クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

BMWアルピナB3リムジン アルラッド(4WD/8AT)

時をかけるリムジン 2020.11.07 試乗記 山田 弘樹 東京モーターショーでの世界初公開から1年、アルピナの最新モデルである新型「B3」がいよいよ日本でも発売された。“アルピナ・マジック”とも称されるシームレスライドと高出力の3リッター直6エンジンが織りなす走りを、裏磐梯のワインディングロードで試す。

クルマもオーナーもアンダーステートメント

「アルピナのオーナーは、語らないんですよ」

裏磐梯のワインディングまで行く道すがら、広報部のUさんが、B3リムジンの車内でそう教えてくれた。

見た目はボディーサイドに入る「アルピナライン」が特徴的だけれど、そのボディーカラーはグリーンや濃紺、シルバーといったコンサバな色が主だから、決してワル目立ちしない。知る人ぞ知る20本スポークのホイールも、押し出し感よりエレガントさを表現している。エアロパーツも控えめだ。

だからアルピナを知らない友人から見れば、それは“ちょっとめかし込んだBMW”にすぎない。そして「意外とフツーだね」なんて言われたとしても、そのクルマがどんな性能を持っているかや、アルピナ自身がどれだけ輝かしい歴史を歩んできたかを、いちいち説明しないオーナーが多いのだという。面倒くさいということもあるのだろう。しかしそこには、「自分だけがわかっていればいい」という気持ちのほうが強いのだと思う。

これは実は、すごいことではないか。仮にもハイエンドな輸入車を選ぶオーナーならば、ある程度の自己顕示欲をもってそれを選ぶはず。アンダーステートメントに徹したとしても、心の中ではその見識眼を、どこかでアピールしたいと思うはずである。もちろんアルピナのオーナーだって、そうした気持ちはあるかもしれない。しかし、それ以上にアルピナを走らせる歓びのほうが大きく勝っているのだと、新型「B3リムジン」の試乗を通して思い知った。

BMW本社の公認の下に車両の供給を受け、公式な自動車メーカーとしてコンプリートモデルを生産するアルピナ。今回試乗したB3は、現行型「BMW 3シリーズ」をベースとしたモデルである。B3のボディーバリエーションとしては、このリムジンのほかにワゴンタイプの「ツーリング」をラインナップしている。

ボディーを飾る伝統の「アルピナストライプ」。BMWアルピナは、BMWを基にエンジンやシャシー、内外装に手を加え、より上質で洗練された一台に仕上げる完成車メーカーとして知られる。
ボディーを飾る伝統の「アルピナストライプ」。BMWアルピナは、BMWを基にエンジンやシャシー、内外装に手を加え、より上質で洗練された一台に仕上げる完成車メーカーとして知られる。拡大
新型「B3」は、現行型の「BMW 3シリーズ」をベースとしたガソリンエンジン搭載モデルである。同じく「3シリーズ」を基にしたモデルとしては、ディーゼルの「D3 S」が存在する。
新型「B3」は、現行型の「BMW 3シリーズ」をベースとしたガソリンエンジン搭載モデルである。同じく「3シリーズ」を基にしたモデルとしては、ディーゼルの「D3 S」が存在する。拡大
各部にアルピナのエンブレムがあしらわれたインテリア。センターコンソールには製造番号を打刻したプロダクションプレートが貼られている。
各部にアルピナのエンブレムがあしらわれたインテリア。センターコンソールには製造番号を打刻したプロダクションプレートが貼られている。拡大
インテリアは各部の表皮の色やステッチ、パイピング、エンボス加工など、きめ細やかなカスタマイズが可能。最高品質の天然本革を用いた「アルピナ・ラヴァリナ・インテリア」も用意される。
インテリアは各部の表皮の色やステッチ、パイピング、エンボス加工など、きめ細やかなカスタマイズが可能。最高品質の天然本革を用いた「アルピナ・ラヴァリナ・インテリア」も用意される。拡大
BMWアルピナ B3 の中古車webCG中古車検索

