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BMW S1000R(6MT)

“速い”だけのマシンにあらず 2021.10.12 試乗記 後藤 武 BMWの擁するリッタークラスのネイキッドスポーツモデル「S1000R」がモデルチェンジ。同社のスーパースポーツと主要コンポーネンツを共用する“ロードスター”は、新型となっていかなる進化を遂げたのか? その走りをリポートする。

高性能だが神経質なところはない

S1000Rは、BMWのスーパースポーツ「S1000RR」のエンジンや車体を使用したスポーツネイキッドだ。2021年モデルはエンジンをS1000RRより5kg軽量化。出力特性やギアレシオもストリート向けに設定している。

初代S1000Rに試乗したときは、その運動性能に驚かされたものだ。S1000RR譲りのエンジンのパフォーマンスが素晴らしかったということもあるのだが、驚いたのがハンドリング。当時のヨーロッパ製スポーツネイキッドは神経質なハンドリングのマシンが多く、うまく操れれば速く走ることができるが、攻め込んだときの操作がシビアで緊張を強いられるものも少なくなかった。

ところがS1000Rは、スポーツ走行に必要なフロント荷重を十分に確保していることもあり、非常に安定していて、躊躇(ちゅうちょ)することなく思い切って攻めることができた。ネイキッド特有の自由度の高さもあり、低中速コーナーの続くサーキットやワインディングロードでは無敵といってもいいような走りを見せてくれたのである。

2021年モデルでもその美点は変わっていない。非常に高性能なモデルでありながら、混んでいる都内など、低い速度域でも扱いにくさは皆無だ。

「BMW S1000R」は、サーキットでも活躍するスーパースポーツと主要コンポーネンツを共有する、高性能なネイキッドスポーツモデルだ。今回紹介する2021年モデルは、2021年5月に日本に導入された。
「BMW S1000R」は、サーキットでも活躍するスーパースポーツと主要コンポーネンツを共有する、高性能なネイキッドスポーツモデルだ。今回紹介する2021年モデルは、2021年5月に日本に導入された。拡大
車両の状態を知らせる6.5インチTFT液晶ディスプレイ。車速やエンジン回転数はもちろん、バンク角や減速度、ラップタイム、トラクションコントロールの作動状況なども表示できる。
車両の状態を知らせる6.5インチTFT液晶ディスプレイ。車速やエンジン回転数はもちろん、バンク角や減速度、ラップタイム、トラクションコントロールの作動状況なども表示できる。拡大
液晶ディスプレイや電子制御サスペンション、ライディングモードセレクターなどの操作は、左側のスイッチボックスと、グリップの基部に備わるリング型のコントローラーで操作する。
液晶ディスプレイや電子制御サスペンション、ライディングモードセレクターなどの操作は、左側のスイッチボックスと、グリップの基部に備わるリング型のコントローラーで操作する。拡大
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懐の深さとどう猛さを併せ持つ

ポジションはスーパースポーツほどではないにしても、リラックスできる感じではない。アップハンドルではあるが前傾はきつめ。シート高はテスター(身長178cm)の場合でやっと両足のカカトがつくくらいだ。スポーツ走行を考慮しているから、このポジションはしかたないところだが、長く乗っていて疲れてくるほどスパルタンでもない。

エンジンはスポーツバイクらしくフライホイールマスが小さめ。空吹かしをするとシュンシュンと回転が上がる。しかし気難しさはない。エンジン自体のトルクはあるのでスタートで気を使うことはないし、低速走行でもスムーズかつ力強い。3000rpm付近から細かな振動が出て、回転が上がるに従って強くなっていくけれど、そもそもが快適な走りを求めるようなマシンではないので、特に気にはならない。

モードセレクターを「ロード」にして走りだしてみると、中速域のトルクを膨らませたエンジンは3000rpmぐらいから十分な駆動力を発生してくれる。最もアグレッシブな「ダイナミックプロ」ではこれがさらに力強くなり、3000rpmを超えていれば、スロットルを開けた瞬間、自由自在に加速していく。高回転まで引っ張ってみると8000rpmからパワーが盛り上がって、周囲の空気をつんざくような排気音を発しながら突き進んでいく。

ただ、このモードで走った場合、スロットルを戻したときにアフターファイアーも出てしまうため(ライダーによってはテンションが上がるだろうが)、周囲に他のクルマが走っているような状況では使用を控えたほうが無難だろう。逆にモードを「レイン」にすると、高回転でのパワーが若干抑えられ、中速域のピックアップも穏やかになる感じだ。

現行型「S1000RR」をベースとした車体は、従来型よりエンジンに大きな負荷支持機能を持たせることで、フレームのスリム化を実現。車両重量は199kg(DIN空車時)で、カーボンホイールを含む「Mパッケージ」を採用すると194kgに軽減できる。
現行型「S1000RR」をベースとした車体は、従来型よりエンジンに大きな負荷支持機能を持たせることで、フレームのスリム化を実現。車両重量は199kg(DIN空車時)で、カーボンホイールを含む「Mパッケージ」を採用すると194kgに軽減できる。拡大
シート高は830mmが標準で、810mmのローシートも用意される。
シート高は830mmが標準で、810mmのローシートも用意される。拡大
エンジンはベースである「S1000RR」のユニットより5kgの軽量化を果たしているほか、より中回転域でのトルクを強化。トランスミッションは4~6速をロングレシオ化することで、ストリートでの快適性を高めている。
エンジンはベースである「S1000RR」のユニットより5kgの軽量化を果たしているほか、より中回転域でのトルクを強化。トランスミッションは4~6速をロングレシオ化することで、ストリートでの快適性を高めている。拡大
標準仕様の「S1000R」に装備されるライディングモードセレクターの走行モードは「レイン」「ロード」「ダイナミック」の3種類。オプションの「プレミアムライン」を選択すると、より細かな設定が可能な「ライディングモードプロ」が装備される。
標準仕様の「S1000R」に装備されるライディングモードセレクターの走行モードは「レイン」「ロード」「ダイナミック」の3種類。オプションの「プレミアムライン」を選択すると、より細かな設定が可能な「ライディングモードプロ」が装備される。拡大

