バーチャルでインテリア開発

入館時のセキュリティーチェックは常に厳重だ。VWグループの車両のみならず、外部クライアントの新製品開発や試作にも関与しているのである。

それを終えたあと、広大な本社屋内を歩いてゆく。途中には屋内にもかかわらず大きな通路も存在する。社員たちはそれをいにしえの都市にちなんで「Via Roma」、つまり「ローマ通り」と呼んでいるそうだ。

そうした通路をいくつも通り抜けたあと、ようやくたどり着いたのは「コンセプト・ラブ(Concept Lab)」と称する数名体制の研究室だった。

解説してくれたのは、研究員のマティルデ・ピッチョーニさんだ。フィレンツェ大学では電気通信工学を、トリノ工科大学では医用工学を専攻し、いずれも優秀な成績で卒業。2017年からイタルデザインに勤務している。

ちなみに同社は自動車開発業界でいち早く仮想現実(VR)の有効性に着目し、1999年には最初のVRC(バーチャルリアリティーセンター)を開設。3Dレンダリングやモデリングのソフトを巨大スクリーンに投影し、モデリング着手前のデザイン設計の検証を開始した。

いっぽう2018年に開設されたコンセプト・ラブをピッチョーニさんは「人と自動車との関係に焦点を当て、分析・研究を行う学際的環境」と定義する。

その成果として今回見せてくれたのは、1台のシミュレーターである。ただし、人々がすぐに思い浮かべるドライビングシミュレーターとは異なる。VRツールを駆使し、インテリアのレイアウトを人間工学的に検証する装置である。

従来、居住性や使い勝手の検証にはモックアップ、すなわち原寸大の模型を用いてきた。ピッチョーニさんによれば、イタルデザインでは一車種の開発に2台のモックアップが必要だったという。

筆者が付け加えれば、ダッシュボードのクレイモデルも、そうした作業を助けるためにつくられてきた。それらに要する労力とコストの削減を目指したのが、この装置の原点だという。

複数のウエアラブルセンサーを用いてユーザーと接続、21基の赤外線カメラも連動させる。そのうえでモーションキャプチャーを行い、ユーザーエクスペリエンス(UX)やヒューマンマシンインターフェイス(HMI)の観点から使用感を分析するものだ。

いっぽう、座席やステアリング、ペダル、ドア、ルーフなどには物理的、つまりリアル、もしくはそれに準ずるものを用いている。それらは型式認定のデータをインプットしたプログラムによって位置の移動や調整が可能だ。

彼らはシミュレーションの柔軟性を示す例として「ランボルギーニ・ウラカン」からVW最大の商用車「クラフター」まで再現できることを挙げた。

この装置で、イタルデザインは2019年に特許を取得している。またコンセプト・ラブ自体も、ドイツのデザイン賞「ABCアワード」の2021年部門賞を受賞した。

再びピッチョーニさんによれば、「人間工学的研究が原点だったが、最終的にはカラー&トリムの検討や車両のプレゼンテーションに至るまで、開発段階でのさまざまなステージに応用できることが判明した」という。

また他のスタッフは、次段階として「アイトラッキング技術も付加していきたい」と話す。

ボディートラッキングの装置を身に着けた研究スタッフのマティルデ・ピッチョーニさん。(写真=Italdesign)
ボディートラッキングの装置を身に着けた研究スタッフのマティルデ・ピッチョーニさん。(写真=Italdesign)拡大
こうしたモックアップの作成に要する時間およびコスト削減に、室内空間シミュレーターは威力を発揮する。(写真=Italdesign)
こうしたモックアップの作成に要する時間およびコスト削減に、室内空間シミュレーターは威力を発揮する。(写真=Italdesign)拡大
指用のウエアラブルデバイスやVRゴーグル、そして21基の赤外線カメラのデータをもとに、バーチャルに変換する。(写真=Italdesign)
指用のウエアラブルデバイスやVRゴーグル、そして21基の赤外線カメラのデータをもとに、バーチャルに変換する。(写真=Italdesign)拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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