ホイールによって異なるドライブフィール

アルピナの最たる特徴は乗り味にあり、新型B3リムジンでも“アルピナ・マジック”と呼ばれるシームレスライドは健在だった。しかし、ひとつだけ過去のモデルと大きく違ったのは、オプションの「アルピナ・クラシック鍛造ホイール」(フロント 8.5J×20、リア9.5J×20)を装着した個体では、その走りが明確な“若返り”を果たしていたことだった。

インチアップしたにもかかわらず、4輪で13.7kgの軽量化。バネ下で転がる20インチホイールには、大径ホイール特有の重さやバタつきがまるで感じられない。代わりにタイヤからの入力をダイレクトに受け入れる特性によって、ステアフィールの輪郭がくっきり鮮明になっていた。

タイヤのCP(コーナリングパワー)が鋭く立ち上がり、操舵応答性がハッキリしたぶんだけ、ドライバーはB3リムジンをよりシャープに動かせるようになる。もちろん、荒れた路面では入力がバシッと伝わるものの、ホイールが反発することもなく、入力が突き上げ感になる前にサスペンションがこれを吸収してしまう。

一方、コンベンショナルな19インチ鋳造ホイールを履くB3は、これまで通りのスイートなアルピナだった。ちなみに装着される「ピレリPゼロ」は専用設計であり、そのサイドウォールにはアルピナの承認を示す「ALP」の文字がしっかりと刻印されていた。

独自設定のサスペンションは、スポーティーなスプリングと固めのアンチロールバーの組み合わせで高いロードホールディング性を確保。同時にアルピナならではのスムーズな乗り味も実現している。
独自設定のサスペンションは、スポーティーなスプリングと固めのアンチロールバーの組み合わせで高いロードホールディング性を確保。同時にアルピナならではのスムーズな乗り味も実現している。拡大
ホイールは、19インチ鋳造の「アルピナ・ダイナミックホイールセット」(左)と、20インチ鍛造の「アルピナ・クラシック鍛造ホイールセット」(右)から選択可能。
ホイールは、19インチ鋳造の「アルピナ・ダイナミックホイールセット」(左)と、20インチ鍛造の「アルピナ・クラシック鍛造ホイールセット」(右)から選択可能。拡大
電子制御ダンパーにはアルピナ独自の制御プログラムを採用。「コンフォート・プラス」「コンフォート」「スポーツ」の3つのモードが用意されている。
電子制御ダンパーにはアルピナ独自の制御プログラムを採用。「コンフォート・プラス」「コンフォート」「スポーツ」の3つのモードが用意されている。拡大

二面性を秘めたシルキーシックス

エンジン性能も、憎らしいほどにアルピナ流だ。搭載される3リッター直列6気筒“ビターボ”(ツインターボの意)は、次期型「BMW M3/M4」に搭載される「S58」型がベースとなった。しかしタービンやクーリングシステム、そしてエンジンマネジメントにはアルピナ独自のチューニングが施され、まったくオリジナルなパワー特性となっている。

その最高出力は462PS/5500-7000rpm。これは480PS(「コンペティション」では510PS)といわれる次期型M3にパワーでは及ばないものの、700N・m/2500-4500rpm(!)という最大トルクはアルピナのほうが150N・mも高く、コンペティションと比べても50N・m上回っている。

しかし、そんな数値以上に大切なのは、回したときの質感だ。というのもこのビターボは、アルピナオーナーのごとく通常領域では極めて無口。常用域から分厚いトルクがクルマを推し進めてくれるため、ドライバーはアクセルを踏み込むことなく、ほとんどの行程をそのしなやかな乗り心地とともに静かに走りきってしまう。何の説明もなければ、多くのドライバーがこの質感だけでB3に満足してしまうことだろう。

一方で、やんちゃなオーナーがちょっとでもいたずら心を働かせてアクセルを踏み込んだら、大変なことになる。それまでほほ笑んでいた美女から、突然、パーン! と平手打ちを食らうかのような、混乱した気分を味わうことになるはずだ。まさに、炸裂(さくれつ)という言葉がふさわしいターボレスポンス。しかしながら、その回転上昇感には雑味がなく、むしろ「美しい!」とさえ形容できる直列6気筒ならではのシルキーさがある。

