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トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ(FF/CVT)

大変革への試金石 2020.12.04 試乗記 鈴木 真人 激戦のコンパクトSUV市場にあって、圧倒的な売れ行きを見せている「トヨタ・ヤリス クロス」。ライバルに対する、この新型車のアドバンテージとは何か? 装備充実のハイブリッドモデルに試乗して選ばれる理由を探った。

売れる要素の集合体

やたらと評判がいい。ヤリス クロスのことだ。ほぼ絶賛するような試乗記が多く、一部に批判的な記述があっても全体としては褒めている。そうなるとアラ探しをしようというへそ曲がり根性が生まれるのだが、悔しいことに弱点が見つからなかった。売れる要素だらけなのである。市場からも好意的に受け止められているようだ。車名別販売台数を見ると「ヤリス」は2020年2月の発売以来コンスタントに月間1万台以上を売り上げていたが、同年9月にはいきなり2万台超え。8月31日に発売されたヤリス クロスの販売台数が加算されるようになったからだろう。

待望のモデルだったことは間違いない。コンパクトカーとSUVという売れ筋の合体なのだ。2019年に発売された「ダイハツ・ロッキー」「トヨタ・ライズ」も好調を維持している。両モデルは、ダイハツの新世代クルマづくりコンセプトDNGAに基づいて開発され、5ナンバーサイズを守りつつ十分な室内と荷室を確保しながら都会的なSUVに仕上がっていた。小さいサイズで流行のスタイルを持つ実用的なクルマが求められていたのである。

ヤリス クロスはロッキー/ライズよりひと回り大きい。5ナンバーのヤリスと同じプラットフォームを使っているが、全長で240mm、全幅で70mm上回る3ナンバー車なのだ。SUVらしい堂々とした体格で、数字以上に大きく感じられる。「C-HR」より少し小さいが、立派さでは引けを取らない。フォルクスワーゲンの「Tロック」と「Tクロス」、「日産キックス」あたりが同等のサイズで、ライバルとなるはずだ。

コンパクトSUVは激戦区なのだが、ヤリス クロスにははっきりとした優位点がある。価格だ。ガソリン車の最廉価モデルは180万円を切っていて、ロッキー/ライズとあまり変わらない。今回の試乗車はハイブリッドの最上級グレードだが、それでも258万4000円。競合車は厳しい戦いを強いられる。

2020年8月に発売された、トヨタのコンパクトSUV「ヤリス クロス」。ハイブリッド車とガソリン車、そしてそのそれぞれにFF車と4WD車がラインナップされている。今回はハイブリッドのFF車に試乗した。
2020年8月に発売された、トヨタのコンパクトSUV「ヤリス クロス」。ハイブリッド車とガソリン車、そしてそのそれぞれにFF車と4WD車がラインナップされている。今回はハイブリッドのFF車に試乗した。拡大
「ヤリス クロス ハイブリッドZ」のインテリアは、ダークブラウンがアクセント。縦にU字を描くセンターコンソールでSUVのたくましさが表現されている。
「ヤリス クロス ハイブリッドZ」のインテリアは、ダークブラウンがアクセント。縦にU字を描くセンターコンソールでSUVのたくましさが表現されている。拡大
最新のハイブリッド車ではあるが、オーソドックスな形状のシフトノブが与えられる。パーキングブレーキは電動式。
最新のハイブリッド車ではあるが、オーソドックスな形状のシフトノブが与えられる。パーキングブレーキは電動式。拡大
オフロードでの走破性の高さも「ヤリス クロス」のセリングポイントのひとつ。最低地上高は170mmとなっている。
オフロードでの走破性の高さも「ヤリス クロス」のセリングポイントのひとつ。最低地上高は170mmとなっている。拡大
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万人向けなカタチがポイント

撮影しながら、カメラマンK氏がつぶやいた。

「ヤリス クロスって、お笑い芸人みたいな名前ですね」

確かに、吉本の養成所にそんな若手漫才コンビがいそうな気がする。しかし、名前の響きとは裏腹に、ルックスは至って端正だ。そもそも、ヤリスという名はギリシャ神話の女神が元になっている。

