スズキ・ソリオ ハイブリッドMZ(FF/CVT)
競争が進化を加速する 2021.03.08 試乗記 スズキのコンパクトハイトワゴン「ソリオ」が新型に生まれ変わった。ボディーサイズの拡大も乗り味の変化も、すべてはライバル車の研究のもとに行われた改良だ。最上級グレードの「ハイブリッドMZ」に試乗し、その進化のほどを確かめた。絶対から相対へ
ソリオを名乗るスズキ車が、現在のようなスライドドア付きとなって3世代目となるが、“ライバルありき”で開発されたのは今回が初めてとなる。
2010年12月に発表された先々代ソリオは、当時の「パレット」のような軽スーパーハイトワゴンの拡幅版(?)とも受け取れる姿で登場した。もっとも、当時のソリオでも、プラットフォームから軽のそれとは別物で、大物部品でパレットと共通なのはドアくらい。軽のようで軽でない絶妙な小ささで、5人乗りで前後ウオークスルーもできるのに絶妙に小さい……という“ありそうでなかった新ジャンル”として誕生した。そんなスズキのアイデア商品は、全盛期には年間4万台を売り上げて、国内では「スイフト」とならぶ白ナンバーコンパクトの大きな柱となった。
独自の地位を築いたソリオは2015年8月にフルモデルチェンジされる。ホイールベースが伸びて、スライドドアはより開口幅の大きい専用設計となったものの、全長はビタ1mmも大きくならず、全幅が「デザインのため」との理由で5mm増えただけだった。
「古都や下町のせまい路地で使いやすい軽サイズがいいんだけど、どうしても5人乗りたい……というお客さまの声を聞いてつくったのが、そもそものソリオ。“これじゃないとダメ”とおっしゃるお客さまも多いので、営業側からもサイズは絶対にキープしてほしいとの要望もありました」と当時の開発担当者が語っていたことを思い出す。この言葉からも分かるように、当時のソリオはまだ唯一無二の絶対的な存在だったわけだ。
しかし、そんな先代ソリオが発売された約1年後の2016年秋に、スズキの宿敵ダイハツが、ついに「トール」を放つ。ソリオにとっては初めての競合車である。しかも、じつはその本命が大トヨタにOEM供給される「ルーミー」と「タンク」とくれば、ただごとではない。
ライバルが拡大したマーケット
今の日本の街並みを見てお気づきのように、このジャンルのクルマは、ソリオ単独時代の“知る人ぞ知る”的な存在から瞬く間にド定番商品に成長した。それはもちろん、トヨタのルーミー/タンク(ちなみに2020年5月にルーミーに一本化)のバカ売れによるところが大きい。
そんな巨大な敵を前にして、ソリオもついに息も絶え絶えか……といえば、じつはそうでもない。むしろ、その逆だ。さすがに合計12~17万台も売っているルーミー/タンクにはおよばないが、トヨタが市場そのものを急拡大してくれたこともあってか、先代ソリオは2016年と2017年に年間5万台近くを売り上げた。そしてコロナ禍で上半期は壊滅的だった2020年でも4万台超を売って、先代ソリオはモデルライフを通じて先々代の業績を上回ったのだ。そんなソリオは今や、国内でもっとも売れるスズキのコンパクトカーなのである。
ただ、強大なライバルの登場は、ソリオのクルマづくりに明確に影響している。
かつて「これがソリオのソリオたる由縁」と胸を張っていた車体サイズが、この新型でついに拡大されたのだ。基盤となるホイールベースは先代同様の2480mmなのに、全長は一気に80mm伸びた。全幅は20mmの拡大である。たかが20mmともいえるが、「全幅は徹底した議論の末にデザイナーに5mmだけ渡した」と語られた先代のエピソードを思い出すと、これは小さくない。
こうして完成した新型ソリオのサイズは、ライバルとなったダイハツ・トール(≒トヨタ・ルーミー)と比較すると、全長で85~90mm上回る。つまり、もともとダイハツにガチンコでぶつけられてきた全長を、新型で一気に突き放したカタチである。対して全幅は新型でもトールより25mmせまい。日本(とくに地方や古い路地)での取り回しには全幅が大きく影響するのはご承知のとおりで、全幅にギリギリ抑制をきかせたあたりが、ソリオの矜持(きょうじ)かもしれない。
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ぜいたくな4気筒
新型でプラスされた車体サイズは、後席の頭上や肩まわり空間の拡大と、荷室の拡大に充てられている。先代がトールに明確に負けていたのが、この2つのポイントだからだ。とくに、トールの「26インチ自転車が2台積める!」という積載性能はインパクトがあった。新型ソリオはさすがに自転車2台とはうたわないが、乗車定員分=5個の35リッタースーツケースが積めるという荷室は、パッと見ただけでも広くなった。これだけでも軽スーパーハイトではない白ナンバーの存在価値はある。
