廃車が放置されるワケ

その背景には、鉄道の場合は解体費用の予算不足、自動車の場合は「解体費用がもったいない」と考える人が多いことにある。
ちなみに解体工場に払う費用の相場は約120ユーロ(1万4000円)だが、出費がかさむ新車購入時には、高く感じてしまう。また、あまりご縁のない解体工場に持っていくのも面倒という人もいる。加えて日本と違って、幸か不幸か、スペースがふんだんにあるのが、廃車放置を増やしてしまう習慣につながっている。

そうしたなか乗用車については、廃車を放置する人が近年ずいぶん減ってきたようだ。1997年以降イタリアで再度にわたり政府が実施してきた「自動車買い替え奨励金政策」のおかげである。
新車購入時に奨励金を適用するには、排ガス規制基準が古いクルマを下取りに出すことが条件になるためだ。解体費用の消費者負担はない。古いクルマを放置しておくよりも、出してしまったほうがトクするようになったためである。

それでも乗用車の場合、今でも「部品取り用」として廃車を保管しておく人も多い。これも説明が必要だ。
EU域内の市場自由化が浸透する前のイタリアでは、威力的な輸入規制のおかげもあって、大衆車のタイプが他国よりも限られていた。その顕著な例が元祖「フィアット500」だ。
廃車でも保管しておけば、部品をもぎ取るのに便利だったことが多かった。その“伝統”が今日まで続いているのである。さらに、イタリア人は工作や加工作業を惜しまない人が多いのも、「もしかしたら使えるかも」という意識を後押しするのだ。

バス会社の廃車ブースに置かれたメナリーニ製路線バス。
バス会社の廃車ブースに置かれたメナリーニ製路線バス。 拡大
「フィアット500」は、戦後最もポピュラーな大衆車だったことから、部品取りに供されたと思われる個体が多い。(写真は姉妹車であるアウトビアンキ版)
「フィアット500」は、戦後最もポピュラーな大衆車だったことから、部品取りに供されたと思われる個体が多い。(写真は姉妹車であるアウトビアンキ版) 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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