エンジン車のフェードアウト戦略

このほかの予想についても、個人的には疑問がある。例えばEVの利益率についてだ。VWが推し進めるEVへの移行は、当然ながら多額の研究開発投資や設備投資を必要とする。一方で、こうした投資が先行することや、バッテリーコストがまだ高いことなどから、EVの採算性は低い。当面の稼ぎは、現在の主力商品であるエンジン車の事業に担ってもらわなければならない。つまり、VWはこれからフェードアウトさせるエンジン車で原資を稼ぎながらEVに移行していくという、難しい綱渡りを迫られているのだ。いったいどう進めていくのか。これに対するVWの答えはこうだ。まずEVについては、バッテリーおよび工場のコスト削減とスケールメリット拡大によって利益率を改善していく。一方で、エンジン車は強化される燃費規制や排ガス規制への対応、税制上の不利な条件により、今後利益率が徐々に低下していく。こうしてEVとエンジン車の利益率は、今後2~3年で同程度になると見込んでいるのだ。

しかし、エンジン車の場合、プラットフォームは既存の「MQB」や「MLB」を使いまわしていくわけだし、エンジンも現在のものを改良していくだけだから追加コストはそれほどかからないはずだ。しかもVWは2030年までに、エンジン車のモデル数を60%削減する予定なので、台数が8割に減っても量産効果はむしろ高まるだろう。従って、新規投資を伴うEVとエンジン車のコストが短期間でイーブンになるという予測に、筆者は頷首(がんしゅ)しかねるというのが正直なところだ。

先ほどの台数予測といい、EVの利益率といい、VWはなぜこんな無理筋な予測を並べるのか。その理由を、筆者は「ある数字」のせいだと考えている。この数字について、VWの経営陣はどうしても株主に納得してもらわなくてはならないのだ。では、その「ある数字」とはなにか? 次回はそれを軸に、VW経営陣の悩みの深さに迫っていきたいと思う。(中編に続く)

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=フォルクスワーゲン、webCG/編集=堀田剛資)

VWは、エンジン車のマージン(利益率)は徐々に低下し、今後2~3年でEVが追いつくと見込んでいるが……。
VWは、エンジン車のマージン(利益率)は徐々に低下し、今後2~3年でEVが追いつくと見込んでいるが……。拡大
今日において、幅広い車種に採用される「MQB」プラットフォームと、そこに設定されるパワートレイン。新規にプラットフォームやパワートレインを開発しないのであれば、当面、エンジン車の開発コストは低く抑えられるはずだ。
今日において、幅広い車種に採用される「MQB」プラットフォームと、そこに設定されるパワートレイン。新規にプラットフォームやパワートレインを開発しないのであれば、当面、エンジン車の開発コストは低く抑えられるはずだ。拡大
新しいバッテリーやモーターの開発に、部品や車両の生産設備の準備、エンジン車にはなかった外部からの部品調達……。EVという製品の特性や、その開発が過渡期にある現状を考えると、短期間で利益率を高めるのは非常に困難に思えるのだが。
新しいバッテリーやモーターの開発に、部品や車両の生産設備の準備、エンジン車にはなかった外部からの部品調達……。EVという製品の特性や、その開発が過渡期にある現状を考えると、短期間で利益率を高めるのは非常に困難に思えるのだが。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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