進化する優駿「インディアンFTR Rカーボン」を知る 試す
“今”という時代への答え 2021.09.20 今を駆ける鉄馬 Indian FTR R Carbonのすべて<AD> クラシックなスタイリングとモダンなパフォーマンスを併せ持つ「インディアンFTR」シリーズが、2022年モデルに進化。より洗練度を増したインディアンの最新モデルには、“今”という時代に対する、アメリカ100年の名門の回答が宿っていた。時代感が巧みに落とし込まれている
結論から先にお伝えしたい。インディアンFTR Rカーボンは、今最もリアルでジューシーな一台である。撮影日は四捨五入すれば40℃にもなる真夏日だったが、のぼせたわけではない。確かにタンクやタンデムシートはやけどするくらい熱かったが、それでもこのアメリカンビッグツインを冷静に堪能し、時代感も含めてバランスのよい、ライバル不在の一台という結論に至ったのだ。
おそらくメーカーが想定したユーザー層は、ライディングスキルが高く経験豊富なライダーというより、インディアンが描く未来に共感する、例えばITリテラシーが高いなど今日的なセンスを持つ人々ではないかと思われる。実はハイテクブランドであり、技術集団のインディアン。彼らがつくるバイクは、見た目こそクラシックだが中身はひたすらにコンテンポラリーなのだ。
バイクの記事でこんなことを書くと眉をひそめる人もいるかもしれないが、読者の皆さんにおいても、おそらくはパソコンよりスマートフォンでこの記事にたどり着いた人のほうが多いのではないか。プライベートでも仕事でもスマートデバイスが必須となるなど、社会の変化と技術革新は超高速で進んでいる。バイクを見ても、スーパースポーツやビッグデュアルは電子制御ありきで楽しむ高度なツールになり、人と機械がつながることで、かつては到底手なずけられなかったパワーを誰もが扱えるようになった。一方で、排ガス規制のあおりもあって、車体から伝わる感触は生々しいアナログなものからデジタルなフィールへと変化し、人々がバイクに要求するものも、かつてより複雑なものになった。要は、速くてかっこいいだけでは物足りないのだ。
そんな最新のワガママに対するインディアンの回答が、FTR Rカーボンだ。電子制御が安全だけでなく快適性も支えるようになり、バイクそのものも進化して新しいかたちを模索し、快適さと速さはもはや相反するものではなくなった。そうした現代にあって、意外にもインディアンという「アメリカ最古のバイクメーカー」が、時代感を実に巧みにバイクという生々しいプロダクトに落とし込んでいる事実が面白い。
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フラットトラッカーからロードスポーツへ
とはいえ、バイクはバイクだ。2019年に誕生したFTRというバイクそのものの経歴についても触れておきたい。
インディアンが今日のトレンドをけん引する“ネオレトロ”セグメントに参入するうえで、自身の100年にわたる歴史を振り返った結果、フラットトラックレースをヒントにしたのは自然な流れだろう。ダートトラッカーの形をしたネオレトロは、アメリカメーカーの専売特許……とまでは言わないが、彼らが最も得意とするのは事実だ。だが、成り立ちの源流がある北米市場はともかく、グローバル市場が求めたのは、ダートよりアスファルトをうまく走れることだった。
二輪でも四輪でも、欧州ではつづら折りのコーナーが連続するテクニカルなサーキット文化が、北米ではドラッグストリップやオーバルトラックなどに見られる、より直球なレースの文化が根づいている。FTRは北米で生まれたが、2022年モデルは欧州の声を聞いて育てられた。北米より欧州に近い嗜好(しこう)の日本では、朗報といえるだろう。
以前のモデルは前19インチ、後ろ18インチのホイール径だったが、この2022年モデルからは前後ともに17インチというロードスポーツ的な仕様に変更され、タイヤの選択肢が大きく広がったこともメリットでしかない。スタイルは依然としてトラッカーの趣を残しているものの、シート高も840mmから780mmへと一気に下げられた。まだ高めではあるが、細身の1203cc水冷Vツインエンジンとも相まって足つき性は上々だ。これまで、FTRのアピアランスには目を奪われつつも、足つき性の悪さにしり込みしていたライダーにとっては、二の足を踏む理由がなくなったと言っていいだろう。足だけに。
走りだしてみても、交差点ひとつどころか、路肩から離れた瞬間に違いがわかる。車線合流では素直に“向き変え”が済み、小股で軽快に駆け出す様子が実にフレンドリーだ。もともとスロットルを開けるほどに手の内に入るタイプだったが、それがより凝縮されたことがすぐさま感じられる。デザイン重視の味わい系バイクであれば、大径ホイールを大股に転がすのを楽しむところだが、新しいFTRは趣が違う。魅力的な意匠と十分な運動性能を両立してしまったのだから、いよいよ隙なしだ。
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優れたスポーツバイクの手本のような走り
加えて、信号待ちのたびに受ける意外な“おもてなし”にも心をくすぐられた。Vツインエンジンにはアイドリング時にライダー側の気筒が休止する機構が備わっており、その熱が全く伝わってこないのだ。それこそ撮影日のような猛暑でも苦にならない。さらにラジエーターとエンジンの導風板がデザイン以上に仕事をし、走行中の熱もさほど感じられない。空力はなにもダウンフォースだけのものではないのだ。とにかく、ただ快適で心地よい。「洗練」とはこういうときにこそ使いたい表現と感じた次第である。
ちなみに、気筒機構が働く際にはエンジンが実質的にツインからシングルになるため、その鼓動がより増すというボーナスが付いてくる。アメリカンビッグツインならぬ、ビッグシングルも楽しめるというわけだ。
最上級グレードに備わる前後オーリンズサスペンションがもたらすのは、滑らかでしなやかな乗り味と、ライダーの意思に即座に追従する従順さだ。アクセラレーションやブレーキングで狙い通りに車体姿勢をつくれるうえ、パーシャル域でも懐深く堪えてくれる。ストリートの速度域にマッチするよく練られた設定からは、テストライダーのしたり顔が透けて見えるほどだ。バンク角を稼ぐためにエキパイの取り回しまで変更された車体は、軽快でかつよく粘り、優れたスポーツバイクの手本のような挙動を示す。ハンドル、シート、ステップなどのポジションも秀逸で、身長183cmの私でも、窮屈さではなく一体感が得られた。