ストリートでも快適で楽しい

このエンジン、個人的にとても気に入っているのがフィーリングだ。スポーツバイクは効率を追求しているがゆえに無機質な回り方をするものもあるのだが、S1000Rの場合は、昔の空冷エンジン的な荒々しさがある。だからストリートを走っていてもとても楽しいのである。

ハンドリングもそれに通じるところがあり、高性能を追求したスポーツバイクであるにもかかわらず、S1000Rはストリートでも軽快でとても乗りやすい。フロントまわりに安定感があり、低速でバンクさせたときにフロントに強く舵角がついてしまうこともない。体重移動せず、シートにドッカリと腰を下ろした状態でも気持ちよく旋回してくれる。単に素直というだけでなく、ストリートを軽快に走るのが楽しくなるようなハンドリングだ。

ウインカーのオートキャンセルも精度が高く、消し忘れ状態で走り続けることは皆無。シフターの作動もアップ/ダウンともに正確で、回転数に関係なく気持ちよく変速ができる。電子制御サスペンションのおかげで、通常の走行では硬さを感じることもなく、コーナーではしっかり踏ん張ってくれる。今回走ったのはストリートのみだが、性能には定評のあるマルゾッキのサスだから、ワインディングやサーキットでもいい仕事をしてくれることだろう。

足まわりには、アルミのフレックスフレームとつり下げ式スイングアームを用いた新開発の軽量サスペンションを採用。アームにストラットを直接連結することで、レスポンスの向上を図っている。
足まわりには、アルミのフレックスフレームとつり下げ式スイングアームを用いた新開発の軽量サスペンションを採用。アームにストラットを直接連結することで、レスポンスの向上を図っている。拡大
「DDC」(電子制御サスペンション)は「プレミアムライン」に含まれるオプション装備。走行モードとは別に減衰特性の切り替えが可能だ。
「DDC」(電子制御サスペンション)は「プレミアムライン」に含まれるオプション装備。走行モードとは別に減衰特性の切り替えが可能だ。拡大
「ギアシフトアシスタントプロ」と呼ばれるクイックシフターは、シフトアップ/ダウンの両方で利用可能。これもセットオプションの「プレミアムライン」に含まれる。
「ギアシフトアシスタントプロ」と呼ばれるクイックシフターは、シフトアップ/ダウンの両方で利用可能。これもセットオプションの「プレミアムライン」に含まれる。拡大
ブレーキは前がφ320mmのダブルディスクと4ピストンキャリパーの、後ろがφ220mmのディスクとシングルピストンキャリパーの組み合わせ。バンクしながらブレーキをかける際などの安全性を高める「ABS Pro」が装備される。
ブレーキは前がφ320mmのダブルディスクと4ピストンキャリパーの、後ろがφ220mmのディスクとシングルピストンキャリパーの組み合わせ。バンクしながらブレーキをかける際などの安全性を高める「ABS Pro」が装備される。拡大
マフラーにはアクラポヴィッチ製のチタニウムスポーツサイレンサーを採用。軽量化とスポーティーなサウンドを実現している。
マフラーにはアクラポヴィッチ製のチタニウムスポーツサイレンサーを採用。軽量化とスポーティーなサウンドを実現している。拡大
新しくなった「S1000R」は、幅広いシーンでライディングを楽しめる、高性能でありながらも懐の深いモデルに仕上がっていた。
新しくなった「S1000R」は、幅広いシーンでライディングを楽しめる、高性能でありながらも懐の深いモデルに仕上がっていた。拡大

気になる部分もなくはないが

唯一気になったのはブレーキだ。普通に走っているときにブレーキを使用すると、とてもダイレクトで握り始めから強い減速力を発揮するのだが、ABSの利き具合をテストしてみようと60km/hあたりから(あるいはもう少し低速でも)ブレーキレバーを思い切り握ってみると、早いタイミングでABSが作動しつつ、予想していたより減速力が弱いように感じられた。そのままレバーを握り続けていると、停止直前になって急速に減速力が立ち上がり、リアタイヤが浮き上がりそうな感じで停止する。路面状況が違う場所で何度かテストしてみたが、変化はなかった。

パワーモードなどを変更しても、こうしたABSの特性は変化していない様子。減速時の車体姿勢は安定しているが、もう少しフルブレーキング時の減速力を高めてもいいのではないかと思う。ただ、これはあくまでも感覚的なものなので、機会があったら制動距離などを測定するテストもしてみたいものである。

総合的にみて、S1000Rは非常に魅力的なスポーツネイキッドである。スパルタンな性格でありながら、単に速さを追求しているのではなく、あらゆるステージで走る楽しさを感じさせてくれる。シーンを問わず元気に走りたいライダーには、うってつけのマシンである。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

BMW S1000R
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2075×815×1050mm
ホイールベース:1450mm
シート高:830mm
重量:199kg(DIN空車時)/204kg(日本国内国土交通省届出値)
エンジン:999cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:165PS(74kW)/1万1000rpm
最大トルク:114N・m(11.6kgf・m)/9250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:16.12km/リッター(WMTCモード)
価格:178万円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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