フロントグリルのデザインは、コンパクトカーのヤリスとは別物である。愛嬌(あいきょう)や親しみやすさは追求していない。ファニーな印象を排したシンプルな造形だ。高い位置にあるリアコンビネーションランプは水平基調でクールさを醸し出している。むやみに要素を増やしてインパクトを狙うような振る舞いがないので、万人に受け入れられるはずだ。トヨタデザインはディテールに富んだ複雑で華やかな造形を目指していた時期があったが、方針転換したのではないか。歓迎すべきだと思う。

全体的にミニマルで雑みのないデザインだが、ちょっとしたSUV的な演出もある。角張ったホイールアーチで力感を表現して野性味をプラス。フェンダーを張り出させているが、過剰感がなくナチュラルだ。ポップな雰囲気もミックスされている。リアハッチを寝かせてトレンドのクーペ的なフォルムも取り入れた。それでいて390リッターの荷室容量を確保しており、実用性に支障はない。

インテリアは少し印象が異なる。エクステリアほどの洗練は感じられなかった。特にドアトリムの素材は好悪が分かれてもおかしくない。フェルトのような感触は温かみを感じさせるともいえるが、エクステリアとは方向性が違うような気がする。ダッシュボードのデザインはいかにも乗用車然としていて、SUVの特別感が見えないのはちょっともったいない。

フロントまわりは上下2段の大径グリルで踏ん張り感を表現。バンパーコーナーの凝った造形は空力性能の向上に貢献する。
フロントまわりは上下2段の大径グリルで踏ん張り感を表現。バンパーコーナーの凝った造形は空力性能の向上に貢献する。拡大
試乗車「ハイブリッドZ」の前席はシートヒーター付き。運転席には6ウェイの電動調節機構も備わる。
試乗車「ハイブリッドZ」の前席はシートヒーター付き。運転席には6ウェイの電動調節機構も備わる。拡大
シートの仕様は全3タイプ。上級グレードの「Z」「ハイブリッドZ」のものは、合成皮革とツイード調ファブリックで仕立てられている。
シートの仕様は全3タイプ。上級グレードの「Z」「ハイブリッドZ」のものは、合成皮革とツイード調ファブリックで仕立てられている。拡大
荷室6:4分割式のフロアパネルが特徴。写真のように、荷物に合わせてフロアレベルを変えられる。長尺物には3分割式の後席を倒すことで対応できる。
荷室6:4分割式のフロアパネルが特徴。写真のように、荷物に合わせてフロアレベルを変えられる。長尺物には3分割式の後席を倒すことで対応できる。拡大

あまりのおもてなしにビックリ

運転席に座ってシートを調整しようとして戸惑った。前方にレバーがないのだ。まさかと思って側面を探ったら、電動スイッチが備わっていた。このクラスだとシート調整は手動が普通なので驚いたのだ。少し前に逆の経験をした。試乗車より200万円ほど高価なコンパクトSUVのシートが手動調整だったのだ。電動でも手動でも機能は同じだが、ドライバーの気分は変わる。

ただ、動かすときにビックリするほど大きな音がする。コストダウンのためにモーターを1個にして、複雑な機構で動作させているそうだ。お金をかけずに知恵を使う。涙ぐましい努力である。試乗車のグレードにはシートヒーターが標準で、ステアリングヒーターがオプションで装備されていた。さらに、ジェスチャーコントロールの電動リアハッチも。トヨタ伝統のおもてなしが充実していて、厚遇されていると感じるのは気持ちのいいものだ。

着座位置が高く、前方視界は良好だ。SUVが支持されている理由のひとつである。この感覚を覚えてしまうと、コンパクトカーやセダンに戻れないのだろう。ボディーが大きいのだから車重が増えるわけだが、ヤリスからの増加はそれほど大きくない。試乗車は1.2tほどで、鈍重な感じはなかった。ヤリス クロスに与えられるエンジンは3気筒1.5リッターの1種類のみ。ハイブリッドモデルにはモーターも加わるが、システム出力はガソリン車よりわずかに劣る。しかし、動力性能に不満は感じなかった。元気に走っても、燃費はなかなか20km/リッターを下回らない。

