あふれるナショナリズム

真面目な話は以上にして、ここからが今回のテーマだ。

東京を訪れるたびに楽しいのは、トラックや営業車のペインティングである。といってもヨーロッパやアメリカ風情を気取ったものを指しているのではない。

「褐色の恋人 スジャータ」「ファッションを心で運ぶ 東京納品代行」「世界のパン ヤマザキ」といった十年一日のごとく変わらぬタイプである。

今回執筆するにあたり、ヤマザキパンのトラック(写真A)に描かれたあの子どもは誰なのか、と同社のウェブサイトを訪問して驚いた。あれは少女であったのだ。筆者などは、今回調べなければ男子と一生信じているところであった。

さらに、彼女の名前が「スージーちゃん」であったこと。1966年からシンボルマークとして使われていること、当時3歳くらいで東京在住であったことなどが紹介されている。存命ならば、現在は57歳ということになる。

そうしたトラックのグラフィックは、景観がめまぐるしく変化する東京という都市において、実は数少ない変わらぬ物のひとつである。従来は色とりどりだったタクシーが、加速度的に黒い「ジャパンタクシー」に置換されていく昨今では、特に感じざるを得ない。

イタリアを走るトラックや商用車のグラフィックには、この国らしさあふれるペインティングやラッピングを施したものが少なくない。

最初は「パスタ系」である。主食ゆえに大手とローカル系が入り交じって走り回っている。

(写真B)は業務用冷凍パスタ企業のスルジタル、対する(写真C)は、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされる戦場の名で有名なアンギアーリを拠点とするパスタ工房、ドンナ・エレオノーラのトラックである。

オリーブの酢漬け(写真D)のトラックや、エスプレッソで有名なコーヒーブランドの営業車(写真E)もよく見かける。

また、郷土意識の高い国柄を反映して、自国製を強調したものも頻繁に見られる。(写真F)はイタリア製コンビーフのブランドであるモンターナのものだ。「100%イタリア飼育肉使用」と記されている。そういえば、上述したスルジタルのトラックにも「MADE of ITALY」の文字が見える。

(写真A)。ヤマザキパンのトラックに描かれた子どもが「スージーちゃん」という名前だったとは。東京・平和島にて撮影。
(写真A)。ヤマザキパンのトラックに描かれた子どもが「スージーちゃん」という名前だったとは。東京・平和島にて撮影。拡大
(写真B)。ここからはいよいよイタリア。北部ラヴェンナを本拠とする業務用冷凍パスタブランド、スルジタルのトラック。
(写真B)。ここからはいよいよイタリア。北部ラヴェンナを本拠とする業務用冷凍パスタブランド、スルジタルのトラック。拡大
(写真C)。トスカーナの生パスタ製造業者であるドンナ・エレオノーラのトラック。
(写真C)。トスカーナの生パスタ製造業者であるドンナ・エレオノーラのトラック。拡大
(写真D)。ローマを本拠とする味付けオリーブのスペシャリスト、フィカッチ。
(写真D)。ローマを本拠とする味付けオリーブのスペシャリスト、フィカッチ。拡大
(写真E)。この「プジョー・エキスパート」は、日本でも知られているコーヒーブランド、セガフレードの営業車である。“太陽の道”のフィレンツェ近郊にて。
(写真E)。この「プジョー・エキスパート」は、日本でも知られているコーヒーブランド、セガフレードの営業車である。“太陽の道”のフィレンツェ近郊にて。拡大
(写真F)。コンビーフのモンターナのトラックでは100%イタリア産肉使用が強調されている。ちなみに、左の馬匹運搬用トレーラーからは尻尾だけが垂れている。
(写真F)。コンビーフのモンターナのトラックでは100%イタリア産肉使用が強調されている。ちなみに、左の馬匹運搬用トレーラーからは尻尾だけが垂れている。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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