BMW X2 xDrive20d MスポーツX エディションジョイ+(4WD/8AT)
ディーゼルはこうでないと 2020.11.10 試乗記 「BMW X2」に追加設定された「xDrive20d MスポーツX」に試乗。既発の「xDrive18d」比で+40PSとなる190PSのディーゼルユニットとMスポーツサスペンションのコンビネーションは、導入初期モデルの印象を上書きするのに十分な仕上がりだった。低めの全高がうれしい
2020年に試乗したクルマを振り返ると、なんとその4分の3がSUVだった。こんなところにもSUVブームの影響が出ているんだなあとしみじみ思うとともに、これまで一台もSUVを所有したことのない自分としては、そろそろ“SUVデビュー”しておかないと、一生乗らずに終わってしまうかもしれないという変な不安が、ときどき頭をよぎる。
ただ、よく使う駐車場が“ハイルーフ不可”だったり、ハイルーフ用があってもいつも満車だったりという状況を見ていると、なかなかSUVデビューできないのも事実で、私にとっては「もし買うなら全高1550mm以下のモデル」というのが一番の選択基準。BMWの場合、初代「X1」が全高1545mmをひとつのウリにしていたが、2015年のフルモデルチェンジで全高が1600mmを超え、頼みの綱が切れてしまった。
BMWのSUVには、SUVらしいデザインのスポーツアクティビティーヴィークル(SAV)と、クーペのようなスタイリッシュさが魅力のスポーツアクティビティークーペ(SAC)があり、奇数車名が前者で偶数車名が後者というのはご存じのとおり。
低めのシルエットが特徴のSACとはいえ、「X6」の全高が1695mm、「X4」が1620mmと、1550mmにはほど遠かった。それだけに、2018年に登場したX2は、全高が1535mmに抑えられており、私のような「ノーマルルーフ派」にとっては、希望の星になったのだ。
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機能性は十分
SUVを買う理由としては、「悪路走破性が高い」「荷物がたくさん積める」「堂々としたデザイン」「高いアイポイントで運転がしやすい」など人それぞれだが、「悪路走破性や荷室のスペースはそこそこでいい」と思っている私としては、本格派SUVよりもSUVクーペのほうがマッチしているし、さらにほぼオンロードという行動範囲を考えると、X2はまさに私向きの一台といえそうだ。
ただ、あれだけルーフが低いと、後席の居住性が心配になるが、実際に座ってみると、十分すぎるほどのスペースが確保されている。それほど大柄ではない私でも、クーペ(4ドアクーペも含む)のなかには後席が窮屈なクルマが少なくないが、このSUVクーペというか、自称SACのX2の場合は、ニールームは足が組めるほど広いし、ヘッドルームも縦に拳が2個入るほど余裕がある。
ラゲッジスペースも、全高が低いぶん荷室の高さが限られるとはいえ、それでも天井まで荷物を満載する機会がほとんどなく、むしろ荷物を隠しておきたい私には、十分に広く使いやすいのである。
そんなX2に試乗するのはほぼ2年ぶり。2020年6月、最高出力190PSの2リッター直4ディーゼルターボを積むxDrive20d MスポーツXが追加され、この最新グレードをチェックするのが今回の目的である。
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ディーゼルにも“駆けぬける歓び”
2018年4月のデビュー時には、1.5リッター直列3気筒ターボを積むFFモデル「sDrive15i」と、2リッター直4ターボの4WDモデル「xDrive20i」の2種類だったパワートレインは、2019年1月に、2リッター直4ディーゼルターボxDrive18dと、パワフルな2リッター直4ターボ「M35i」が追加されている。そして、最近追加されたxDrive20dは、xDrive18dの最高出力150PS(110kW)、最大トルク350N・m(35.7kgf・m)に対して、前述のとおり最高出力が190PS(140kW)、最大トルクが400N・m(40.8kgf・m)と、性能アップが図られている。
早速発進させると、予想以上の速さに、思わず笑みがこぼれた。わずか1750rpmから最大トルクを発生するというこのディーゼルターボは、1500rpm以下の低回転からすでに豊かなトルクが湧き出し、軽くアクセルペダルを踏むだけで、レスポンスのよい加速を見せてくれる。「ディーゼルはこうでないと」というお手本みたいな感触なのだ。
エンジンからは、多少カタカタというノイズが漏れるが、十分に許容できるレベルに収まっている。一方、エンジンの振動はほとんど気にならない。
特筆すべきはそのスポーティーさで、アクセルペダルを深く踏み込むと、2000rpm手前から一段と力強さを増し、5000rpmあたりの高回転域まで強力な加速が持続するのだ。エンジン回転計を見なければディーゼルエンジンであることを忘れてしまう気持ちよさである。愛車のBMWに積まれるエンジンが150PSの2リッターディーゼルだという編集部のS氏が、「確かに速い」と舌を巻き悔しがるのも無理はない。
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SUVでゴーカートフィーリング
強力なパワートレインに加えて、そのスポーティーな走りっぷりも、X2の魅力である。もともとSUVとしては全高が低めで、重心高も低く抑えられるX2は、やや硬めにしつけられた足まわりも手伝って、ハンドリングは実に軽快。SUV特有のロールもよく抑えられており、「MINI」まではいかないものの、意のままにクルマを操る楽しさが味わえるのだ。
そのぶん、乗り心地でガマンを強いられる場面もある……と記憶していたが、2年ぶりに乗ったこのX2 xDrive20d MスポーツXは、少し硬めとはいえ乗り心地はおおむね快適で、目地段差を越えたときのショックの遮断もまずまずと、以前とは印象が異なるものだった。オプションの20インチタイヤではなく、標準の19インチを履くのもその一因かもしれないが、ランニングチェンジでカドが取れたのではないか……というのが、私の推測である。
ところで、今回試乗したエディションジョイ+は、装備はそのままで価格を下げたお買い得なクリーンエネルギー自動車。試乗車には約80万円のオプションが装着されていたが、私ならACCが含まれる「アドバンスドアクティブセーフティーパッケージ」(18万5000円)を選ぶだけで満足できそうなので、パワフルなディーゼルエンジンと4WDを採用するX2が約555万円というのはとても魅力的である。現実的なクルマだけに「もし、自分で買うなら外装色は『ファイトニックブルー』か『サンセットオレンジ』かなぁ」と思いを巡らすのが楽しいX2なのである。
(文=生方 聡/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
BMW X2 xDrive20d MスポーツX エディションジョイ+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1825×1535mm
ホイールベース:2670mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190PS(140kW)/4000rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/45R19 92W/(後)225/45R19 92W(ピレリ・チントゥラートP7)※ランフラットタイヤ
燃費:14.5km/リッター(WLTCモード)/18.8km/リッター(JC08モード)
価格:536万円/テスト車=613万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ガルバニックゴールド>(9万6000円)/セレクトパッケージ<電動パノラマガラスサンルーフ+ラゲッジパーテーションネット+205W、7スピーカーHiFiスピーカーシステム>(19万円)/アドバンスドアクティブセーフティーパッケージ<BMWヘッドアップディスプレイ+ドライビングアシストプラス>(18万5000円)/ハイラインパッケージ<パーフォレーテッドダコタレザーシート+運転席メモリー機能付きフロント電動シート>(30万8000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:914km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:610.6km
使用燃料:34.2リッター(軽油)
参考燃費:17.9km/リッター(満タン法)/17.8km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。