの元祖にして、2世代8年にわたるハスラーのブランド力なのか。そんな現実を突きつけられて、タフト開発陣はさぞ口惜しかろう……と思ったりもするのだが、彼らは意外と気にしていないのかもしれない。
というのも、タフトのチーフエンジニア氏は「ハスラーを意識してつくったのはタフトの前身だった『キャスト アクティバ』で、少なくともタフトのクルマづくりや性能開発において、ハスラーは見ていない」と主張しているからだ。まあ、ハスラーをまったく意識していないことはさすがにありえず、この主張がどこまで本音かは分からない。しかし、商品として両車で共通するのは「軽ハイトワゴンレイアウトを使ったSUVである」ということだけで、顧客に訴求するキラーアイテムはそれぞれで異なっているのも事実だ。
ハスラーはSUVらしいスタイルやオフロードを意識した4WD機能、そして4人が快適に座れたり、場合によっては車中泊ができる居住性を売りにする。それに対してタフトでは、スタイルが幾何学的な四角四面デザイン、キャビンは前席2人が最優先で、後ろ半分は荷物を満載する遊び空間と割り切った思想が明確だ。
聞けば1630mmという低めの全高も、ハスラーどうこうでなく、ある程度は構造的に決まってしまうベルトラインからデザイン最優先で決めた数値というし、後席から荷室にかけての室内トリムが、色から造形まで別物なのは、タフトのデザインが“バックパック(=車体後半に巨大な道具箱を背負ったクルマ)”という着想だからだ。リアドアウィンドウがやけに小さかったり、後席にお約束のスライド機構が備わらない(基本レイアウトはあくまで最新の軽ハイトワゴンなので、空間はそれなりに広いが)のも、後席を倒して道具をギッチリ積み込むのがタフトらしい使いかた・乗りかた……というメッセージとなっている。
こだわりぬいた天井
前席まわりもハスラーとは異なり、アウトドアっぽさや広々感より、外観に通じる直線的な造形と軽らしからぬセンターコンソール(あくまでFFベースなのでコンソールの中はほぼ空洞で、荷重をかけすぎるとグラグラするのはご愛嬌)を特徴とする。そして運転席に座って印象的なのは、当然のごとく、全車標準の大面積ガラスルーフ「スカイフィールトップ」である。
これは「そのままでは遊びグルマとしてのパンチが足りない」と考えたチーフエンジニア氏が「日本でガラスルーフ車は売れたためしがない」という定説(と社内抵抗勢力)を押しきって実現した入魂の装備である。そのココロは「そこから見える青空や星空、景色は、SNS時代の今でこそ“映える”はずだ」という直感らしい。
そんなスカイフィールトップ最大のキモは、その前端の位置だそうである。運転席に座って普通に前を向いて運転しているだけで、視界のスミにいつも空をチラ見する開放感。それがタフトならではのドライビングファンなのだそうだ。
であれば、先代「シトロエンC3」の「ゼニスウィンドウ」はもっと気持ちいいですよ……といいかけたら、当たり前だが、そんなことはタフト開発陣も先刻承知だった。ただ、あれほどの巨大ガラスはやはりコスト面でのネックがあるが、歩行者保護基準の都合もあるという。超ショートボンネットとなっている今の軽では、このちょうど“おでこ”にあたる位置で、歩行者頭部の衝撃を吸収する設計にしなければならず、その点でもゼニスウィンドウは技術的な課題があるのだという。へえー。
けっこうフワフワ
今回の試乗車は、安価で割り切った仕様ともいえる自然吸気(NA)のFFである。
自慢のスカイフィールトップの下に座るタフトの運転席は、なるほど明るく開放的だ。開発陣の主張どおり、無意識に運転しているだけでも、頭上に空が広がっていることを常に意識する。これはこれで新鮮な感覚ではあるが「タフトに興味はあってもガラスルーフは不要」という顧客が少なからずいるであろうことは容易に想像がつく。
しかし、あえて全車標準装備としたのは手ごろな価格を実現するためだ。これをオプションで選べるようにしてしまうと、剛性や強度、安全性の確認など車体開発は二度手間となり、この価格でのスカイフィールトップを売ることはできなかったという。「どうせタダで付いてくるものなので、不要ならサンシェードを閉めといてください」というチーフエンジニア氏の弁はいかにも大阪商人のダイハツらしい。
タフトの骨格構造は、軽では「タント」に続く新世代の「DNGA」である。ただし、タントとはちがい、スイングドアのハイトワゴンとなるタフトのシートやベルトラインなどの基本配置は、来るべき次期「ムーヴ」のそれにも通じるはずである。
その乗り心地や操縦性はまあまあ妥当なものだ。フットワークはけっこうはっきりと柔らかく、市街地や住宅地などの低速では快適そのものである。大型トラックによる深いワダチができた都市高速や国道を、そこそこ速めのペースで走ると、フワフワとした上下動はかなり大きい。ただ、自然吸気モデルも含めてスタビライザーは全車標準装備(FFは前後、4WDは前のみ)だが、昨今のクルマとしてはロール方向の動きが、ちょっと速くて大きいのも事実だ。
