メルセデス・ベンツGLS580 4MATICスポーツ(4WD/9AT)
求む、酷い道 2021.05.17 試乗記 「メルセデス・ベンツGLS」は単なる高級車にあらず! いや、第一級のラグジュアリーSUVであるのは当然として、凝りに凝ったアイテムによる高い悪路走破性も隠し持っているのだ。ラグジュアリーなオフローダーの仕上がりやいかに!?これがスタンダードの国もある
巨大なスリーポインテッドスターを、これまた大きなグリルにはめ込んだメルセデス・ベンツ最大のSUVがGLSである。先代モデルの途中から呼び方が変わり、「S」が付いた「GLクラス」改めGLSは、全長ほぼ5.2m、全幅2mあまりの巨大なボディーを持つ3列シート/7人乗りのフラッグシップモデルだ。もちろん日本の道ではいささか持て余すサイズで、まるでトイプードルの中に交じったスタンダードプードルのように目立つ。昔、これが本当のプードルです、と言われた時には驚いたものだが、飼い主さんにとっては当たり前のように、このサイズが当然の国も多い。新型「キャデラック・エスカレード」はもっと大きいのだ。
現行型はGLクラス時代から数えて3代目、昨2020年春に国内導入された新型である。日本仕様は3リッター直6ディーゼルターボを積む「GLS400d 4MATIC」(最高出力330PS/最大トルク700N・m)と、ガソリン4リッターV8ツインターボ搭載のこの「GLS580 4MATICスポーツ」、そして昨年末に導入された最強力版の「メルセデスAMG GLS63 4MATIC+」(同612PS/同850N・m)というラインナップである。
運転席によじ登れば、すっかり見慣れた最新メルセデスの眺めが待っている。12.3インチのデジタルディスプレイが2枚棟続きとなったインストゥルメントパネルは他のモデルと共通、対話型インフォテインメントシステムの「MBUX」も当然装備されるが、ステアリングホイールは最新の「Eクラス」や「Sクラス」のようにつるりとしたタッチスイッチが並ぶ仕様ではない。もはやコマンドダイヤルが見当たらないセンターコンソールにグラブハンドルとローレンジスイッチが備わるのがSUVらしい点だ。ちなみにローレンジは「オフロードエンジニアリングパッケージ」というオプションに含まれており、それを選ぶと他に「オフロード+」モードが加わるうえに前後駆動力配分がよりオフロード向けの設定(標準の前後50:50~0:100が100:0にまで広がる)になるという。車重およそ2.7tもの巨体をローレンジが必要とされる場面で走らせることは、あまり考えたくない。
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豪勢そのもの
普通の道を穏やかに走っている限り、ローレンジまで備える本格4WDのほこりっぽさはみじんも感じない。何しろメルセデスのフラッグシップSUVだけにインテリアは豪勢そのもの、室内スペースも広大だ。3列目まで立派で頑健なレザーシートがおごられているが、その3列目シートはさすがに余裕たっぷりとまではいかない。大人2人(しかも身長194cmまで!)に快適なスペースという触れ込みで、専用のエアコン吹き出し口やシートヒーターまで備わるものの、やはりシート座面は低く膝回りも窮屈だ。もっとも、2列目シートの乗員と空間を譲り合えばそれなりに実用的といえるだろう。
ラゲッジスペース容量は7人乗車状態でも355リッターとかなりのもの。さらに2&3列目シートは荷室に備わるスイッチで個別に電動格納可能なので、用途に応じていかようにもアレンジできるはずだ。何でも気にせず放り込める、こんな広さに慣れてしまうと他のクルマが皆小さく感じるのが困りもの。コンパクトSUVってそもそも何のためだっけ? という考え方になってしまうのだ。
48Vの恩恵
そう感じるのはこれほどの巨体がスイスイ滑らかに走るからである。最高出力489PS/5500rpmと最大トルク700N・m/2000-4000rpmを生み出す4リッターV8ツインターボに9段ATというパワートレインは実にスムーズで力強く、持て余す感覚はない。これには48V駆動のISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)付きであることも効果が大きいはずだ。当然アイドリングストップやコースティングに加えて、軽負荷時にはV8の半分を停止するシリンダー休止機構も備わるが、マイルドハイブリッドの特徴を生かしてそのオン/オフは極めて滑らかだ。
さらに48Vの電装システムはGLS580のもうひとつの特徴の基礎にもなっている。GLS580には「E-ABC」、すなわちEアクティブボディーコントロールと称するサスペンションが備わっている。この種の大型重量級にはもはや必須といえるエアサスペンションと可変ダンパーに加えて、4輪それぞれに48V駆動の電動油圧アクチュエーターを装備して、積極的に車両の姿勢を制御するいわばアクティブサスペンションである。新型Sクラスにも設定されているが、日本仕様には今のところ未搭載の最新サスペンションがGLS580には既に備わっているというわけだ。
このシステムには、ステレオカメラで前方の路面状態を検知してサスペンションを制御するロードサーフェススキャン機能に加えて、「ダイナミックカーブ」機能が盛り込まれている。ダイナミックセレクトでカーブモードを選んでおけば、コーナーでの姿勢変化を抑えることができる。車線変更時にも外側ボディーがグイッと持ち上がってスパッと鼻先が入る感じで、人によっては違和感を覚えるかも、と思うほどだが、とにかくフラットで洗練された乗り心地であることは間違いない。
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自分で踊るSUV
さらにユニークなのは「スタックアシスト」なる機能である。スイッチひとつで各輪が上下運動を始め、まるでダンスのようにクルマが踊り始めるのだ。何のことやらという方も多いだろうが、もちろん週末の大黒パーキングで注目を集めるための装備ではない。昔の“四駆乗り”はこれを人力で行っていた。バンパーなどに乗って、空転するホイール側の荷重を増やし、あるいはクラッチを瞬間的に断続してグリップのきっかけを与えてスタックから脱出する方法である。
サファリラリーなどでは常識的なテクニックだったが、見たことのある人はもういないだろうなあ、と遠い目をしている場合ではない。今やそれをクルマ側のアクティブサスペンションがタッチスイッチひとつで自動的に行うのだ。すごい時代になったものである。付け加えるとこのクルマには4輪の車高を個別調整できる機能も付いている。本当に必要となる場面に日本で遭遇するとは思えないが、駐車場でボディーを斜めにするだけでは満足できず、ぜひとも実地で試したいという気持ちが今ムクムクと湧き出している。でも編集部の若手スタッフには無視されそうだし、それなりのタイヤに履き替える必要もあるしなあ……。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLS580 4MATICスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5220×2030×1825mm
ホイールベース:3135mm
車重:2690kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:489PS(360kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/2000-4000rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)
モーター最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)
タイヤ:(前)275/45R21 107Y/(後)315/40R21 111Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:8.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1687万円/テスト車=1753万6000円
オプション装備:オフロードエンジニアリングパッケージ(22万2000円)/Burmesterハイエンド3Dサラウンドサウンドシステム<26スピーカー>(44万4000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:5677km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:422.1km
使用燃料:61.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.9km/リッター(満タン法)/6.8km/リッター(車載燃費計計測値)
