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トヨタ・アクアG(4WD/CVT)

優しい味がする 2021.09.04 試乗記 渡辺 敏史 誕生以来、売れに売れたハイブリッド専用のコンパクトハッチバック「トヨタ・アクア」。期待を胸に試乗した2代目は果たして、これぞトヨタ車というべき堅実さと乗り味を持ち合わせていた。

うかうかしてはいられない

初代アクアが発売されたのは2011年の12月末のこと。関連3社が集まるかたちで2012年に発足したトヨタ自動車東日本の主力生産拠点である東北地方の、震災復興をけん引する役割も担ったそれは、約10年の間に187万台余がつくられたという。ちなみにトヨタ自動車東日本はトヨタにおいて主にBセグメント系の生産拠点に位置づけられており、他に「ヤリス」シリーズや「シエンタ」、「ジャパンタクシー」などを手がけるなど、台数ベースで見れば国内の一大勢力と言っても過言ではないだろう。

その地で引き続き生産される新型アクアは、一部でその存続を危ぶむ声もあった。理由は同じく東北生まれのヤリスの存在だ。ことハイブリッドモデルの燃費がアクアより優位なことはちょい乗りでも一目瞭然。燃費王の座を奪還することは相当に難しいとあらば、販売店統合に伴う車種整理の一環でヤリスに絡め取られちゃうんじゃあないかと推されていたわけである。

が、ふたを開けてみればアクアは次代へとたすきをつないだ。初代は「プリウスC」なる名前も与えられるなど海外市場も十分意識していたが、新型は現状国内専売モデルとなる。月販目標台数は9800台と、全パワートレインを含めて7800台を想定していたヤリスよりも実は数が多い。日本のお客さんにはむしろこっちですよというトヨタの思惑も見え隠れする。

初代のデビューからほぼ10年を経て登場した新型「トヨタ・アクア」。見た目の印象こそ似ているものの、デザインやハイブリッドシステムは一新された。
初代のデビューからほぼ10年を経て登場した新型「トヨタ・アクア」。見た目の印象こそ似ているものの、デザインやハイブリッドシステムは一新された。拡大
ウイング型のインストゥルメントパネルが目を引くインテリア。先代では楕円(だえん)形だったステアリングホイールは円形に変わった。
ウイング型のインストゥルメントパネルが目を引くインテリア。先代では楕円(だえん)形だったステアリングホイールは円形に変わった。拡大
上級ファブリックがあしらわれた、「G」グレードのシート。カラーはブラックのみとなっている。
上級ファブリックがあしらわれた、「G」グレードのシート。カラーはブラックのみとなっている。拡大
クオーターピラーからフェンダーにかけての造形で、「エモーショナルな上質さ」を表現。ランプの形状を含め、リアまわりのデザインは先代との違いが大きい。
クオーターピラーからフェンダーにかけての造形で、「エモーショナルな上質さ」を表現。ランプの形状を含め、リアまわりのデザインは先代との違いが大きい。拡大
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見えないところも着実に進化

新型アクアのアーキテクチャーはTNGAのBセグメント相当車両が用いる「GA-Bプラットフォーム」で、ヤリスに対しては50mmホイールベースが長いことを除けば、足まわりの基本構成やジオメトリーは変わらない。ただしサスはコイル&ダンパー、スタビライザーのレートを見直しており、端的に言えば乗り心地重視の傾向で柔らかくリセッティングされている。装着タイヤは15インチが中心だがヤリスより若干高偏平、つまり外径がわずかに大きいサイズ設定だ。そして今回試乗した4WD車は、リアサスがトーションビームからダブルウイッシュボーンに変更される。

ハイブリッドパワートレインは1.5リッター3気筒エンジンに最高出力80PS、最大トルク141N・mのフロントモーターを組み合わせ、システム総合出力は116PSを発生。4WDモデルは後軸にも6.4PS、52N・mのモーターが配置される。燃費はWLTCモードで33.6~35.8km/リッター、4WDモデルは30.0~30.1km/リッターだ。数値的にはヤリスに対してわずかながら劣っている。