コンパクトで視界がいいから、街乗りで実用性の高さを見せる。日常で使いやすいのに加え、遠出するのも得意分野だ。先進安全機能の「Toyota Safety Sense」はほぼ全グレードで標準装備となっている。ACC(アダプティブクルーズコントロール)はたまに車線を見失うが、出来は悪くなかった。山道でも軽やかな身のこなしを見せる。特にスポーティーな走りではないけれど、家族と一緒のドライブには向いているだろう。

運転席の座面側方に並ぶ、シートの調節スイッチ。写真右側(車体前方)から順に、前後スライド、座面の上下動、背もたれのリクライニングとなっている。
運転席の座面側方に並ぶ、シートの調節スイッチ。写真右側(車体前方)から順に、前後スライド、座面の上下動、背もたれのリクライニングとなっている。拡大
電動式のバックドアには、はさみ込み防止機能と停止位置メモリー機能、予約ロック機能が付く。7万7000円のオプションである(写真は操作スイッチ)。
電動式のバックドアには、はさみ込み防止機能と停止位置メモリー機能、予約ロック機能が付く。7万7000円のオプションである(写真は操作スイッチ)。拡大
今回は280kmほどの道のりを試乗。満タン法で22.0km/リッター、車載計測機で20.9km/リッターの燃費を記録した。
今回は280kmほどの道のりを試乗。満タン法で22.0km/リッター、車載計測機で20.9km/リッターの燃費を記録した。拡大
最高出力91PSの1.5リッター直3エンジンに、最高出力80PSの電気モーターを組み合わせたハイブリッドユニット。「ハイブリッドZ」の場合、WLTCモードの燃費値は27.8km/リッターと公表される。
最高出力91PSの1.5リッター直3エンジンに、最高出力80PSの電気モーターを組み合わせたハイブリッドユニット。「ハイブリッドZ」の場合、WLTCモードの燃費値は27.8km/リッターと公表される。拡大
サスペンションの形式は、フロントがマクファーソンストラット式でリア(FF車)がトーションビーム式。なお、4WD車のリアはダブルウイッシュボーン式となる。
サスペンションの形式は、フロントがマクファーソンストラット式でリア(FF車)がトーションビーム式。なお、4WD車のリアはダブルウイッシュボーン式となる。拡大

オートパーキングも秀逸

試乗車にはオプションで「トヨタチームメイト アドバンストパーク」が装備されていた。いわゆるオートパーキングである。何度も痛い目に遭ってきたのであまり期待せずに試してみたが、実に秀逸な出来だった。駐車スペースを見つけるのが素早いのがありがたい。いつまでも探し続けてシステムが始動しないクルマが多いのだ。

シフト操作は手動だが、直感的な操作で確実に枠の中に駐車することができる。ダイハツの「スマートパノラマパーキングアシスト」に似ているが、より簡単だった。すべてが自動の「日産リーフ」にはかなわないが、実用になるレベルである。自動駐車をうたいながら何度も切り替えしたあげく“極道止め”になってしまうクルマは猛省してほしい。

SUVが主流になりつつある中で、トヨタはバリエーションを拡大している。「ハリアー」と「RAV4」でミドルサイズをカバーした上で、コンパクトでも万全の態勢を整えた。ヤリス クロスはボリュームゾーンに向けて投じられたモデルで、コンパクトカーのヤリスより存在感を強めていく可能性が高い。2020年7月にはタイで「カローラ クロス」が発売されており、トヨタはSUVのフルラインナップ化を進めているように見える。

2020年11月11日には中日新聞が衝撃的な記事を掲載した。「クラウン」がセダンからSUVに移行するというのである。真相は不明だが、2年前に兆しがあった。15代目クラウンの開発者インタビューで、チーフエンジニア秋山 晃氏は「本当はクラウンというブランドの中にいろいろな車体形状があってもいいんですよ。クラウンのSUVとかミニバンとかね」と話していた。デザイナーの國重 健氏に可能かと尋ねると「できると思います。今、頭の中でモーフィングができました」と答えたのだ。ヤリス クロスは試金石である。快進撃を続ければ、トヨタのSUV路線が加速するのを止めることができなくなるかもしれない。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)

