世捨て人が選ぶのは日本のコンパクトカー
『15年後のラブソング』には、2種類のダメ男が登場する。いいダメ男と悪いダメ男だ。キャスティングがいい。イーサン・ホークとクリス・オダウド。ヒロインのローズ・バーンもハマっている。3人ともいい年だが、大人になりきれていない。
イギリスの小さな町で暮らすアニー(バーン)は、恋人のダンカン(オダウド)と15年間同棲(どうせい)している。お互いに空気のような存在で、もはや情熱のかけらもない。穏やかな生活ではあるが、いろいろなことを諦めてしまった結果なのだ。
ダンカンは究極のオタクである。彼が神のようにあがめているのが、1990年代初頭に活躍したロックシンガーのタッカー・クロウ(ホーク)。彼はスマッシュヒットを飛ばした直後に姿を消してしまい、伝説的な存在となった。現在も残っているカルト的な信者のリーダーがダンカンである。ファンサイトを運営し、タッカーを論じることだけが生きがいだ。
ダンカンとケンカしたアニーは、そのサイトにタッカーを批判するコメントを投稿する。反応のメールが届いた。タッカー本人からである。彼はアメリカの田舎でガレージ暮らし。長らくギターを手にしておらず、すっかり世捨て人になっている。ガレージ内には「ゴルフ カブリオ」が置かれているが、普段乗っているのは「ダイハツ・シャレード」。アメリカ映画でシャレードを見たのは初めてかもしれない。
タッカーがものにこだわりを持たないことを表現するにはベストなセレクトである。常識人のアニーは「フォード・フィエスタ」に乗っていて、古臭い考えの町長は「MGB」が愛車。ライトな作品だが細部に配慮が行き届いており、人物の造形に説得力がある。ダンカンは自分の趣味を優先してまわりを顧みないオタクだから、先行きの見込みがない。タッカーはだらしない生活を送っていたが、人の痛みを知ることができる。アニーがどちらを選ぶべきかは明白なのだ。
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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