動力性能については、0-100km/h加速が3.8秒、“巡航最高速度”は303km/hとアナウンスされている。
動力性能については、0-100km/h加速が3.8秒、“巡航最高速度”は303km/hとアナウンスされている。拡大
アルピナ独自のタービンや冷却システムなどを採用した、3リッター直6ツインターボエンジン。462PSの最高出力と700N・mの最大トルクを発生する。
アルピナ独自のタービンや冷却システムなどを採用した、3リッター直6ツインターボエンジン。462PSの最高出力と700N・mの最大トルクを発生する。拡大
センターコンソールに配されたレバータイプのシフトセレクター。トランスミッションはZF製の8段ATである。
センターコンソールに配されたレバータイプのシフトセレクター。トランスミッションはZF製の8段ATである。拡大
リアエプロンにきれいに収まるステンレススチール製の4本出しマフラー。エキゾーストサウンドは「コンフォート」と「スポーツ」の2種類から選択できる。
リアエプロンにきれいに収まるステンレススチール製の4本出しマフラー。エキゾーストサウンドは「コンフォート」と「スポーツ」の2種類から選択できる。拡大

スピードを上げるほどに歓びが増す

こうしたエンジン特性に、前述したシャシーセッティング、そして、これまたアルピナ仕立てとなるxDrive(4WD)のスタビリティーが加わると、実に魅力的で危険な世界が訪れる。

それまで乗り心地のよさだけを示してきたサスペンションは、荒れた路面における追従性のよさと接地性の高さを、ハンドル越しにどんどん伝えてくる。地面を常に、柔らかく捉えて離さないタイヤ。ステア特性は4WDとは思えないほどニュートラルで、少ない舵角にして、恐ろしく懐深く、そして速く曲がる。BMWの純正と同じ可変ダンパーを使っているにもかかわらず、そのダンピングを独自に制御することによってここまで違いが出せるものなのかと、本当にあきれてしまう。

ここからパワーをかけていっても、一連の動きが一切じゃまされることなく、B3は滑らかにコーナーを立ち上がっていく。やはり独自の制御が施された8段ATのシフトプログラムも、DCTほどではないが十二分にスポーティーであり、その走りをうまく引き出していた。

もしこれがM3だったら、「どんなGでも受け止めてやる!」とばかりにダンパーを締め上げ、わかりやすくスタビリティー感を演出するだろう。そしてドライバーはそのたくましさにほれぼれしながらも、恐ろしく高回転型なエンジンの出力特性に気おされ、「今日はこのくらいでやめとこ」と、そのアクセルを緩めるはずである。

これに対してB3は、その速さをスッとしなやかに受け止める。パワーの出方も狂喜とともに“踏ませる躾(しつ)け”となっている。その速さを喜びに変えて、どこまでも走り続けたくなってしまう分だけ、B3はM3よりもタチが悪いのかもしれない。

やばい、やばい。これはまさに、アルピナ=アルプスのワインディングマスターというべき走りだ。こんなクルマが生まれるドイツという国の環境が、正直とてもうらやましい。

コーナリング時のトラクション性能を高めるため、「B3」のリアには電子制御式アクティブLSDが標準装備される。
コーナリング時のトラクション性能を高めるため、「B3」のリアには電子制御式アクティブLSDが標準装備される。拡大
「B3」の駆動システムは、BMWの「xDrive」をベースとしたフルタイム4WD。前後軸に伝達する駆動力の比率を、シームレスに変更できる。
「B3」の駆動システムは、BMWの「xDrive」をベースとしたフルタイム4WD。前後軸に伝達する駆動力の比率を、シームレスに変更できる。拡大
ブレーキは、前がφ395mmのディスクと4ピストン固定キャリパーの組み合わせ、後ろがφ345mmのディスクとフローティングキャリパーの組み合わせだ。
ブレーキは、前がφ395mmのディスクと4ピストン固定キャリパーの組み合わせ、後ろがφ345mmのディスクとフローティングキャリパーの組み合わせだ。拡大
トランクに備わる小ぶりなスポイラー。アルピナ独自の空力デバイスはいずれも控えめな意匠で、エアロダイナミクスと上質なエクステリアデザインを両立させている。
トランクに備わる小ぶりなスポイラー。アルピナ独自の空力デバイスはいずれも控えめな意匠で、エアロダイナミクスと上質なエクステリアデザインを両立させている。拡大

