ドリキン土屋圭市「フィットe:HEV Modulo X」を語る
プライドのなせる業 2021.09.13 こだわりの最新Modulo X<AD> ただのコンパクトカーじゃない。カッコだけのスポーツ仕様でもない。「フィットe:HEV Modulo X」だから味わえる気持ちいい走りの秘密について、開発に関わった土屋圭市氏が熱く語った。“公道でベスト”を目指す
「ほら、こういうところもビターッと安定しているでしょ。修正舵もいらない。次のS字の切り返しなんて、メチャクチャ気持ちいいんだ。そこにギャップとアンジュレーションがあっても、何事もなく”いなし”ちゃうから最高だよ!」
取材班を乗せたフィットe:HEV Modulo Xで、実況ならぬ実走解説してくれたのは“ドリキン”こと土屋圭市氏である。
モデューロXは、ホンダの100%子会社であるホンダアクセスが手がける純正コンプリートカーだ。土屋氏がホンダアクセスに関わるようになったのは2007年のこと。最初のモデューロXである2013年の「N-BOX」から最新のフィットまで、歴代7車種のモデューロXの開発すべてに、土屋氏は開発アドバイザーとして関わっている。
「最初は俺の『NSX-R』をホンダアクセスが気に入ってくれて“うちの開発やらない?”と声をかけてくれたのがキッカケなんだ」
土屋氏のNSX-Rとは、2003年式のNSX-Rをベースに、サスペンションやタイヤなど、一つひとつを土屋氏自ら開発・吟味してつくり上げた「NSX-Rドリキンバージョン」のことだ。本来のNSX-Rはエアコンまで省いて軽量化したサーキットスペシャルだったが、土屋氏はそれを「街乗りメインで使えて、サーキットでも楽しくて速い」をコンセプトに、独自のしなやかなサスペンションをはじめ、エアコンやナビまで装着してみせた。そんなNSX-Rドリキンバージョンは、知る人ぞ知るビデオメディア『ベストモータリング』で世界の名だたるスーパーカーと名勝負を繰り広げた。そうした土屋氏のクルマづくりに、ホンダアクセスは共感したのだった。
数値では表せない“乗り味”を、土屋氏とホンダアクセスの職人たちが徹底して走り込んで、満足いくまでつくり込む。その目指す乗り味とは、ストリートでこそ生きる“しなやかな筋肉質”。そんなモデューロXの理念と土屋氏のこだわりは現在まで、いささかもブレていない。
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タイヤはあえてノーマルのまま
「職人気質の開発メンバーと、実走テストとトライ&エラーを繰り返すのがモデューロXのクルマづくりなんだけど、まずはファミリーカーなのかスポーツカーなのかをきっちりと定義するところから始める。だから、それが4ドアや5ドアだったら、開発でもまずはリアシートに乗る。極端に言うと、最初の半年は運転席に座らない。今回のフィットもそうだった。スポーティーなクルマはリアシートの乗り心地がどうしても犠牲になりがちなんだけど、モデューロXが目指すのはそういういうクルマじゃない」
「ただ、今回はそこが難しかった。クルマそのものが小さいから、スポーツ性を出しすぎるとどうしても跳ねてしまう。跳ねないギリギリのしなやかさを追求したんだ。サーキットで速いクルマをつくるだけなら簡単だ。でも、公道はそう甘くない。どんな路面環境に置かれても走り切れることをモデューロXは目指しているから、あえて過酷なコンディションでテストする。北海道の鷹栖テストコースにあるヨーロッパを模したワインディング路を走って、うねり路なんかも徹底的に走り込む。フラットな路面でテストすることなんてない」
今回のフィットの足まわりで、モデューロX専用となるのはダンパーとホイールだけだ。スプリングがノーマルのままなのは、運転支援システム「ホンダセンシング」をそのまま生かすためでもあるのだが、タイヤまでが燃費志向の強いノーマルのままなのは意外だ。
「タイヤを変えるのは簡単だよ。でもモデューロXは、良いタイヤに履き替えて性能を上げるような低レベルのクルマづくりはしない。タイヤも内圧もベースとなった車両と同じなのに、これだけ接地感とグリップ感が上がる。それがモデューロXの美学なんだ」
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手間ひまかけて得られた成果
「レースの世界でも、ホイールの大切さが認識されるようなったのはここ10年くらいかな。「S660」の純正アクセサリー開発あたりから、クルマに合わせたホイールの剛性バランスというものに取り組むようになった。ホイールの剛性は高すぎても低すぎても、変な振動が出てしまって気持ちよくない。分かりやすく言うと、クルマ全体が持っている剛性とホイールの剛性もバランスとれていることが大切なんだ」
