自動車の神話をつくりかえた女神

DSのもたらした衝撃は、思想界にまで影響を与えた。哲学者のロラン・バルトは1957年の著書『神話作用』の中でDSについて言及している。バルトは「自動車はかつてゴシック建築の大聖堂が持っていた影響力に匹敵する存在になっている」と指摘し、「DSは自動車の神話をつくりかえた」と論じた。フランス語ではDSは女神を意味する「déesse」と同じ発音であることを踏まえた文章である。女神が自動車を精神的なものにまで高めたという解釈を示したのだ。

DSの名の由来は明らかになっておらず、本当に女神の意味を含んでいたのかどうかはわからない。ただ、DSの廉価版として後に発売された「ID」は「idée(イデア)」と同じ発音になっており、深読みを促すかのような命名になっていることは確かだ。

前述の通り大統領公用車として使われたDSだが、ドライバーズカーとしても優秀な素質を持っていた。発売の翌年からモンテカルロラリーにDSで出場する者が現れている。1959年には「ID19」が優勝を果たし、アフリカのラリーレイドでも好成績を残した。

DSは前衛的であり、先進的なクルマだった。20年以上先を行ったクルマであるとまでいわれ、実際に1975年まで生産が続けられることになる。ワゴンモデルやデカポタブルと呼ばれるオープンモデルもつくられ、総生産台数は145万台に達した。

シトロエンは2009年に新たなモデルラインナップとしてDSの名を復活させた。高級車サブブランドとして新たにDSラインを設け、「DS 3」などのモデルを導入したのだ。2014年には「アヴァンギャルドの精神『SPIRIT OF AVANTGARDE』」をうたうプレミアムブランドとしてシトロエンから独立。自動車の未来を予感させた名車は、高級車の目指すべき指標としてインスピレーションを与え続けている。

(文=webCG/写真=ステランティス、Newspress/イラスト=日野浦 剛)

革新的な技術が取り入れられ、大統領公用車にも使われた「シトロエンDS」だが、その実はあくまでも量産車。多くの市民がその高性能の恩恵に浴した。
革新的な技術が取り入れられ、大統領公用車にも使われた「シトロエンDS」だが、その実はあくまでも量産車。多くの市民がその高性能の恩恵に浴した。拡大
「シトロエンDS」はドライバーズカーとしても高い資質を持ち、ラリーなどでも活躍をみせた。写真は1972年のモンテカルロラリーの様子。
「シトロエンDS」はドライバーズカーとしても高い資質を持ち、ラリーなどでも活躍をみせた。写真は1972年のモンテカルロラリーの様子。拡大
20年にわたるモデルライフのなかで、「シトロエンDS」にはさまざまな派生モデルが生まれた。写真はオープントップの「デカポタブル」。
20年にわたるモデルライフのなかで、「シトロエンDS」にはさまざまな派生モデルが生まれた。写真はオープントップの「デカポタブル」。拡大
最後の「シトロエンDS」は、1975年4月24日に工場をラインオフ。1976年には、救急車などの特装車も生産終了となった。累計生産台数は「ID」などの派生車種を含め145万6115台とされている。
最後の「シトロエンDS」は、1975年4月24日に工場をラインオフ。1976年には、救急車などの特装車も生産終了となった。累計生産台数は「ID」などの派生車種を含め145万6115台とされている。拡大
あなたにおすすめの記事
新着記事