ステアリングホイールのスポーク部には、運転支援システムやインフォテインメントシステムのスイッチが並ぶ。試乗車にはオプションのステアリングヒーターが装着されていた。
ステアリングホイールのスポーク部には、運転支援システムやインフォテインメントシステムのスイッチが並ぶ。試乗車にはオプションのステアリングヒーターが装着されていた。拡大
メーターパネルは、オプティトロンメーターと7インチのカラーディスプレイで構成される。今回の試乗車「ハイブリッドZ」にはヘッドアップディスプレイも備わる。
メーターパネルは、オプティトロンメーターと7インチのカラーディスプレイで構成される。今回の試乗車「ハイブリッドZ」にはヘッドアップディスプレイも備わる。拡大
「ヤリス クロス」には、トヨタのSUVとして初めて、ステアリングとアクセル、ブレーキを制御する駐車支援システムが用意される。並列駐車と縦列での駐車・出庫が可能となるほか、駐車区画のラインがないスペースでも利用できる。
「ヤリス クロス」には、トヨタのSUVとして初めて、ステアリングとアクセル、ブレーキを制御する駐車支援システムが用意される。並列駐車と縦列での駐車・出庫が可能となるほか、駐車区画のラインがないスペースでも利用できる。拡大
簡単な操作とスピーディーな駐車を強みとする駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」。シフトポジションの切り替えは、写真でメッセージが表示されている通り、手動で行う必要がある。
簡単な操作とスピーディーな駐車を強みとする駐車支援システム「トヨタチームメイト アドバンストパーク」。シフトポジションの切り替えは、写真でメッセージが表示されている通り、手動で行う必要がある。拡大
「トヨタ・ヤリス クロス」の価格帯は、ハイブリッド車で228万4000円から281万5000円。ガソリン車では179万8000円から244万1000円となっている。
「トヨタ・ヤリス クロス」の価格帯は、ハイブリッド車で228万4000円から281万5000円。ガソリン車では179万8000円から244万1000円となっている。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1765×1560mm
ホイールベース:2560mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:27.8km/リッター(WLTCモード)/31.3km/リッター(JC08モード)
価格:258万4000円/テスト車=323万7785円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカ×ホワイトパールクリスタルシャイン>(7万7000円)/ステアリングヒーター(1万1000円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W、1個、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ハンズフリーパワーバックドア<はさみ込み防止機能・停止位置メモリー機能・予約ロック機能付き>(7万7000円)/アダプティブハイビームシステム<AHS>+カラーヘッドアップディスプレイ(9万9000円)/ブラインドスポットモニター<BMS>+リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車両]>(4万9500円)/トヨタチームメイト アドバンストパーク<パノラミックビューモニター付き>(7万1500円 ※同時選択により7万7000円から減額) ※以下、販売店オプション T-Connectナビキット(11万円)/フレックスベルト<2本入り>(3960円)/アームレスト(1万9800円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ボイスタイプ(2万5575円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<フロントカメラタイプ>(4万1800円)/フロアマット<デラックス>(2万3650円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2606km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:286.0km
使用燃料:13.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:22.0km/リッター(満タン法)/20.9km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ
トヨタ・ヤリス クロス ハイブリッドZ拡大
上級グレード「Z」「ハイブリッドZ」にはセンターオーナメント付きの切削光輝18インチアルミホイール(写真)が装着される。それ以外のグレードのホイールサイズは16インチとなる。
上級グレード「Z」「ハイブリッドZ」にはセンターオーナメント付きの切削光輝18インチアルミホイール(写真)が装着される。それ以外のグレードのホイールサイズは16インチとなる。拡大
「トヨタ・ヤリス クロス」には、計15種類のボディーカラーがラインナップされる。
「トヨタ・ヤリス クロス」には、計15種類のボディーカラーがラインナップされる。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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