イタリアに根付く精神

ただし、廃車を別の用途で活用してしまう人も多い。知り合いの大工さんは、古いトラックのキャビンを、写真のように犬小屋の柱として活用している。キャビンは第二次大戦直後の型と思われたが、ボクの苦手な犬がウロウロしていたので詳細な判定は実施できなかった。

トラックといえば、よくあるのは、古くなった軽3輪トラック「アペ」のバン仕様の荷室部分を降ろし、物置きとして使用している人だ。日本でも子供の頃、地方に行くと「世界のパン ヤマザキパン」などと書かれた荷室部分が切り離されて物置き代わりに使われていたものだ。なぜ「ヤマザキパン」が多かったのか気になるところだが、イタリアにおけるアペの荷室はあれと同じコンセプトといえよう。

しかしながら活用名人の横綱は、筆者の知り合いのファビオ医師だ。
日曜大工で「ベスパ」スクーターからエンジンカッター、つまり回転ノコギリを自作してしまった。ベスパのエンジンだけを抽出して台座に固定し、プーリーで回転刃とつないだものである。「暖炉にくべる木の切断などに、大変重宝だ」と製作者ご本人はご満悦だ。
ちなみに現在ファビオ先生は「スズキ・ジムニー」に乗っておられるが、そのエンジンが彼の手でどのような余生を送ることになるのか、今から興味がわく。

イタリア人がよく口にする言葉のひとつに、「Non si butta via ノン・シ・ブッタ・ヴィア」というのがある。「なんでも捨てるな」という意味だ。ファビオ医師の回転ノコギリは、イタリアに脈々と続く精神が生んだ偉大なる産物なのである。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

知り合いの大工さんの犬小屋。構造材の一部はトラックのキャビンである。
知り合いの大工さんの犬小屋。構造材の一部はトラックのキャビンである。 拡大
「アペ50」の荷台は簡易倉庫として活用されているのをよく見かける。あいにく写真がなかったので、筆者がイメージイラストを作成。
「アペ50」の荷台は簡易倉庫として活用されているのをよく見かける。あいにく写真がなかったので、筆者がイメージイラストを作成。 拡大
ファビオ医師による日曜大工の労作。「ベスパ」のエンジンカッター。
ファビオ医師による日曜大工の労作。「ベスパ」のエンジンカッター。
拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

あなたにおすすめの記事
新着記事