“宇宙船”と評されたフォルム

シトロエンが進歩的な自動車会社であることを強く印象づけたのが、1934年に発売された「トラクシオン アヴァン」こと「7CV」である。後輪駆動が常識だった時代にいち早く前輪駆動を採用し、軽量なモノコックボディーを使って世界の最先端を行くモデルをつくり上げた。

第2次世界大戦が終わると、1948年に「2CV」を発売する。合理性を極限まで追求したミニマム思想を形にしたモデルである。大衆から圧倒的な支持を受け、1990年まで製造が続けられるロングセラーとなった。大衆向けに革新的なクルマを開発するという姿勢は、シトロエンのDNAともいえる。

VGDのプロジェクトは、すでに戦前に始まっていた。開発を主導したのは、トラクシオン アヴァンや2CVを手がけた天才エンジニアのアンドレ・ルフェーブルである。戦後になって開発が再開されるが、求められる性能の水準があまりにも高く、ようやく日の目を見たのは1955年のパリサロンだった。

ショーが始まると、斬新な形をしたクルマをひと目見ようと、DSの展示スペースに人々が押し寄せた。DSのフォルムは同時代のほかのクルマとはかけ離れたもので、“宇宙船”と評されたほど。デザインを担当したのは、イタリア出身のフラミニオ・ベルトーニである。彼はトラクシオン アヴァンや2CVも手がけていた。

大胆な流線形のスタイルは、空力を重視した結果である。ヘッドライトは半埋め込みタイプとし、後輪をスカートで覆うという徹底ぶり。ルーフは後方に向けてなだらかに下降し、テールは小さくすぼまっている。ラジエーターグリルを廃したことで鼻先は低くとがった造形になり、フロントの表情はシャープなものとなった。こうした自由度の高いデザインは、応力を負担しないスケルトン構造のボディーによって実現したものである。同時に、ルーフにはFRPを、ボンネットにはアルミニウムを採用するなど、新素材をふんだんに使って軽量化も試みられた。

前輪駆動やモノコックボディーなど、革新的な技術が多数取り入れられた「トラクシオン アヴァン」。上級モデル「15CV SIX」(写真)には、「DS」に先駆けてリアにハイドロニューマチックサスペンションが採用された。
前輪駆動やモノコックボディーなど、革新的な技術が多数取り入れられた「トラクシオン アヴァン」。上級モデル「15CV SIX」(写真)には、「DS」に先駆けてリアにハイドロニューマチックサスペンションが採用された。拡大
アンドレ・ルフェーブル(1894-1964)
あまたの傑作を手がけたフランスのエンジニア。ヴォワザンやルノーを経てシトロエンに入社し、「トラクシオン アヴァン」や「2CV」「DS」「アミ」などを世に送り出した。
アンドレ・ルフェーブル(1894-1964)
	あまたの傑作を手がけたフランスのエンジニア。ヴォワザンやルノーを経てシトロエンに入社し、「トラクシオン アヴァン」や「2CV」「DS」「アミ」などを世に送り出した。拡大
フラミニオ・ベルトーニの手になるとされる「シトロエンDS」のスケッチ。
フラミニオ・ベルトーニの手になるとされる「シトロエンDS」のスケッチ。拡大
1955年のパリサロンで発表された「シトロエンDS」。類例のないクルマを一目見ようと、展示スペースには多くの人がつめかけた。
1955年のパリサロンで発表された「シトロエンDS」。類例のないクルマを一目見ようと、展示スペースには多くの人がつめかけた。拡大
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