強盗が引っ張るのは刑事のボログルマ

『ブルータル・ジャスティス』というタイトルは、“野蛮な正義”といった意味である。警官が主人公なのだが、実際には正義が執行されることはない。それどころか、金塊を悪人と奪い合う。原題は『Dragged Across Concrete』。長年コンクリートの上を引きずられるようにして現場で苦労してきたベテラン刑事の話なのだ。

昔かたぎと言えば聞こえがいいが、いささか時代遅れの捜査手法が染み付いてしまっている。現在のコンプライアンス的にはアウトなのだ。麻薬の売人を逮捕したのはいいが、確保する際に首根っこを足で押さえつけたことが問題になる。現実のアメリカで同じようなことが起きていたことは記憶に新しい。6週間の停職で済んだのが不思議なくらいだ。

刑事ブレットを演じるのはメル・ギブソン。乱暴な発言や行動で何度も批判を浴びてきた人だけに、妙なリアリティーがある。無給となった彼は、相棒のトニー(ヴィンス・ヴォーン)とともに犯罪者を襲って金を奪うことにした。妻が病気で苦しんでおり、金が必要なのだ。

もうひとりの主人公は、黒人青年のヘンリー(トリー・キトルズ)だ。刑務所から出てきたばかりで仕事がなく、友達から誘われて強盗の手伝いをすることになる。根っからの悪人ではない。足の悪い弟を気遣う優しい心根を持っている。映画では、彼の生活を静かに淡々と描き出す。159分という長尺になってしまったのは、登場人物たちの背景をていねいに見せているからだ。観客は次第に彼らの気持ちとシンクロしていくのを感じる。

凄惨(せいさん)な犯罪の末に、ブレットとヘンリーは協力せざるを得なくなる。ブレットが乗っているクルマは1980年代の「シボレー・カプリス」。今にも壊れそうなエンジン音で、最後にはヘンリーが運転するSUVにけん引されることになった。経験した人ならわかるはずだが、引っ張るほうも引っ張られるほうも技術がいる。そして、何より大切なのが息を合わせること。彼らはすでに信頼関係を築いていたのだ。そのことに気づけば、悲劇的な結末を避けることができたはずである。

(文=鈴木真人)

『ブルータル・ジャスティス デラックス版』Blu-ray+DVDセット
『ブルータル・ジャスティス デラックス版』Blu-ray+DVDセット拡大
「シボレー・カプリス」
シボレーのフルサイズセダンで、1965年に登場。「インパラ」の上位版という位置づけだった。映画に登場するのは3代目モデル。
「シボレー・カプリス」
	シボレーのフルサイズセダンで、1965年に登場。「インパラ」の上位版という位置づけだった。映画に登場するのは3代目モデル。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

あなたにおすすめの記事
新着記事