ボルボXC90 B6 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
洗練のオールラウンダー 2021.07.20 試乗記 2種類の過給機にマイルドハイブリッドシステムを組み合わせる、ボルボのラージサイズSUV「XC90 B6 AWD」。高速道路や山道を行くドライブ旅に出てみれば、グランドツーリングカーとしての優れた資質が見えてきた。フラッグシップSUVで仙台から新潟へ
ボルボに乗って、日本各地をめぐる。すっかりおなじみとなったロングドライブ試乗会だが、今回はちょっと趣向が違う。いつもは始点か終点のどちらかが東京だったのに、仙台から新潟に向かうのだ。日本列島の真ん中あたりをぐるりとまわるコースが設定されており、5つのグループに分かれて1台のクルマを走らせる。webCGチームの担当が仙台~新潟のパートだったのだ。普段はなかなか走ることのない道のりで、ちょっとワクワクする。
用意されたのは、ボルボのフラッグシップSUV、XC90。48Vハイブリッドシステムに電動スーパーチャージャーを加えたB6である。ボルボのSUVラインナップは昨2020年8月にすべてが電動化され、純ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは廃止。パワーユニットはプラグインハイブリッドか48Vハイブリッドのどちらかとなった。“2040年までにクライメートニュートラル企業になる”という目標に向かって、着々と前進している。
XC90 B6 AWDには「インスクリプション」と「R-DESIGN」の2種類があり、試乗車はスポーティーグレードのR-DESIGN。以前は限定モデルだったが、昨年からラインナップ化された。ヘッドアップディスプレイ、テイラードダッシュボードなどが標準装備となっている。電子制御リアエアサスペンションやBowers & Wilkinsプレミアムオーディオシステムなどがオプション装備され、価格は1100万円超という豪華仕様だ。
出発にあたり、まずは伊達政宗公に敬意を表して仙台城址(じょうし)へ。青葉山の上に作られた山城なので、急坂を登っていかなくてはならない。XC90は全幅が1960mmという堂々たる体格で、狭い道幅にたじろぐ。しかし、前方視界が良好で自車位置を把握しやすく、思いのほか安心して走行できた。城の南東に位置する巽櫓(たつみやぐら)跡からは、仙台市街が一望できる。
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擬洋風建築と共通するデザイン思想
新潟までの道程を検索すると、最速ルートが表示された。東北自動車道で南下し、郡山ジャンクションで磐越自動車道に入って今度はまっすぐ西に向かう。たしかに早く着きそうだが、これではつまらない。高速道路ばかりだし、前に通ったことがある。せっかくだから知らない道を走りたいということで、まずは天童市を目指した。
天童は将棋の駒で有名だ。生産量は圧倒的で、全国シェア95%を誇る。藤井聡太二冠の活躍もあって将棋人気が高まっているからさぞにぎわっているかと思ったが、静かな街だった。将棋の駒をかたどった看板が目につくということもない。将棋の聖地とはいえ、山形市のベッドタウンでもあるのだ。写真映えしないと諦めかけていたら、いい感じのレトロな建物を発見。天童織田の里歴史館である。
地域の歴史や文物を紹介する郷土資料館なのだが、ここは建物自体が価値のある文化財だ。もとは明治12年に建てられた東村山郡役所である。3階建ての擬洋風木造建築で、漆喰(しっくい)壁に瓦葺(ぶ)き、ステンドガラスという組み合わせがいかにも開化期だ。西洋の新しい技術や文化を取り入れながら、日本古来の美意識と融合させている。
美しい白壁の前にXC90を置いてみると、なんとも絶妙なマッチング。大型SUVではあるが、控えめで上品な印象を与えるフォルムだから調和する。パワー感を前面に押し出したマッチョ系のSUVだったら、違和感が生じてしまっただろう。一見すると地味でも、シンプルを貫くことで洗練に達するというのが、この建築とXC90に共通する方向性だ。日本人がスカンジナビアデザインを好む理由がわかったような気がする。
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山道でも安心の走り
調べてみると、ほかにも近くに古い建物があることがわかった。このあたりは明治期建築の宝庫らしい。山形市郷土館も擬洋風建築である。木造の三層の4階建てで、もとは済生館という病院だった。外壁には漆喰と下見板が使われている。山形県庁舎だった文翔館は、初代庁舎が焼失したので耐火建築として建てられた重厚なレンガ造り。こちらは山形県郷土館である。今回は外側から眺めるだけだったが、東北では名建築を訪ねながら郷土資料館をめぐることができるというのは発見だった。
山形市はまだ行程の3分の1ほど。新潟まではまだ200kmほど走ることになる。取りあえず高速道路で日本海側に出ようとルートを探すと、考えが甘かったことに気づいた。山形道に乗って西に向かうことはできるのだが、行けるのは月山ICまで。そこからは一般道で山を越え、湯殿山ICから再び高速道路を走ることになる。このルートだと鶴岡市まで行くことになるから、かなり遠回りだ。高速道路で新潟に向かうには、やはり郡山経由で行くしかないようだ。大きな都市間の移動がこんなに不便というのは、ちょっと納得がいかない。
