キムチに平衡感覚を奪われて

夕方、今度はクルマを止めておいた駐車場まで戻るべく、再びライドモヴィを探そうとしたときのことだ。

アプリ上の地図に空き自転車の位置が表示されているものの、誤差があるようで、なかなか見つからない。

仕方ないので、たくさんの空き車両が表示されているサンタマリア・ノヴェッラ駅まで400mほど歩いて行くことにした。

するとどうだ。電動アシスト仕様のライドモヴィがずらりと並んでいるではないか。

さすがは駅前である。

そこで1台は電動アシスト車を、1台は非アシスト車を借りて2人で乗り比べてみることにした。

「モヴィeバイク」と名づけられたその電動アシスト付き自転車の、満充電からのアシスト可能距離は80kmで、最高速は25km/hという。

例の最低サドル高は、非アシスト型よりもさらに高い。そのうえまたぐときにペダルに足の力をかけるだけですかさずモーターが作動してしまうから、これまた怖い。

車重があるので、普通の自転車のようにひょいと持ち上げて方向転換することは難しく、切り返しに労力を要する。

フィレンツェの街は一方通行路の嵐である。それを順守すると、意外な回り道を強いられる。そのうえ、北京のような広い自転車レーンも整備されてはいない。

アジア食料品店で買い込んでカバンに詰めたみりんやキムチの瓶は、筆者の平衡感覚をゆがめる。かといって前部のカゴは、ひったくり防止の観点から使いたくない。

それらに注意しつつ、例の石だたみによる振動を避けるべくゆっくり走っていたら、復路には38分も要してしまった。そして料金は残っていた4ユーロをさっさと使い切り、なんと7.8ユーロ(約1020円)にもなってしまった。

実は家に帰ってから知ったのだが、アプリ上のそれぞれの自転車マークを長押しすると事前に料金が確認できる仕組みだった。電動アシスト型の料金は20分1ユーロ。1分5セントだ。つまり非電動アシスト型の基本料金である20分乗ると、4倍の4ユーロが必要ということになる。駅前に大量に余っていた理由が分かった。

サービスを提供する企業からすれば、アプリによる料金表示は諸条件を反映して柔軟に金額を変更できるメリットがあるのだろう。だが、ユーザー視点からすれば、車両本体にもっと分かりやすく明記しておいてほしいと思う。

最後に今回のフィレンツェも含め、いくつかの国の都市でシェア自転車を使用した経験をもとに言えば、そのメリットを有効かつ経済的に活用するには以下の3点を押さえておく必要があると考える。

  • 目的地をはっきりとさせておく(ダラダラ乗っていると損)
  • 使用都市の一方通行および通行禁止区域を熟知しておく(迷っていると自動車と接触するなどの危険あり)
  • 有名な観光地では、人との事故を避けるため、降りて押さなければならない街路が多いことを知っておく

これらは、観光用に使ってメリットを享受できる人が限られることを意味する。特に複数人数で同じ場所から出発しようとした場合、車両探しに手間どることがある。今回の筆者のようにたった2人分を確保しようとしても、それなりに苦労した。

それでも料理屋からはフィレンツェ風ステーキを焼く香りが漂う。古い工房を通り過ぎた途端、木の香りが鼻をくすぐる。

もちろん、それらは徒歩でも感じられるが、一定のスピードとリニア感を伴う自転車だと別次元の感動が生まれる。クローズドルーフのタクシーや観光ハイヤーに乗っていては得られないものだ。

前述のように、提供する側も受け入れる街も、まだ最適解に到達していないシェア自転車だが、ぜひ存続してほしいものである。

あとはやはり、筆者の体格にも合うサドル高のバージョンをぜひ追加していただきたい。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

帰りはサンタマリア・ノヴェッラ駅から電動アシスト型を借りる。
帰りはサンタマリア・ノヴェッラ駅から電動アシスト型を借りる。拡大
電動アシスト型の場合、アプリに電池残量も表示される。
電動アシスト型の場合、アプリに電池残量も表示される。拡大
1983年まで刑務所だった建築物は、文化センターとして再生されている。クルマでは止まりにくい街区で、ふとした発見があるのも自転車の魅力。
1983年まで刑務所だった建築物は、文化センターとして再生されている。クルマでは止まりにくい街区で、ふとした発見があるのも自転車の魅力。拡大
各車両のアイコンをタップすると、事前に料金が分かる仕組みだった。電動アシスト型の場合、リアルタイムのアシスト可能距離も。
各車両のアイコンをタップすると、事前に料金が分かる仕組みだった。電動アシスト型の場合、リアルタイムのアシスト可能距離も。拡大
なるほど、従来型自転車の場合、電動アシスト付きより格段に安い。その額4分の1である。
なるほど、従来型自転車の場合、電動アシスト付きより格段に安い。その額4分の1である。拡大
フィレンツェといえば、ハチノス(牛の2番目の胃)の煮込み。サンタンブロージョ市場の大衆食堂にて。コテコテの観光地から少し外れたエリアに到達しやすいのもシェア自転車のメリットだ。
フィレンツェといえば、ハチノス(牛の2番目の胃)の煮込み。サンタンブロージョ市場の大衆食堂にて。コテコテの観光地から少し外れたエリアに到達しやすいのもシェア自転車のメリットだ。拡大
なにか気になる開催告知。
なにか気になる開催告知。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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