新型アクアのメカニズム面での注目点は、バイポーラ型ニッケル水素電池が採用されていることだ。「双極」を意味するバイポーラ構造はセルごとを隔ててタブでつなぐのではなく一枚の集電体の表裏を正負極化させ面でつなぐため、部材低減と空間優位性を両立しながら扱う電流を大きくできるメリットがある。ちなみに新型アクアの最廉価グレードとなる「B」グレードはリチウムイオン電池を用いるが、理由はバイポーラ構造に伴うニッケル水素電池のコスト増だという。搭載バッテリーの容量はおおむね1kWhで、これは初代と大差はない。

また、ドライブモードが「POWER+」時には従来通りアクセルオン時の加速が活発になることに加えて、アクセルオフ時に回生ブレーキをより強力に働かせる制御が加わったことも新型アクアの新しさのひとつだろう。いわゆるワンペダルドライブ的なロジックを加えたわけだが、トヨタいわく「快感ペダル」。他社のような強力な減速度ではなく、ブレーキランプのつかない0.1G程度の減速に抑えたことで同乗者の不快感を軽減しているという。

試乗車はオプションの15インチアルミホイールを装着。タイヤはブリヂストンの「エコピアEC300+」が組み合わされていた。
試乗車はオプションの15インチアルミホイールを装着。タイヤはブリヂストンの「エコピアEC300+」が組み合わされていた。拡大
ベースとなるエンジンは、先代の1.5リッター直4から1.5リッター直3に移行。ハイブリッドシステムの総出力として116PSを発生する。
ベースとなるエンジンは、先代の1.5リッター直4から1.5リッター直3に移行。ハイブリッドシステムの総出力として116PSを発生する。拡大
立体的なグリルが目を引く新型「アクア」のフロントフェイス。精悍(せいかん)さと親しみやすさを併せ持つとされる。
立体的なグリルが目を引く新型「アクア」のフロントフェイス。精悍(せいかん)さと親しみやすさを併せ持つとされる。拡大
スイッチ類は直感的な使いやすさが追求されている。バイワイヤ式のシフトセレクターのそばには走行モードの選択ボタンが並ぶ。
スイッチ類は直感的な使いやすさが追求されている。バイワイヤ式のシフトセレクターのそばには走行モードの選択ボタンが並ぶ。拡大
「アクアG」(4WD車)のWLTCモード燃費は30.0km/リッター。今回は220kmほどの道のりを試乗し、満タン法で22.3km/リッター、車載の燃費計で28.7km/リッターを記録した。
「アクアG」(4WD車)のWLTCモード燃費は30.0km/リッター。今回は220kmほどの道のりを試乗し、満タン法で22.3km/リッター、車載の燃費計で28.7km/リッターを記録した。拡大

「アクア」ならではの美点はある

試乗車のグレードは中間帯の「G」だったこともあってか、内装のしつらえについては特筆するような上質さは感じなかった。至って中庸で色使いも地味めで心が弾まない。「ホンダ・フィット」くらいの明るさがあってもいいのではないかとも思うが、常々最大公約数の見極めには超人的な冴(さ)えをみせるトヨタゆえ、この位のさじ加減がちょうどいいのだろうか。

とはいえ、必要なものはあるべきところにきちんとあるから、操作にはまったくちゅうちょすることはない。ヤリスと同じ配列ながらおのおのの表示が大きいメーターパネルに、日本が特異な高齢化社会と化していることを実感するが、そんなメーターに見やすいなぁと心を許してしまう54歳の自分にがくぜんとした。

ユーティリティー面においてヤリスとの大きな差異は後席の広さだ。ホイールベースの伸ばし代の大半は前後席間に充てられており、足元にも頭上にも余裕ができた。時折大人を後席に乗せるという方になら、このパッケージだけでアクアを薦めたくなる。