新型ソリオの走りで印象的なのは静粛性の高さだ。現在のコンパクトカー/スモールカーでは3気筒エンジンが主流となりつつあり、トールも3気筒である。しかし、新型ソリオはおなじみの1.2リッターデュアルジェットの改良型を使う。すなわち4気筒だ。そして、そこにベルト駆動のスターター兼発電機(ISG)を組み合わせたマイルドハイブリッドが主力(一部の安価モデルはISG非装着)で、今回の試乗車もそれだった。
ISGによるエンジン再始動の滑らかさもあって、3気筒のルノーがここ数年の普段グルマである私なんぞは、これだけで「4気筒ってやっぱりいいなあ」と思う。ただし、新型ソリオが静かな理由はそれだけでなく、車体各部の構造接着剤やルーフメンバー接合部の高減衰マスチックシーラー、一体型ダッシュアウターサイレンサーといった、2020年初頭に発売された「ハスラー」以来の技術が効いているようだ。
宿敵トールは全車1リッターなので、日本の自動車税制下ではソリオの1.2リッターは不利である。しかし、スズキがもっている1リッター3気筒ターボは従来のディーゼルや1.6リッター級を想定したハイテクエンジンのため、コストの厳しいソリオには不向きらしい。
乗り味に見るライバルの影響
今回はシャシーの仕立てにもトール……というか、ダイハツの影響を感じる部分がある。全体にダンピングが以前より柔らかく感じる設定となっていて、それがとくにフロントよりリアで顕著であることだ。そのおかげで後席の突き上げなどは明確に優しくなったのだが、そのぶん、ステアリングの落ち着きは少し後退した。
ちょっとしたステアリング操作や路面の影響によってリアがゆらっとロールしてしまうことで、フロントの軌跡がこれまでほどピタリと定まりにくいのだ。また、操舵によってカクンと傾くロールスピードがよくも悪くもちょっと速めで、クルマ全体の動きもちょっと大きい。
これまでの“スズキ味”といえば、パリッと引き締まったリアを軸にした、正確で情報量が豊富なステアリングフィールにあった(と私は思っている)。そう考えると、スズキファンの私としては、新型ソリオの味わいにちょっと同意しかねるところもなくはない。
しかし、これは今回のソリオにかぎらず、たとえばスイフト、それに軽自動車の「スペーシア」やハスラーも含めて、最新のスズキ(の国内仕様)に共通する方向性といってもいい。スズキがシャシーにこうした調律を施すようになった背景には、国内の販売現場から「ダイハツより後席の乗り心地が悪い」という声が少なくなかったこともあるそうだ。グローバルの売上高ではダイハツなど敵ではない(失礼!)スズキだが、国内ではことあるごとにダイハツと正面対決となってしまうのは、ご承知のとおりである。
まあ、それでも乗り手がメリハリをきかせたドライビングを心がけて、積極的に前荷重にするほどステアリングがヒタッと落ち着くあたり、新型ソリオにもかつてのスズキの伝統は残っている。……なんて、クルマオタクがならべるご託は、実際に新型ソリオをトール(あるいはルーミー、しからずんば「スバル・ジャスティ」?)と真剣に比較検討して実際に買われるような皆さまの大半にとっては、どうでもいい話……なのが、ちょっと口惜しいのだけれど。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオ ハイブリッドMZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3790×1645×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:直流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/4400rpm
モーター最高出力:3.1PS(2.3kW)/1000rpm
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:202万2900円/テスト車=235万3065円
オプション装備:全方位モニター用カメラパッケージ(5万5000円)/全方位モニター付きメモリーナビゲーション(18万7000円) ※以下、販売店装着オプション フロアマット<ジュータン>(2万9315円)/ETC車載器(2万1120円)/ドライブレコーダー(3万7730円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1393km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:629.0km
使用燃料:43.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.3km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。