このあたりはSUVならではの大きな地上高が影響している可能性もあるが、そのわりにロールが深まってからの安定性は低くなく、直進性も悪くないのはDNGAのおかげか。個人的にはもう少し、バシッと芯が通ったような直進性やフラット姿勢がほしいところだが、特筆すべき弱点があるわけでもない。
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ノンターボ車には注意が必要
街中ではタフトを小気味よく走らせるNAエンジンだが、高速でのパンチ力がちょっと物足りないのも本当のところだ。とくに高速で一度スピードを落としてからの再加速や、追い越し加速ではちょっともどかしい。せっかちな後続車がいたりすると、ちょっとストレスを感じるケースも少なからずあった。
NAの軽でぜいたくいうな……と思われる向きもあろうが、ハスラーや他社の最新NAハイトワゴンでは、こうした思いを抱くことはほとんどない。調べると、ハスラーや「日産デイズ」は加速時にモーターでアシストがつくマイルドハイブリッドであり、「ホンダN-WGN」はモーターをもたないかわりに、純粋なエンジン性能で一頭地をぬいている。
パワートレイン技術では、レシオカバレッジと伝達効率を大幅に拡大・向上させた「D-CVT」がDNGA最大の武器といえるだろう。しかし、タフトの場合、ターボモデルにこそD-CVTを使うが、このNAモデルの変速機は主にコストを理由に従来型CVTが選ばれている。というわけで、ファーストカーとして高速移動を多用するようなら、やはりターボをフンパツしたいところではある。
ターボまではいかなくても、NAではオプション(安価な「X」グレードでは設定がないので要注意)となるアダプティブクルーズコントロール(ACC)はぜひ選びたい。ダイハツ軽では初の電動パーキングブレーキを備えるタフトのACCは、ついに全車速対応になったこともニュースである。しかし、高速では否応なくアクセル開度が大きくなってしまうタフトNAでは、そうでなくてもACC自体が重宝なのは間違いない。非力なクルマで日常的に高速を走った経験のある人なら理解いただけると思うが、アクセルを長時間、深く踏み続けるというのは、意外なほど疲れるものだ。
趣味人の強い味方
……と、いろいろ細かいツッコミを入れたくなったのも、タフトの商品企画がハスラーに優るとも劣らず、ふるったものだからだ。スカイフィールトップの有無は個人的にどっちでもいい(笑)が、子供がおらず、車中泊の趣味もなく、休日活動もほとんどが1~2名で出かけるものばかりの筆者には、ハスラーよりタフトのほうがリアルな魅力にあふれている。
また、自慢の荷室も可動フロアボードだけでなく、かつての「ネイキッド」よろしく、そこかしこにフックやポールなどをDIY的に取り付けられる設計になっている。このあたりも趣味ゴコロを大いにくすぐる工夫である。
クルマ自体の商品力を見るかぎり、それはハスラーと甲乙つけがたく、(タフトの新車効果がある)今のうちはタフトのほうが売れてもいいのでは……と個人的には思ってしまう。それでもハスラーの牙城をなかなか崩せないのは、ハスラーのブランド力か、ちょっと武骨すぎるタフトのデザインのせいか、あるいはやはり「ガラスルーフ車は日本では売れない」というジンクスのせいなのだろうか……。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ダイハツ・タフトG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1630mm
ホイールベース:2460mm
車重:830kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
最高出力:52PS(38kW)/6900rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ヨコハマ・ブル―アースFE AE30)
燃費:25.7km/リッター(JC08モード)/20.5km/リッター(WLTCモード)
価格:148万5000円/テスト車=190万5662円
オプション装備:スマートクルーズパック(4万4000円)/スマートパノラマパーキングパック(7万1500円) ※以下、販売店オプション 9インチスタイリッシュナビ(22万6776円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7600円)/ドライブレコーダー<スタンドアローン>(3万4760円)/カーペットマット<高機能タイプ・グレー>(2万6026円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2980km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:259.0km
使用燃料:14.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.4km/リッター(満タン法)/15.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。