「ただ、ホイールの開発は1日やそこらでは判別できない。違うということはすぐに分かるんだけど、それが良いのか悪いのかはテストコースでブッ飛ばすだけだと分からないから、いろんなコンディションの道を徹底的に走る。そうやって、少なくとも2~3日あらゆる道を走ってみないと分からない。こういう時は、俺や開発メンバーはもちろん、女性デザイナーなどにも乗ってもらって広く意見を聞く。最初のうちはバラバラに意見が割れるんだけど、長く乗っているうちに意見がまとまっていく。そんな作業を何種類ものホイールで試しては繰り返すんだ」
しかし、今回のフィットe:HEV Modulo X最大のポイントはやはり“実効空力”だろう。実効空力とは日常の速度域でも体感できる空力効果のことで、ホンダアクセスはモデューロXの開発キーワードとして掲げている。土屋氏によると、「最先端のレーシングカーの世界で操縦安定性を決めるアシと空力の比率は、もはや50:50くらいのイメージだよね。どちらかだけでは成立しない」ほどだという。
「今回も開発の最大のキモとなったのは空力なんだけれど、開発に一番時間がかかるのも空力。大きいクルマよりも小さいクルマは特に、一つひとつの効果を確かめるのも時間がかかる」
モデューロXの空力開発も、サスペンションやホイールと同じく、土屋氏とホンダアクセスのエンジニアたちの実走テストによる地道な作業の繰り返しだったそうだ。最終的にはホンダ本体の風洞を使って最終確認はするが、そこに至るまでのセッティングの過程は、すべて“人の感覚”だという。
「本当に気が遠くなるよ。しかもホンダアクセスのエンジニアたちはメチャクチャ細かい(笑)。一つひとつ段ボールとガムテープを切った張ったして、そのつどガンガン乗って……の繰り返し。ひとつテストしたら“次は○mm上げます”とか“×mmだけ太くします”みたいな。それこそエアロフィンの位置を決めるためだけに、2泊3日という時間をかけたりもした」
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類いまれな車両開発
ここで言うエアロフィンとは、フロントバンパーサイドにある魚の尾びれのような突起のことだ。今回のフィットe:HEV Modulo Xでは、クルマ全体のリフト量を低減させるだけでなく、ノーマルではフロント側に寄っていた空力重心をクルマのセンターに近づけて、4輪を均等に接地するようにしたという。こうした“実効空力”に専用ダンパーやホイールを組み合わせて“地をはうような吸い付き感”を実現したとホンダアクセスは説明する。
「ノーマルのフィットは実用域の乗り心地はいいんだけど、高速コーナーでリアが安定しないクセが少しだけある。モデューロXとノーマルとの違いは、直接乗り比べれば50~60km/hの車速でも分かってもらえるはず。例えば50km/h制限のコーナーでも、モデューロXはノーマルよりタイヤ2本分内側を走れるんだ。それくらい、接地感が全然違うってこと」
それにしても、すべてが土屋氏とホンダアクセス職人集団による、良くも悪くも“アナログ”なモデューロXの開発手法にはあらためて驚かされる。とにかく手間と時間がかかっているのだ。土屋氏も「モデューロXは、ビジネス的にはまったくもうかっていないと思うよ」と笑う。
「モデューロXはホンダアクセスのプライドとしてつくっているんだと思う。だって、モデューロXの開発スタート時点では、発売期限すら決まっていないんだ。実際、ステップワゴンの時は開発に2年かけた。今回は空力、ダンパー、ホイールの順番で開発したけど、ダンパーだけでもずいぶん時間がかかった。これほど時間をたっぷりかけるクルマ開発なんて、今どきほかにほとんどないんじゃないかな。しかも、発売期限を決めないだけでなく、絶対的に自信のあるものができなければ、モデューロXは最終的に発売しないんだ」
つまり、こうしてめでたく発売となったフィットe:HEV Modulo Xは、土屋氏やホンダアクセスにとって絶対の自信作ということだ。
(語り=土屋圭市/写真=田村 弥)
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車両データ
ホンダ・フィットe:HEV Modulo X
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4000×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:--km/リッター
価格:286万6600円