トライアンフ・トライデント660(6MT)
スポーツライディング・ギア 2021.04.14 試乗記 トライアンフのミドル級バイク「トライデント660」が日本上陸。クールなスタイリングと戦略的な価格が目を引く新型モーターサイクルは、乗ってみても思わずほほがゆるむ、極めて魅力的な一台だった。街なかでも堪能できる
600ccクラスは世界的に人気が高い。各メーカーが非常に力を入れているため、手ごろな価格で高性能なマシンがひしめき合っている。そんななかに満を持して投入されたのがトライアンフ・トライデント660だ。
エンジンは同社の「ストリートトリプル」がベース。Moto2クラスのレーシングマシンに採用されるほどパワフルなエンジンだが、トライデントでは約70%の部品を新設計。ボアを縮小してストロークを伸ばし、低中速寄りのカムタイミングに変更するなどしてストリートに適した特性をつくり上げている。
街なかを走ってみると、このエンジンが実に楽しい。スロットル全閉からのレスポンスがマイルドだから、ゴーストップが多い街なかでも気を使わずに済むし、そこからスロットルを開けていくと、それに応じてトルクが出てくる設定になっている。個人的な好みで言えば、もう少し低回転からの荒々しさが欲しいところだが、この乗りやすさを歓迎するライダーは多いことだろう。
中速を重視したエンジン特性のために3000rpmも回っていれば自由自在。交差点の立ち上がりでもスロットルを開ければ3気筒独特の排気音とともにパワーが出てリアタイヤにトラクションがかかるから、さほどスピードが出ていない状態でもマシンのコントロールを楽しむことができる。
スロットルを開け続けると7000rpmぐらいからパワーが盛り上がり、がぜん元気になる。この時のフィーリングがとてもエキサイティングで楽しい。レブリミットは1万rpmを少し超えたところで、ストリートトリプルに比べるとパワーの盛り上がり方は穏やか。高回転での突き抜けるような伸びも抑えられているが、ストリートでのライディングが中心なのであれば、このくらいの設定がベスト。こういうところの味つけはとても上手だと思う。
もちろん快適さに関しても問題なし。高速道路を100km/hで巡航してみるとトップギアでは4500rpm。振動はほとんどなく、3気筒エンジンの鼓動感だけがかすかに伝わってくる。長距離のツーリングでも疲れは少ないはずだ。
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学べるスポーツバイク
足まわりは、ワインディングロードくらいでの走りを想定してセッティングされている。ペースを上げてコーナーに飛び込んでいっても荷重をキチンと受け止めてくれるし、路面の継ぎ目からくるショックもよく吸収してくれているから、乗り心地は悪くない。
首都高速で大きめのギャップを越えた時は突き上げがあったが、この価格帯のマシンに装着されているサスペンションとしては出来がいい。トライデントで想定される走り方に対しては十分過ぎる性能を持っている。
車体は軽くてスリムだし、ハンドリングはニュートラルだからストリートも軽快に走ることができるが、19インチや18インチのタイヤを装着したクラシカルなネイキッドモデルのように、バイク任せでゆったりとバンクしていくようなハンドリングではない。車体のディメンション自体はスポーツバイクに近いからだ。キャスターアングルも24.6度と立ち気味になっていて、フォークのオフセットを少なめにしてトレールを増やして直進性を確保している。
そのため、ストリートでも若干バンク角を深くして、コーナリングを楽しもうとした場合は、ステップやハンドルへの加重や体重移動など、ライダーの積極的な操作が重要になる。
もっとも、過激なスポーツネイキッドのような難しさはないから、スポーツライディングの楽しさを学ぶのにちょうどいいくらい。ビギナーでも臆(おく)することなく走りだせるフレンドリーさを持っているが、スポーツライディングまで楽しみたい中上級者まで満足させることができるマシンである。この走りが100万円を切った価格で手に入れられるというのは、とても魅力的である。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×795×1089mm
ホイールベース:1400mm
シート高:805mm
重量:189kg
エンジン:660cc 水冷4ストローク直列3気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:52PS(60kW)/1万0250rpm
最大トルク:64N・m(6.5kgf・m)/6250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:97万9000円