アルピナを通して“時間”を買う

ちなみに今回、裏磐梯の試乗会場へは、東京ヘリポートから「ロビンソンR44 II」というヘリコプターで移動した。1時間半のフライトは、極度の高所恐怖症である筆者にとっては恐怖体験以外の何物でもなかったのだが、他の参加者たちは、プレミアムブランドならではのアトラクションを楽しんだようだった。しかし輸入元であるニコルの真意としては、そこにハイエンド性よりも、アルピナが持つ“時短”の意を込めていたのだという。

聞けば本国のオーナーたちは、彼らなりの時短の価値を見いだして、アルピナを選ぶというのだ。仕事場までの長距離移動を速く、そして快適かつ楽しく済ませるために、アルピナで時間を買うのである。

アルピナにはこれまでにも何度か試乗していたにもかかわらず、筆者はこの新型B3リムジンで初めて、その神髄に触れたような気がした。

アルピナのオーナーは、語らない。語る必要など、きっとないのである。いやはや。こんなに玄人好みなクルマは、なかなかない。

(文=山田弘樹/写真=ニコル・オートモビルズ/撮影協力=諸橋近代美術館/編集=堀田剛資)

今回試乗した2台の「BMWアルピナB3」と、筆者たちを裏磐梯まで運んだヘリコプター「ロビンソンR44 II」。
今回試乗した2台の「BMWアルピナB3」と、筆者たちを裏磐梯まで運んだヘリコプター「ロビンソンR44 II」。拡大
ホーンパッドを飾るアルピナのエンブレム。同社の創業のきっかけとなった、キャブレター(のファンネル部分)とクランクシャフトが描かれている。
ホーンパッドを飾るアルピナのエンブレム。同社の創業のきっかけとなった、キャブレター(のファンネル部分)とクランクシャフトが描かれている。拡大
アルピナの生産体制は年間1600台ほど。今なお「知る人ぞ知るブランド」であり続けている。
アルピナの生産体制は年間1600台ほど。今なお「知る人ぞ知るブランド」であり続けている。拡大
BMWアルピナB3リムジン アルラッド 20インチホイール装着車
BMWアルピナB3リムジン アルラッド 20インチホイール装着車拡大

テスト車のデータ

BMWアルピナB3リムジン アルラッド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1825×1445mm
ホイールベース:2850mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:462PS(340kW)/5500-7000rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y XL/(後)265/30ZR20 94Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:9.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1229万円/テスト車=1502万9000円
オプション装備:右ハンドル(29万円)/ボディーカラー<アルピナ・ブルー>(43万円)/ALPINA Luxuryパッケージ(79万8000円)/ALPINA Safetyパッケージ(59万8000円)/ヘッドレスト<「ALPINA」ロゴ入り>(6万8000円)/オートマチックトランクリッドオペレーション(7万円)/ガラスサンルーフ(16万4000円)/サンプロテクションガラス(9万円)/ランバーサポート(3万5000円)/シートヒーティング(6万円)/テレビチューナー(13万6000円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

BMWアルピナB3リムジン アルラッド 19インチホイール装着車
BMWアルピナB3リムジン アルラッド 19インチホイール装着車拡大

BMWアルピナB3リムジン アルラッド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1825×1445mm
ホイールベース:2850mm
車重:1840kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:462PS(340kW)/5500-7000rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y XL/(後)265/35ZR19 98Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:9.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1229万円/テスト車=1434万5000円
オプション装備:右ハンドル(29万円)/ボディーカラー<アルピナ・ブルー>(43万円)/ALPINA Safetyパッケージ(59万8000円)/ドアミラーカバー ハイグロスブラック(2万4000円)/オートマチックトランクリッドオペレーション(7万円)/ガラスサンルーフ(16万4000円)/サンプロテクションガラス(9万円)/ランバーサポート(3万5000円)/センサティックフィニッシュ・ダッシュボード(8万円)/テレビチューナー(13万6000円)/harman/kardonオーディオシステム(9万円)/ハイグロスシャドーライン(4万8000円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹

山田 弘樹

ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。

車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

BMWアルピナ B3 の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連記事
関連サービス(価格.com)

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。