ポルシェ・タイカン ターボS(4WD)
ポルシェにしかつくれない 2020.12.30 試乗記 ポルシェは並のクルマはつくらない。ブランド初の電気自動車(EV)として送り出された「タイカン」は、EVであると同時に第一級のスポーツサルーンでもある。ワインディングロードで味わえたのはあまりに濃密な「ポルシェらしさ」だった。混迷の中で真打ち登場
最近EV周辺が騒がしい。もちろん“脱ガソリン車”を打ち出したリーダーたちの発言の影響だろう。自動車界の盛衰を見守ってきたクルマ好きの皆さんは心配無用だと思うが、トレンドに乗り遅れまいとする、あるいは何にでも“いっちょかみ”したい政治家の話には冷静かつ現実的に耳を傾ける必要がある。地球温暖化を抑止するために温室効果ガス削減に努力するのは私たちの義務だが、だからといって自動車という製品側だけで一気に変革を成し遂げられるものではない。カリフォルニア州がいわゆるZEV法を施行したのは今から30年も前のこと、京都議定書(COP3)が採択されたのは1997年だった。紆余(うよ)曲折の末にようやくここまで来た、というのがそれ以前からいわゆる業界を見続けてきた私の実感である。
各国の政策やエネルギーミックスについてここでは述べないけれど、蛇足ながらひとつ言いたいのは、一見分かりやすい決めつけ論には注意すべきということだ。EV至上論はもちろん、モーターとバッテリーさえあれば、誰でも自動車をつくれる時代がやってきたというような、短絡的すぎる意見も同様だ。安全性を担保しなければならない市販車が簡単に組み立てられたら誰も苦労しないというものである。努力しても最適解を得るのは容易ではない。大人だったら皆、身に染みて分かっているはずだ。
フランクフルトモーターショーに現れた「ミッションE」からほぼ5年、ポルシェのEV「タイカン」が現実の製品となって登場した。取り上げたのは「4S」と「ターボ」、そして「ターボS」と3モデル用意されているうちの最強力バージョンのターボSである。無論ピュアEVなので本当にターボチャージャーが備わるわけではなく、あくまで最高性能モデルの象徴としてのネーミングである。