パワートレインの出来栄えはお見事だ。アクセル操作に気遣わずともモーター領域をしっかりと引き出せるだけでなく、加速や登坂でもモーター走行が途切れることはない。このあたりはヤリスとはっきり異なるフィーリングで、バイポーラ電池ならではのパフォーマンスがしっかり感じられる。エンジン稼働後の走りも加速要求に対して“無駄ぼえ”は少ない。現行の「THS」銘柄では屈指のリニアリティーではないかと思う。

メーターパネルは液晶式。4WD車では4輪へのトルク配分も把握できる。
メーターパネルは液晶式。4WD車では4輪へのトルク配分も把握できる。拡大
ホイールベースを50mm延長するなどして、後席における前後シート間距離は20mm拡大された。室内幅は先代に比べ30mm広がっている。
ホイールベースを50mm延長するなどして、後席における前後シート間距離は20mm拡大された。室内幅は先代に比べ30mm広がっている。拡大
5人乗車時の荷室は、先代よりも奥行きが短くなったものの、開口部が広くなり天地方向のゆとりが増すなど、使い勝手は向上している。トノカバーは1万6500円のオプション。
5人乗車時の荷室は、先代よりも奥行きが短くなったものの、開口部が広くなり天地方向のゆとりが増すなど、使い勝手は向上している。トノカバーは1万6500円のオプション。拡大
60:40分割可倒式の後席を倒した状態。前方に若干傾斜が残るものの、ほぼフラットな積載スペースが得られる。
60:40分割可倒式の後席を倒した状態。前方に若干傾斜が残るものの、ほぼフラットな積載スペースが得られる。拡大

ド直球のトヨタ車

ただしPOWER+モードの快感ペダルは減速感がちょっと弱く、快感というほどのメリハリが感じられなかった。ドライブモードは従来通りで、各モードごとの回生ブレーキの強弱は独立して車上で設定できるようにするとか、パドルコントロールにするなどの工夫が加わるとより使いやすくのではないだろうか。なお、四駆については上り坂発進や急加速などで駆動アシストしていることがインジケーターからは伝わってくるが、「日産ノート」のような積極性はなく、あくまで生活四駆的な黒子感でしかない。

走りの面ではハンドリングにぐっとフォーカスしたヤリスに対して、新型アクアはド直球のトヨタ車だった。指1~2本の不感帯からグッとゲインが立ち上がる応答性やモヤモヤしたステアリングインフォメーション、ダイアゴナルを感じさせない旋回姿勢、一線を越えるとクタッと速まるロールスピード……と、マツダ車のように頭を使って乗り始めるとまとまりがないように思えてくる。

初代と違うのはきっちり曲がれる“骨”を持っていることで、結果的にその車台が旋回安定性を担保してくれるが、その過渡をもっとうまくつなげて伝えてくれればいいモノ感が一気に高まるのになぁと残念しきりだ。

でもドライバーに余計な情報を伝えず、過度な刺激を与えない、この緩さこそがトヨタ車の常套(じょうとう)でもある。そしてそのぶん、乗り心地はすこぶる優しい。試乗車は四輪独立サスだったこともあってかリア側からの不快な横揺れもなく、ふわりと上屋を揺らしながら走るサマに、むしろ久々に“らしいクルマ”に乗ったなぁと気持ち悪い薄ら笑いを浮かべてしまったほどだ。

らしからぬ走りっぷり曲がりっぷりに驚かされるばかりだったこのところのトヨタ車に、ちょっと違うなぁと感じていたユーザーがいるとすれば、新型アクアの乗り味はドンピシャかもしれない。まさにもくろみ通り、昔からトヨタに親しむ日本のお客さん向けの味つけに仕上がっていると思う。

(文=渡辺敏史/写真=花村英典/編集=関 顕也)

