信心深いプロたちゆえに

(写真G)はフェルカムのトラックである。同社は北部国境に近いボルツァーノに1949年に設立された会社だ。「FERCAM」とはイタリア語で鉄道を表す「FERrovie」と、同じくトラックを表す「CAMion」による造語だ。

高速道路上で頻繁に見かける理由がわかった。管理するトラックの台数は3350台にも及ぶというのだ。

このフェルカムのトラックが面白いのは、シンプルかつ印象に残る力強いロゴもさることながら、次々と特集ともいえるラッピングを後部に施すことだ。10年ほど前には、幼児が描いた数々のトラックの絵を拡大プリントして貼りつけていた。

近年貼られているのは社員のプロフィール写真だ。対象となった本人は、さぞかし士気が上がることだろう。

いっぽう、個人ドライバーの車両にみられるのは「宗教系」である。ひとつはマドンナ、つまり聖母マリア(写真H)である。もうひとつは、幼い時代のイエス・キリストを担いで川を渡ったとの伝説から交通の守護聖人とされている聖クリストフォロスの図(写真I)だ。

ピオ神父(1887~1968年)を描いたトラックに遭遇する頻度も高い。(写真J)は、2020年9月に撮影したものである。巧拙はともかく、筆者が遭遇したピオ神父の図柄の中で、最も大胆なものである。

ピオ神父は20世紀に生きたにもかかわらず、現代科学では説明しきれない数々の「奇蹟」とともに語られてきた。

過酷な環境に身を置くドライバーたちには、信心深い人たちが少なくない。トラックではないが、数年前に訪れた南部アマルフィの路線バスドライバーたちは、海に面した断崖絶壁の見通しの悪いカーブを抜けるたび、ステアリングを片手で握りながら祈りの十字を切っていた。最前列の客席でそれを見ていた筆者はやや不安に駆られながらも、彼らの信仰に恐れ入ったのだった。

ピオ神父は今日に生きる者にとって時代的に最も身近な聖人であることから、プロたちに広く支持されていることには疑いの余地がない。

(写真G)。運送会社フェルカムのトラック。一社員の顔とともに「顔以上に情熱を載せています」の文字が。
(写真G)。運送会社フェルカムのトラック。一社員の顔とともに「顔以上に情熱を載せています」の文字が。拡大
(写真H)。聖母マリアが描かれたバン。すぐ後方を走る水色の「フィアット500」には、いかにもご加護がありそうだ。
(写真H)。聖母マリアが描かれたバン。すぐ後方を走る水色の「フィアット500」には、いかにもご加護がありそうだ。拡大
(写真I)。聖クリストフォロスが描かれたトラックの写真が見当たらなかったので、本物のフレスコ画を。フィレンツェとボローニャを結ぶ峠の町スカルペリアにて。
(写真I)。聖クリストフォロスが描かれたトラックの写真が見当たらなかったので、本物のフレスコ画を。フィレンツェとボローニャを結ぶ峠の町スカルペリアにて。拡大
(写真J)。20世紀の聖人であるピオ神父を大胆なエアブラシで表現したトラック。
(写真J)。20世紀の聖人であるピオ神父を大胆なエアブラシで表現したトラック。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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