仕方がないので東北中央道で南陽高畠ICまで南下し、県道で西を目指すことにした。片側1車線ののんびりとした道である。ほかに道がないからか交通量は多く、重い荷物を積んだトラックも多くて流れはゆっくりだ。正直に言うと、退屈なドライブである。こういう時は、充実したエンターテインメントがありがたい。幸いなことに、音のいいオーディオが搭載されている。iPhoneのプレイリストをかけると、車内は素晴らしい音響空間になった。
しばし音楽に浸っていたが、やっぱり退屈である。カーナビの画面を見たら、近くにちょっとした山道がありそうだ。脇道に入ると、ダムへとつながるワインディングロードが現れた。SUVにとってツイスティーな道は得意科目ではないが、XC90のハンドリングは正確でロールも少ないから安心して走ることができる。ターボに加え電動スーパーチャージャーとモーターの力を借りているとはいえ、2リッター4気筒に目のさめるようなパワフルさを求めることはできない。それでも2トンを超えるボディーに不足はなく、ジェントルな振る舞いがXC90のキャラクターに合っていると感じた。
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2列目シートは特等席
快調に山道を走っていると、空から大粒の雨が振ってきた。梅雨の時期だから仕方がないのだが、ここでの選択を悔やむことになる。少しでも早く県道に戻ろうとして、未舗装路に乗り入れてしまったのだ。雨量はどんどん増えており、路面には水たまりができる。知らない場所で抜け道を行こうとするのは無謀だったのだ。ただ、焦る気持ちはなかった。XC90には電子制御四駆システムが搭載されており、この程度の泥道でスタックする心配はない。
退屈なドライブに戻り、少し走ると海が見えてきた。日本海だから、太陽は波の向こうに沈んでいく。遠くまできたんだな、と実感する風景だ。ここからは日本海沿岸東北自動車道で南西に進む。XC90にとっては最も得意な道である。車内は驚くほど静かで、路面の荒れを拾うことなく船のようになめらかな乗り心地だ。2985mmというホイールベースは小回りには向かないが、巡航時には大きなメリットとなる。
全長も4950mmというロングサイズで、3列目シートが備わっている。大人が座ると膝を抱える姿勢になるから長旅には向かないが、いざという時には役に立つだろう。もちろん、2列目は特等席だ。ゆったりとした空間があって楽な着座姿勢をとれるし、試乗車にオプション装備されていたパノラマガラスサンルーフからの景色を満喫することができた。
知らない道を走ったことでわかったのは、XC90が多才なオールラウンダーであることだ。市街地でストレスなく使えて山道も苦にせず、高速道路では堂々たる走りを披露する。現代のグランドツーリングカーとは、このようなクルマなのではないか。人の流れを増やすことを避けなければならない時期が続いているが、状況が改善すればXC90で長旅に出るのは最高の楽しみになるに違いない。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥/編集=関 賢也)
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テスト車のデータ
ボルボXC90 B6 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4950×1960×1760mm
ホイールベース:2985mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(220kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-4800rpm
モーター最高出力:14PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)275/45R20 110V/(後)275/45R20 110V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:10.4km/リッター(WLTCモード)
価格:1004万円/テスト車=1112万1650円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(23万円)/メタリックペイント<パーチライトメタリック>(9万2000円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W・19スピーカー、サブウーファー付き>(36万円)/電子制御リア・エアサスペンション/ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(31万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:7325km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:291.2km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.2km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。