第232回:“誰でもない男”はチャレンジャーで覚醒する
『Mr.ノーバディ』

2021.06.11 読んでますカー、観てますカー

ダメおやじのつまらない日常

2011年にスタートしたこの欄で、2回目に取り上げたのが『ミスター・ノーバディ』である。名匠ジャコ・ヴァン・ドルマルが手がけた難解で夢幻的なアート作品だった。今回は『Mr.ノーバディ』。こちらはストレートで痛快なアクション映画だ。誰もが文句なしに楽しめるエンターテインメント作品である。

ただ、冒頭ではジム・ジャームッシュ監督のミニマリズム映画『パターソン』のように、男の日常が繰り返し映し出される。彼は毎日バスで職場の金型工場に通い、つまらなそうに9時から5時まで勤務。門でいつもクルマにはねられそうになるところまで判で押したように同じだ。火曜日にはゴミ出しをしなければならないが、毎回ギリギリのところで収集車が行ってしまう。

そんなダメおやじだから、家族にもないがしろにされるのは当然だ。息子にはバカにされるし、ベッドでは妻が枕をタテに置いて境界線を作る。さらに彼の評価を下げたのは、自宅に強盗が侵入した事件だった。さしたる反撃もせず、やられるがまま。あまりのふがいなさに、息子はあきれ果てる。隣人からは「うちに来ていればぶちのめしてやったのにな!」と皮肉を言われ、勤務先の義弟にもののしられた。

しかし、彼は強盗が素人であることを見切っていたのだ。被害を最小限に抑えるため、あえて無駄な抵抗をせずにやり過ごすという選択をした。プロの手法である。温和な家庭人で真面目なサラリーマンというのは仮の姿だった。

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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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