メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC+(4WD/9AT)
豪速万能SUVの憂鬱 2021.08.13 試乗記 注目すべきは最高出力612PSのパワーだけにあらず。48Vのマイルドハイブリッド機構や電子制御スタビライザーなどのハイテクを満載した「メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC+」は、洗練された乗り心地とハンドリングも併せ持つハイパフォーマンスSUVに仕上がっていた。20年余りで347PSから612PSへ
メルセデスが“クロカン”とは一線を画すSUVカテゴリーに参入して、おおむね四半世紀の時がたつ。その出発点となった初代「Mクラス」に、AMGチューニングの「ML55 AMG」が加わったのは2000年のこと。日本の輸入元が、当時のダイムラークライスラー日本ではなく、ヤナセ出資のAMGジャパンだった頃の話だ。
V8が大好物な米国市場からの要求に加えて、鳴り物入りのデビューを控えた「BMW X5」を迎え撃つという意向もあっただろう、ML55 AMGは決して出来がいいとはいえなかったベースモデルのガサツさを忘れさせるフットワークで、当時のこの手のクルマとしては破格だった347PSのパワーをなんとか手なずけていた。高重心ならではの危うさもあるにはあったが、なんとかバランスさせたその面白みはマニア筋の間で話題となり、アメリカでは「GMCタイフーン」以来のカルトカーとして受け入れられた。後に続くバカ力系SUVカテゴリーの、興隆の扉を開いた一台となったわけである。
その後、Mクラスは「GLE」へと名前を変えながら4代にわたって進化を続け、AMGモデルも途切れることなく投入されている。2代目は6.2リッターV8自然吸気、3代目は5.5リッターV8ツインターボ、そして現世代となるこのGLE63 Sには4リッターV8ツインターボと、一貫してV8を搭載。0-100km/h加速は6.7秒から3.8秒へ、最高速は235km/hから280km/hへと進化を遂げてきた。高重心のナリを思えば初代のそれでも十分に速いという印象だが、そこから数えて20年余りでパワーと速さは著しく向上し、価格もほぼ倍化したというイメージだろうか。
走りを支えるエレクトロニクス
タービンをシリンダーバンク間に置くホットVレイアウトが採用されたM177型は、“ワンマン・ワンエンジン”というAMGのポリシーにのっとり、アファルターバッハの工場で生産される。最高出力は612PS、最大トルクは850N・m……とこのあたりは目慣れたスペックだが、このGLE63 Sからは1000-3250rpm間の低負荷時に働くシリンダーオンデマンド機能に加えて、48VのISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を用いたマイルドハイブリッドシステム「EQブースト」も搭載されている。エンジンとトランスミッション「9Gトロニック」の間に置かれる21PS/250N・mのモーターは、低回転域での動力補助や巡航時のコースティング、減速時のブレーキエネルギー回収などで幅広く活躍し、助手席下部に置かれる1kWのリチウムイオンバッテリーを介して、「AMGアクティブライドコントロール」の作動電力供給元としても機能する。
これは、前後のスタビライザーに接続された電動アクチュエーターによって、秒あたり1000回の頻度で路面状況やドライブモードに応じてスタビレートを調整するもの。これまでも同様の機能はあったが、48V化による応答レスポンスの高速化が大きな特徴となる。ちなみに現世代のメルセデスのSUVラインナップでは、他にも48Vの電動油圧式オイルポンプをエアマチックサスペンションと組み合わせて瞬時に各輪のストローク量を制御する「Eアクティブボディーコントロール」も用意するなど、足まわりにさまざまな技術的トライがみてとれる。
動的な部分を除くと、GLE63 Sの装備はおおむねベースモデルに準じているが、3列目シートだけは省略されており、それが必要な人は「GLE53 4MATIC+」など他のグレードを選ぶしかない。ただ、そもそもGLEの最後列は居住スペース的にはミニマム(参照)。子供でも窮屈そうな空間ゆえ、頻繁に多人数が乗ることを前提とするなら「GLS」の側を検討したほうがいいだろう。
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この乗り心地こそAMGの真骨頂
走りだしから街なかで多用するような低速域での速度のコントロール性は相変わらず抜群で、日常使いで出くわすような、渋滞気味の幹線道路をゆるゆると走るといった状況も苦にならない。ベースモデルと相違ないフレキシビリティーは昔からのAMGモデルの美点だ。同時にこの域では、変速時のトルク変動を抑え、駆動を適切にアシストするEQブーストの効果もしっかり感じられる。
美点といえば、高速域におけるライド感もそうだ。今や乗り心地の穏やかさだけで比べれば“M”も“RS”も、なんならポルシェやフェラーリでさえAMGと同等の水準ではないかと感じることが多い。メカニカルであれ電子制御であれ、ピーク側だけでなく微小~小入力域でもきちんと減衰が働くようダンパーに工夫が施されるようになったからだろう。
が、大きな入力を受け止めて戻る際のダンパーの作動をきちんとマネージできているという点において、AMGのそれは他と一線を画すものだ。GLE63 Sもしかり。乗ると2.5tの高重心車両がよくもこれほどぺったりと地面に根を張るように走るものだと感心させられる。上屋が頻繁に跳ね上がらないから目線がブレず、それが肩や首の凝りを抑えて走り疲れを減らす……という好循環は他のAMGモデルでも体感しているが、このクルマも例に漏れず長距離走でがぜん光るフラット感を備えているようだ。
“力任せ”ではないコーナリングに好印象
ハンドリングをうんぬんいうようなクルマではないだろうと思いつつ、履いているタイヤのエグさを見ればあらぬ期待も抱いてしまうわけだが、実際、GLE63 Sはこんな体でありながら旋回安定性がかなり高い。さすがに軽快な回頭性というわけにはいかないが、くだんのAMGアクティブライドコントロールも効いてか、平常時の乗り心地からは想像できないほどロールはしっかりと抑え込まれ、腰が砕けるような気配はそうそううかがわせない。フルタイム4WDの「4MATIC+」は0:100~100:0の範囲で自在に前後駆動配分をコントロールするが、ドライブモードがどうであれ曲げに欲張るようなクセを感じることはなく、常にスタビリティーを意識しているあたりも好感が持てた。
しかし、自動車はEV化こそ是という論調がヒステリックに加速するなかにあって、48Vマイルドハイブリッドを免罪符にしているとはいえ、SUVのこうした放蕩(ほうとう)が許されなくなるまで、そう時間はかからないかもしれない。GLE63 Sの物理法則をも振り切りそうな全能ぶりを知るほどに、われわれは厄介な時代を生きているのだなぁとしみじみしてしまう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
メルセデスAMG GLE63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4955×2020×1785mm
ホイールベース:2995mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:612PS(450kW)/5750-6500rpm
エンジン最大トルク:850N・m(86.7kgf・m)/2500-4500rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/--rpm
モーター最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y XL/(後)325/35ZR22 114Y XL(ヨコハマ・アドバンスポーツV107)
燃費:11.5リッター/100km(約8.7km/リッター、NEDCモード)
価格:1958万円/テスト車=1982万2000円
オプション装備:AMGインテリアカーボンパッケージ(24万2000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2220km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:224.0km
使用燃料:40.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.5km/リッター(満タン法)/6.0km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。