そして必要とあれば、スマホをBluetoothで車体とペアリングできる。そもそもFTR Rカーボンのメーターはタッチ式で、本当にアメリカ最古のメーカーなのか疑いたくなるほどのモダンぶりだ。つくり手が時代と向き合っている証しと捉えたい。
市街地を抜けて高速道路に乗ったら、リエゾン区間のスロットル操作はクルーズコントロールに任せてしまおう。そして狙いのワインディングロードに到着したら、ライドモードを「スタンダード」から「スポーツ」に切り替えて、一気にパワーを解放する。120頭のアメリカンサラブレッドは、IMU(慣性計測ユニット)が検知したバンク角を加味して介入するトラクションコントロールとコーナリングABSのおかげで、乗り手を選ばない懐深さも併せ持つ。17インチ化された足まわりもあって、新しいFTRはダートトラッカーとスーパースポーツのハイブリッドのようでもある。
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2021年という時代の“リアリティー”
ここで冒頭の表現に戻りたい。FTR Rカーボンとは、今最もリアルでジューシーな一台である。
スマホなどのデバイスを日常的に活用し、タイプCのUSBポートとアダプティブクルーズコントロールを備えたクルマの価値を引き出せるユーザーには、このバイクはバーゲンプライスだといえる。ただ、先進機能は使わなければならないものでもない。
仮に、あなたにとってこの手の装備が不要だったとしよう。それでもいい。それでも面白い。FTRは、Vツインエンジンのゴロゴロした肌触りや野太く乾いたエキゾーストノートがシンプルに気持ちいい。世の中にはユーロ5の排ガス規制をパスするため、牙を抜かれたようなバイクも少なくない。それでも魅力的なモデルが日々生まれているわけだが、必要なときに出せる爪はあっても損はないし、普段それを丸めておく作法を身につけていれば、なおよい。
FTR Rカーボンのエンジンフィールには、今の時代に沿ったリアリティーがある。電子制御スロットルは初心者向けの曖昧さを優先したものではなく、Vツインの鼓動をトラクションに変換しやすいようダイレクトな設定とされている。それでいて、シリンダー内の燃焼をそのままよこすような感覚はなく、一度咀嚼(そしゃく)し、推進力という道具にしてからライダーに手渡すような感触すらある。ダイレクトさにはアナログ感があり、変換される過程にはデジタル感がある。このフィールこそが今欲しいリアルさなのだ。インディアンのエンジンはいつだってグルーヴのあるリズムを刻む。メトロノームのように冷酷なクリックではなく、古いアメリカンの不整脈とも違う。
加えて、指先ひとつでエンジンの特性を変えられるライドモードである。オーケストラの指揮者がタクトを振るうことでリズムを変えるように、タッチパネルでエンジンのツキをマイルドにもピーキーにもできる。FTRのエンジンパワーは600cc級レーサーの後軸出力に近く、実はこのあたりが、トラクションコントロールに頼らずに人が御せる限界なのかもしれない。あまりに楽しく乗りやすいものだから、「もうちょっとあってもいいな」と思わせてくるあたりも憎い。
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かみしめるようにライディングを味わいたい
とにかく巧(うま)くつくられてしまった。そういう印象に尽きる。数字に表れる性能の高さを売りにするのではなく、どこかスマホのように、ハイテクのおかげで可能になった行為自体が恩恵となっている。秘めた魅力より、引き出せる魅力こそがおいしいのだ。
よりパフォーマンスに傾倒する最新のスーパースポーツでは、走らせるという行為にバーチャル感が漂う。使い方が限定されるとはいえ、高性能なマシンに補ってもらい、マシンに“乗せてもらう”感覚。そのおかげでフルバンク近くから全開にできる喜びは格別だが、できることなら、その過程を探りながら、かみしめるようにうまみを引き出したい……。私がFTR Rカーボンを「ジューシー」と表現した理由はこれである。肉汁なのか、果汁なのかは都合のいいほうで解釈していただきたい。どちらにしろ、欲しいときに欲しいぶんだけ、食べ放題だ。
車重は、スーパースポーツ比でプラス30kg、国産ビッグネイキッド比でマイナス20kgほどだろうか。そこに1.2リッターVツイン+IMUの扱いやすさ。このピンポイントなあんばいこそが、スマートでコンテンポラリーなスポーツバイクと私がほれたゆえんである。グランドツーリングではある程度の重量が安定感と質感を与えてくれるから、ややマッチョな点には目をつむろう。
大味すぎないが、ドラマチックなパルス。都会にもマッチするジャストサイズな押しの強さ。本当の意味で使える装備。FTR Rカーボンは、今、最も乗っておくべき一台である。
(文=REI/写真=郡大二郎)
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車両データ
インディアンFTR Rカーボン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2223×830×1295mm
ホイールベース:1525mm
シート高:780mm
車重:217kg(燃料タンクが空の状態)
エンジン:1203cc 水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
トランスミッション:6段MT
最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/6000rpm
タイヤ:(前)120/70ZR17 58W/(後)180/55ZR17 73W(メッツラー・スポルテックM9 RR)
価格:248万8000円
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