新型「インディアン・チーフ」のパフォーマンスに触れる
洗練と狂気 2021.06.14 Indian Chief 100年目の進化と継承<AD> 100年の歴史を数える、アメリカの伝説的モーターサイクル「インディアン・チーフ」。節目となる年に登場した新型は、私たちにどのような走りを見せてくれるのか? “パフォーマンスクルーザー”カテゴリーを面白くする、インディアン渾身の一台を味わった。走りも楽しめるクルーザーモデル
かつて、インディアン・チーフのようなスタイルのモーターサイクルは、日本市場では「アメリカン」と呼ばれていた。現在では「クルーザー」と呼び名を変えているが、“そう呼ばれていたころのアメリカン”は、V型2気筒エンジンの荒々しい鼓動と排気音を感じながら、手前に大きく引かれたハンドルを操り、ハイウェイなどをゆったりと流す乗り物だった。
しかし新型チーフは、そのイメージを大きく覆す。日欧の切れ味鋭いスポーツバイクとは異なるが、立ちはだかる空気の層をブチ破るように加速するNASCARマシンさながらに、芯の太いスポーツ性を持つパフォーマンスバイクだったのだ。
今回試乗したのは、日本での発売を間近に控えた新型チーフ3モデルのうちの一台、「チーフ ダークホース」である。新型チーフシリーズの中でもこのモデルは、ハンドル位置を低く抑え、ヒザを軽く曲げたミッドマウントポジションにステップを配置し、そして前後にキャストホイールを装着した、最もスポーティーなキャラクターとなっている。
エンジンは3モデル共通で、「チーフテン」などで実績のある挟角49°の空冷V型2気筒OHV 2バルブ「サンダーストローク116」だ。1890ccの排気量と3カムのユニークな動弁機構を持つこのエンジンは、新型チーフへの搭載にあたり、排出ガスを中心とした欧州最新の二輪車規制「ユーロ5」への適合が図られた。
フレームは新型チーフのために独自開発されたもので、ステアリングヘッドから伸びる鋼管のラインが、2本タイプのリアサスペンションを経てリアアクスルへと緩やかにつながり、かつてのリジッドフレームのような曲線をつくり上げている。
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「サンダーストローク116」の凄みに圧倒される
テスターにチーフのパフォーマンスを強く印象づけたのは、出力特性が異なる3つのライディングモードの中でも、最も過激な「スポーツ」モードだった。
Vツインらしいシリンダー内のみずみずしい爆発を感じながら、「ライドコマンドシステム」と呼ばれるタッチスクリーン式のデジタルメーターを操作し、モードセレクトでスポーツを選択する。その瞬間からエンジンの雰囲気が変化。アイドリングの振動が不穏なものとなり、スロットルを空ぶかししたときの回転上昇も一気に速くなる。そのピックアップのよさはクラッチをつないでからも変わらず、さらには強い鼓動感とともに車体を前に押し出すトルクも迫力を増した。電子制御スロットル特有の軽い操作感とのギャップに、混雑した市街地では「慎重に操作しないと、ちょっとヤバいな……」と感じるほどだった。
これほどのエンジンともなると高回転域まで引っ張れる機会はまれで、しかしその手前まででも加速は強烈だ。本気を出したときのパフォーマンスを知ってからは、高速道路や市街地をゆったりと流したり、信号待ちをしたりしているときの一糸乱れぬ紳士的な鼓動でさえ、狂気をはらんでいるように感じられた。
一方、シャシーはエンジンのアウトプットをしっかりと受け止めている。専用にフレームを仕立てることで、エンジンを核とした一体感のあるスタイリングを実現するとともに、それを前後重量バランスを考慮して車体の理想的な位置に搭載。マスの集中化を図っているのだ。加えてライダーをエンジンとリアタイヤの中間に座らせることで、さらにマスを集約。同時にクルーザーでありながら低すぎない位置にシートを据えることで、ライダーのアクションでマシンをコントロールしやすいようにしている。わずかな体重移動でリアタイヤを操れる感覚は、スーパースポーツバイクとは違うものの、紛れもなく“スポーツ”だ。
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テクノロジーに裏打ちされた快適性
こうしたパフォーマンスの高さや独自のスポーティネスに加え、新型チーフでは快適性や信頼性についても語るべきだろう。
このバイクには「リアシリンダー・ディアクティベーション・システム」と呼ばれる、ユニークな機構が採用されている。要するに気筒休止で、油温が十分に上昇した状態でアイドリングをしていると、Vツインの後ろ側のシリンダーが自動で停止するのだ。同じサンダーストローク116を搭載するモデルですでに採用済みの技術であり、その効果も実証されているという。
このシステムは、至って自然に作動する。信号待ちなどでアイドリングの回転がわずかに高くなり、デジタルメーターにアイコンが出ると作動の合図。リアシリンダーの休止中もまったく違和感はなく、最初は作動に気がつかなかったほどだ。そこからわずかでもスロットルを操作すれば2気筒に戻るが、このときも、まったくそれを気づかせない。
インディアンのデザイン責任者であるオラ・ステネガルド氏は、インタビューで「新型チーフの開発では、シンプルであることが一番のプライオリティーだった」と語った。そのために、エンジンもフレームも車体も余計な装飾を排除し、機能パーツも必要最小限にとどめ、なんとオイルクーラーの装着さえ認めなかったという。過酷な日本の夏でも問題ないかと問うたところ、ステネガルド氏は自信を持って「問題ない」と答えてみせた。
確かに、気温25℃の東京都内の渋滞路でも、股下の熱さはさほど気にならない。エンジンの放熱とラジエーターからの排気熱でライダーを汗だくにさせる水冷バイクも多いことを考えると、2リッター近い空冷エンジンを搭載するチーフは、高い快適性とそれを支えるヒートマネジメント能力を有しているといえるだろう。もちろん、そのマネジメントは単にシリンダーを休止させるだけではなく、点火タイミングや燃料の噴射量なども絶妙にコントロールすることで実現しているはずだ。ステネガルド氏の自信は、テクノロジーと経験に裏打ちされているのである。
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ライバルとの切磋琢磨がカテゴリーを面白くする
インディアンは、いまや現存するアメリカ最古のモーターサイクルブランドだ。1897年にその前身となる自転車の製造会社が誕生し、1901年にはエンジン付き自転車、いまで言うところのモペットをリリースする。1906年にはV型2気筒エンジンを搭載したレース車両を開発し、翌年にはそのレプリカモデルである、アメリカ初のVツインの市販モデルを発表した。その後、インディアンはパフォーマンスの高さをもって自社の優位性を確立しようと試み、1916年には排気量を1000ccに拡大した「パワープラス」を、1920年には606ccのエンジンを搭載した初代「スカウト」を世に問う。そして1921年に、パワープラスに変わる大排気量モデルとして初代チーフを発表した。
2021年は、その初代チーフが誕生してから100周年の年となる。新型チーフのような“パフォーマンスクルーザー”は、スカウトを中心とした中間排気量のスポーツクルーザーと、チーフテンをはじめとする大型クルーザー、そして先進のバガーモデルである「チャレンジャー」と拡充されてきたインディアンのラインナップの中で、欠けていた最後のピースだ。節目となる年に、強力なライバルがひしめく市場で戦う布陣を完成させたインディアン。今回試乗したチーフには、そこで戦うために研ぎ澄まされた、強烈な個性とパフォーマンスを感じることができた。このバイクが広く認知されれば、パフォーマンスクルーザーというカテゴリーはさらに面白いものとなるだろう。
(文=河野正士/写真=郡大二郎)