新型「アクア」においては、燃費性能だけでなく、ドライバーの意のままになる走りのよさが追求されている。
新型「アクア」においては、燃費性能だけでなく、ドライバーの意のままになる走りのよさが追求されている。拡大
先進運転支援システム「Toyota Safety Sense」は全車に標準装備される。写真はその操作スイッチ。
先進運転支援システム「Toyota Safety Sense」は全車に標準装備される。写真はその操作スイッチ。拡大
今回試乗した「G」グレードには、7インチのディスプレイオーディオ(写真)が備わる。より上位のグレードには10.5インチサイズのものが用意される。
今回試乗した「G」グレードには、7インチのディスプレイオーディオ(写真)が備わる。より上位のグレードには10.5インチサイズのものが用意される。拡大
リアエンブレムに見られる通り、「アクア」はハイブリッド専用車。新型では、独立型モーターでリアアクスルを駆動する「E-Four」を採用した4WD車が選べるようになった。
リアエンブレムに見られる通り、「アクア」はハイブリッド専用車。新型では、独立型モーターでリアアクスルを駆動する「E-Four」を採用した4WD車が選べるようになった。拡大
「さらに次の10年を見据えたコンパクトカー」として開発された電動モデル「アクア」。全車、外部給電用のコネクターが備わっている。
「さらに次の10年を見据えたコンパクトカー」として開発された電動モデル「アクア」。全車、外部給電用のコネクターが備わっている。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・アクアG

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4050×1695×1505mm
ホイールベース:2600mm
車重:1230kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
フロントモーター最高出力:80PS(59kW)
フロントモーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
リアモーター最高出力:6.4PS(4.7kW)
リアモーター最大トルク:52N・m(5.3kgf・m)
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ブリヂストン・エコピアEC300+)
燃費:30.0km/リッター(WLTCモード)
価格:242万8000円/テスト車=282万0590円
オプション装備:185/65R15タイヤ&15×6Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(4万9500円)/トヨタチームメイト<アドバンストパーク[シースルービュー機能付きパノラミックビューモニター+周囲静止物パーキングサポートブレーキ]>(9万7900円)/停止時警報機能付きブラインドスポットモニター<BMS>+前後方静止物パーキングサポートブレーキ+後方接近車両パーキングサポートブレーキ(4万6200円)/LEDリアフォグランプ(1万1000円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+ヒーターリアダクト+PTCヒーターなど>(1万9800円) ※以下、販売店オプション LEDフォグランプ(2万9590円)/トノカバー(1万6500円)/ETC2.0ユニット<ビルトイン>ナビキット連動タイプ<光ビーコン機能付き>(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<デラックス>(2万5850円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1896km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:222.7km
使用燃料:10.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:22.3km/リッター(満タン法)/28.7km/リッター(車載燃費計計測値)

トヨタ・アクアG
トヨタ・アクアG拡大
「G」グレードのヘッドランプは2灯式のLEDタイプ(写真)。オプションで、マニュアルレベリング機能付きのBi-Beam LEDヘッドランプに変更できる。
「G」グレードのヘッドランプは2灯式のLEDタイプ(写真)。オプションで、マニュアルレベリング機能付きのBi-Beam LEDヘッドランプに変更できる。拡大
センターコンソールのカップホルダー前方にはUSBコネクターを装備。スライド式のトレーはスマートフォンを置いた際の安定性にも配慮されている。
センターコンソールのカップホルダー前方にはUSBコネクターを装備。スライド式のトレーはスマートフォンを置いた際の安定性にも配慮されている。拡大
荷室のフロア下には、パンク修理キットがおさまる。
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ボディーカラーは試乗車の「ダークブルーマイカメタリック」を含む全8色を用意。幅広いユーザーニーズに対応する。
ボディーカラーは試乗車の「ダークブルーマイカメタリック」を含む全8色を用意。幅広いユーザーニーズに対応する。拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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