ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)
洗練の極み 2021.08.21 試乗記 「ベントレー・ベンテイガ」の最新モデルでは、英国流のクラフトマンシップとデジタル技術が融合した独自のラグジュアリーな空間が展開されている。最高出力635PSのW12ユニットを積んだ高性能バージョン「スピード」で、その世界に身をゆだねてみた。クルマ酔いとドライバーズカー
縁あって、長年クルマの世界に携わっている私だが、実は乗り物酔いしやすいという弱点を抱えている。子供のころに比べるとずいぶんマシになったが、クルマに乗るときにはいまだに不安がともなう。手っ取り早い解決策は、自分で運転すること。何人かで移動するときには、必ずドライバーを買って出るのはそのためである。
そんな私なので、もし人生のどこかで別の選択肢を選び、運転手付きのクルマが与えられたとしても、後ろの席で新聞を読むなんてことは到底不可能。移動時間を1秒でも無駄にしまいと常にパソコンとにらめっこするエグゼクティブにもなれそうにない。
だから、私はラグジュアリーカーであっても、楽しく運転できる“ドライバーズカー”が好きだ。それで真っ先に頭に浮かぶのがイギリスの伝統ブランドであるベントレー。同じイギリスのロールス・ロイスと比較されることが多いが、その誕生以来、一貫してドライバーが楽しめるクルマを世に送り出していることはご存じのとおりだ。
そんな彼らが2015年に満を持して投入したラグジュアリーSUVがベンテイガだ。セダンやクーペ以上にクルマ酔いしやすそうなSUVだけに、このベンテイガもドライバーファーストのクルマだとうれしいのだが、果たしてどうだろうか?
力強さとあでやかさと
今回試乗したのは、2020年6月末にフェイスリフトを実施し、最新のデザインを身にまとうベンテイガのうち、6リッターW12ターボエンジンを積む最強のベンテイガ スピード。最新のベンテイガをまじまじと見るのはこれが初めてだが、存在感を高めたフロントグリルにも増して、クリスタルガラスのようにキラキラと光るヘッドライトに、つい見とれてしまう。
フロント以上に変わったのがベンテイガのリアビュー。以前は分割式のテールライトを採用し、ボディーとテールゲートの両方にテールライトが配置されていたが、新型ではサイドまで回り込む大型のテールゲートを採用し、そこにオーバル型のテールライトを収めている。その効果か、以前よりもワイドに見えるとともに、あでやかな印象を強めている。
ところで、テールゲート側だけにテールライトを配置してしまうと、夜間にテールゲートを開けてクルマを止めているときに、後方から見つけにくいという問題が起こる。その対策として、ベンテイガではリアバンパーに補助灯を設け、テールゲートを開けたときにここを光らせるという配慮がなされている。これは初代「アウディA1」などにも使われた手法だが、アウディ在籍当時に同車を担当したデザイナーのシュテファン・ジーラフ氏が、2016年から2021年初頭までベントレーのデザイン部門を率いていたと知ると、フェイスリフト後のベンテイガに採用されたのにも納得がいく。
魅惑のW12エンジン
運転席に座ると、上質さあふれるコックピットが視界に入ってくる。基本的なデザインは以前のものを引き続くが、時代の流れか、フル液晶のメーターパネルや大型のタッチパネル式センターディスプレイなど、デジタル化が進められていることに気づく。それでも、適度に物理スイッチを残すことで、見やすさと使いやすさを両立しているのがうれしいところだ。
ダッシュボード中央に収まる8個のダイヤを仕込んだブライトリングのアナログクロックも、デジタル化一辺倒でないことを物語っている。ちなみにこのアイテム、55万9520円のオプション装備だが、車両本体価格3345万円に対して、その“わずか”1.7%の価格であることを考えると、さほど高価ではないように思えてくるから怖い(笑)。
これとは対照的に、かなり高価格なはずのパーツが6リッターW12ターボエンジンだ。希望ナンバーの数字からも察することができるように、最高出力635PS、最大トルク900N・mを発生するこのエンジンは、一般的なV型ではなく、W型というのがユニークなところ。各バンクに狭角V6エンジンの“VR6”を配置し、「V+V=W」でW型なのだが、こうすることでV12型よりも全長が短くできるというメリットがある。
運転席が一番
このW12エンジン、そのフィーリングも独特で、ごく低回転からあふれんばかりのトルクをスムーズかつ静かに発生する、まるで電気モーターのような振る舞いが特徴だ。低負荷時に片バンクを休止させる気筒休止システムが搭載されるが、それがいつ動作しているかドライバーが気づくことはない。
アクセルペダルを深く踏み込んだときも、静粛さは保たれたままで、遠くからシューンと聞こえてくるサウンドとは対照的に、瞬く間にエンジンはレブリミットまで吹け上がり、気がつけば周りをリードするスピードに達している。このスムーズさに加えて、4WDシステムが強大なエンジントルクをしっかりと受け止めるから、加速時でも荒々しさとは無縁である。それが少し物足りないと思う人もいるだろうが、このW12エンジンがベンテイガ スピードの走りを上質に仕立て上げているのは間違いない。
ベンテイガ スピードは走りも洗練を極めている。よくしつけられたエアサスペンションのおかげで、285/40ZR22サイズのタイヤを履くにもかかわらず、乗り心地はとても上質で、走行時の挙動も穏やかで落ち着き払っている。一方、ワインディングロードでは、アクティブロールコントロール機構の「ベントレーダイナミックライド」により、ボディーのロールを感じることなく、安定しきった姿勢でコーナーを素早く駆け抜けていく。全長×全幅×全高=5145×1995×1755mm、車両重量2520kgの巨体がひとまわりもふたまわりも小さく感じられ、一体感を覚えながらドライブが楽しめるのは、ドライバーズカーであるベントレーの醍醐味(だいごみ)といえる。
さすがにこのサイズだと、都心の狭い駐車場に入れるときには気を使うが、それを除けば、飛ばしても、おとなしく走っても楽しいベンテイガ スピード。ドライバーズシートでずっと過ごしたいと思う、ラグジュアリーSUVである。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ スピード
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5145×1995×1755mm
ホイールベース:2995mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:635PS(467kW)/5000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:--km/リッター
価格:3345万円/テスト車=3887万8930円
オプション装備:エクステンデッドレンジソリッド&メタリックペイント(84万1400円)/カーペットオーバーマットへのコントラストバインディング(3万3370円)/コントラストステッチ(35万2140円)/LEDウエルカムランプbyマリナー(14万9590円)/サンシャインスペック(30万4310円)/ツーリングスペック(115万8330円)/5シートコンフォートスペック(77万4700円)/アコースティックサイドガラス(11万5700円)/ブライトリングクロック<ダークマザーオブパールフェイス>(55万9520円)/アルカンターラトリムステアリング<ヒーテッドシングルトーン3スポーク>(7万3140円)/ディープパイルオーバーマット(7万3140円)/ハンズフリーテールゲート(12万7610円)/ムードライティング(6万8720円)/カーボンファイバーフェイシア(55万1670円)/22インチ「SPEED」ホイール<ダークティント>(24万5590円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2192km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:310.7km
使用燃料:50.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.1km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。